「淘汰」には必ず「絶滅」を伴う

 先述のごとく、血縁淘汰説は「個体淘汰」、「種淘汰」いずれの自然淘汰も矛盾することなく説明できる、まさに「万能」の理論なのである。それにもかかわらず、先述のとおり現実の自然淘汰では個体淘汰が圧倒的に優勢である。

 この理由は、自然淘汰のメカニズムを考えてみるとすぐにわかる。つまり、実は「自然淘汰」とは環境に適応できない遺伝子を排除することなのである。したがって、「自然淘汰」自体は何ら新しい遺伝子を生み出さないのである。つまり、「自然淘汰」の役割は与えられた環境において劣っている生物を絶滅させることである。したがって、4章で述べたとおり「進化」なる現象は「突然変異」と「自然淘汰」という2つの現象がうまく協力しあってはじめて起こりうるものなのである。

 したがって、以上のことから「個体」など小さな集団の絶滅(個体の場合には「死亡」=「絶滅」となる)には時間がかからないが、一方「種」など大きな集団の絶滅には長い時間を要することがわかる。このことは小さな集団に対する自然淘汰には時間がかからないが、大きな集団に対する自然淘汰には時間がかかることを意味しているのである。以上のことが、現実の自然淘汰において個体淘汰がそのほとんどを占めている理由である。

 なお、(このことについては7章で詳しく述べる)一般に大きな生物ほどその成長、成熟や老化には長い時間を要するのである。また、4章で述べたとおり、「個体」の変化(「成長」などがその例である)は「種」の変化(「進化」のこと)の再現となっていることが多いのである(このことに関しては通常「個体発生は進化の再現である」なる表現がされている。)。この理由は、当然のことながら「個体」、「種」いずれにおいてもそれが大きな変化になるほどその変化には長い時間を要するからである。

実はわれわれは欠陥生物である

 ところで、地球上の生物(われわれももちろんその一員である)は大きく分けて「独立栄養生物」(光エネルギーを利用して自分で有機物を合成できる生物。植物の大部分がこれに当たる。)と「従属栄養生物」(自分で有機物を合成できないので生存するためには他の生物から有機物を奪う必要がある生物。動物すべてと植物の一部がこれに当たる。)に分類されるのである。

 しかも、当然のことながら独立栄養生物のほうが先にこの地球上に誕生したのである。そして、あたりまえではあるがこの「独立栄養生物」が増えるとこの生物が合成した有機物も増加する。そして、この有機物がある程度まで増えるとついに自分で有機物を合成できなくてもその生物が生存できるようになり、まさにこのときに「従属栄養生物」なる生物が誕生したのである。

 ここで少し考えてみると、あたりまえではあるが独立栄養生物は従属栄養生物よりもその生存能力がはるかに高いことがわかる。なぜなら先述のとおり独立栄養生物は太陽が存在する限り自力で有機物を合成できるので従属栄養生物よりもはるかに餓死しにくいからである。それにもかかわらず、実際地球上では動物のほとんどすべてが餓死しやすい従属栄養生物である。

 この理由は、先述のとおり自然淘汰はまず近い将来の利益を優先し、その結果遠い将来の利益は後回しにされる傾向があるからである。ここで考えてみると、御存知のとおり従属栄養生物は独立栄養生物が存在してはじめてその生存が可能となるが、これを逆に考えると独立栄養生物が十分な数だけ存在しているときには独立栄養生物も従属栄養生物もその餓死しにくさ(すなわち生存能力)はほとんど変わらないことになる。

 以上のことから、独立栄養生物が従属栄養生物よりも決定的に有利になるのは独立栄養生物が絶滅したときだけなのである。そして、独立栄養生物が絶滅することは遠い将来には起こりうることかも知れないが(もちろんそのときにはとっくに従属栄養生物が絶滅している)、近い将来に限って言えばほぼ絶対に起こらないことなのである。

 したがって、従属栄養生物が独立栄養生物よりも劣っているからと言ってそれが自然淘汰の結果排除されるとは到底考えれないのである。この事実を他の自然淘汰についても当てはめてみると、地球上に誕生した生物には光合成できない動物や雌をめぐって争いばかりやっている雄など数多くの欠陥が存在しているが、このことはこのような自然淘汰のしくみを考えれば仕方のないことなのである。

 さらに重要なことは、地球外生物(地球以外の天体で誕生、進化した生物をこう呼ぶ)は光合成できる動物(このような生物を「光合成動物」と呼ぶ)など実際に地球上で誕生、進化した生物よりもその生存能力がはるかに高い生物である可能性がきわめて高いのである。しかも、この高い生存能力を備えた「地球外生物」は他の天体の地球外生物との生存競争を勝ち抜き、その結果幾多となく他の地球外生物を滅ぼした結果誕生したのである。したがって、先述のとおりわれわれは宇宙レベルではきわめて生存能力が低いのでもし将来地球外生物と遭遇した場合、その地球外生物との生存競争に敗れて絶滅させられる可能性がきわめて高いのである。

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