現在、世界各地で使われている天体暦には合、衝、矩、留などの時刻に黄経の合、衝、矩、留を採用しているものと赤経の合、衝、矩、留を採用しているものが混在している。そして、昔は天体暦には合、衝、矩、留の時刻には専ら黄経の合、衝、矩、留が採用されていたが、近年ではこれにかわって赤経の合、衝、矩、留が用いられることが多くなっている。

 ここで黄道座標系(黄経、黄緯の組み合わせで天体の位置を表す)と赤道座標系(赤経、赤緯の組み合わせで天体の位置を表す)の長所、欠点をまとめると、

 黄道座標系

   ・       太陽の黄緯がつねにとなるようにこの座標系は定義されているので惑星の黄緯も±10°以内に収まり、したがって惑星の運動を記述するのに適している。

   ・        この座標系から直接地球から見た天体の高度、方位角を求めることができず、したがって観測にこの座標系を用いるのは都合が悪い。

 赤道座標系

   ・   直接地球から見た天体の高度、方位角を求めることができ、したがって地上からの観測にはこの座標系のほうが適している。

   ・   太陽の黄緯が±24°の範囲で変化するので惑星の黄緯も±30°の範囲で変化し、したがって惑星の運動を記述するのには適していない。

 ところで、天体暦をみればすぐに気づくことであるが惑星と太陽の合(両天体の黄経、赤経が等しくなること)や衝(両天体の黄経、赤経の差が180°になること)の時刻についてその黄経によるものと赤経によるものが一致せず、最大で23日ずれることもあるが、この理由は言うまでもなく黄経(赤経)が等しくても赤経(黄経)も同時に等しくなることはほとんどないからである。

 この理由は、黄道座標系(赤道座標系)を赤道座標系(黄道座標系)に変換するときにその黄緯(赤緯)成分が赤緯(黄緯)成分のみならず黄緯(赤緯)成分にも変換されるためであり、このことと惑星の軌道面が互いに傾いていることが複合して2天体の黄経と赤経が同時に等しくならないことが生ずるのである。

 ところで、このように2つの座標系の間で変換を行うとき黄緯(赤緯)成分が黄緯(赤緯)成分にも変換される理由は、言うまでもなく天球上で黄道と赤道が23°あまり傾いているためである。そして、この事実は慣性系によって同時刻が異なるという「同時刻の相対性」とまったく同じ原理で説明できる。(同時刻の相対性が生じる原因もやはりローレンツ変換によってそのベクトルの空間(時間)成分が空間(時間)成分のみならず時間(空間)成分にも変換されるためである。)

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