科学の発展を阻んだ元凶…宗教

 「魂」の存在が考え出されたとき以来ずっと「魂」は永久不滅の「存在」であると信じられてきた。このように「魂」が不滅の「存在」であると考えられてきた背景にはわれわれが永遠不滅のものを信仰する癖があるからである。その例として、われわれは霊長類から進化して人になったときから「神」の存在を信じてきたのである。これが言うまでもなく「宗教」のル−ツなのである。

 そして、この「宗教」はわれわれの合理的なものの見方、考え方を妨げ、科学の発展を阻害してきた「元凶」にもなったというのもまぎれもない事実なのである。例えば、ダ−ウィンが唱えた「進化論」は全人類は「アダム」と「イブ」の子孫であるというキリスト教の教義と真っ向から対立し、そのために長い間「進化論」は科学者でさえ受け入れられなかった。また、生物の進化の最大の「原動力」となっている生存競争についても、道徳や倫理を重んじ、「共生」をすすめ「競争」をタブ−視する多数の実在する「宗教」の「教義」によって科学者の間でも長い間「生存競争」について語ることは「タブ−」とされてきたのである。

 さらに、目を宇宙に向けるとわれわれは夜空に見える天体を意識したとき以来16世紀ごろまでずっと地球が宇宙の中心にあり、この地球は宇宙空間において静止し、太陽系外のすべての天体は地球のまわりを1恒星日(その長さは23時間56分であり、1太陽日(24時間)とは異なっている)に1回の周期で公転していると信じていたのである。この間違った考えは、アリストテレスが考え出した「物体に力を加えないときにはその物体は静止し、物体に力を加えたときにだけその物体は加えた力に比例する速度で運動する」という間違った物理学の理論によって助長されてきたのである。この(間違った)理論から宇宙にはまったく力が働かない「絶対静止系」たるものが存在し、地球は実はこの「絶対静止系」であるというとんでもない考えが導き出され、当時のすべての人々はそれをまったく疑う余地もなく信じたのである。

 その後、惑星が「順行」、「逆行」を繰り返す複雑な運動をすることは地球が太陽のまわりを回っていると考えたほうがずっと簡単に説明できることが明らかとなり、さらには太陽や太陽系外の目に見えるほとんどの天体は地球よりもずっと大きいことがわかり、したがって地球が宇宙の中心にあって静止していると考えると都合が悪いことが火を見るよりも明らかとなったのである。さらにはガリレイなどによって「慣性系」の存在が実証され、物体に力が働かないときにはその物体は「静止」するのではなく等速度運動をすることが判明し、それと同時に「絶対静止系」は存在しないことが明らかとなったのである。こうした状況にもかかわらず「地球」を特別な存在と考える「天動説」という名の一種の「宗教」によって17世紀まで「地球」が運動していることを語るのは「タブ−」とされ、ガリレイのように公の場で「地球が運動している」と語った者は「宗教裁判」にまでかけられたのである。

 別の例として、20世紀に入るまで誰一人として宇宙が「膨張」ないし「収縮」していると考える者は存在しなかったことがあげられる。この理由は、われわれは最近までずっと「時間」は「空間」や「物質」などの存在とは関係なく独立して存在すると信じてきたからである。したがって、「宇宙」が膨張や収縮していると認めることはすなわち時間に「始まり」や「終わり」があることを認めることを意味し、したがってこの考えは「時間」は空間や物質などに支配されているという考えにつながってゆくからである。しかし、17世紀になって万有引力の性質が明らかになるにつれ、万有引力はその「暴走」する性質がゆえに「膨張」も「収縮」もしない「静的」な宇宙の存在を認めないことが分かってきたにもかかわらず、驚くことにわれわれは20世紀始めまで宇宙が「膨張」も「収縮」もしていないことを信じて疑わなかったのである。

 このもう一つの理由は、先述のとおりわれわれには永久不滅のものの存在を信じるという「癖」が存在するからである。すなわち、われわれ生物には「不老」と「長寿」を願い、「死」を何よりも恐れるという一種の「本能」が備わっているのである。したがって本書のテ−マである「魂」の存在を信じることはわれわれが不老不死であることを信じることにつながるため、不死身の存在である「魂」が「死」が絶対に避けることのできない宿命であるわれわれ生物にとって大変魅力的に感じられ、そのためにわれわれは「魂」たるものを信じるようになったのである。

 そして、われわれに備わっているこのような「本能」や「癖」(余談ではあるが、「癖」は「本能」の一種なのである)はさらに発展して、その結果われわれは絶対的な「存在」であるとわれわれが考えている「神」を信仰する「宗教」たるものを生み出したのである。

 しかし、宇宙が膨張していることが明らかになり、その結論として「時間」にまで「始まり」があることがわかった現在においては、「時間」そのものがわれわれの住んでいる「宇宙」の属性であると考えるより他ないのである。したがって、4章で詳しく述べるとおり「魂」など「不滅」なものの存在を考えるには、「宇宙」そのものが複数個存在し(したがって、時間も宇宙の数だけ存在することになる)、さらにはこれらの「宇宙」自身も誕生したり消滅し、そして「魂」など「不滅」なものは「宇宙」が消滅するときに新たに誕生する別の宇宙に移動することが可能である、というふうに物理学の理論自体を改めねばならないのである。

「保存」されることが物理現象最大の特徴

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