「価値」を表すものさし…貨幣
貨幣には大きく分けて@物の交換の媒体となるA物の代わりにその価値を貯蔵、保存するB貨幣の量が物の価値をはかるものさしとなる、以上3つの役目がある。そのうち@、Aについては貨幣の「財産」としての性質であり、一方Bについては「文化」としての性質である。
その中でも特に貨幣が物の価値をはかるものさしであることはあたりまえすぎて意外に気付かないことであるが、この性質は上にあげた貨幣の主要な性質の中でも特に重要なものである。なぜなら、この事実は貨幣制度が一種の「単位系」であることを物語っているからである。つまり、貨幣の量とその価値が比例するがゆえにそれが価値を示す尺度となるのである。
この理由は、言うまでもなく「価値」なるものが「数量」の一種であり、またこの「数量」が「意味」の一種だからである。したがって、「貨幣」は物事を表す「ものさし」という意味で「言語」に大変よく似ているのである。
また、この世に「通貨」をふくむ「単位系」も「言語」と同じく複数個存在している。そして、異なる単位系同士の変換には次のとおり単位にある係数(これを「換算係数」と呼ぶ)をかければよいのである。たとえば、1フィートは約0.3048mに相当するが、このことは同時にフィートをメートルに換算するときの換算係数が約0.3048であることをも示しているのである。そして、通貨についてはこの換算係数は「為替レート」と呼ばれている(したがって、為替レートは換算係数の一種である。)。
ところで、以上のことから「換算」は「翻訳」の一種であることがわかる。つまり、「翻訳」とはすなわち異なる言語同士の変換のことであり、またこの「翻訳」によって変化しないものが存在するのである。この変化しないものとはもちろん「意味」のことである。そして、やはり「換算」によって変化しないものが存在し、それはもちろん「量」である。
貴金属が「貨幣」として用いられる理由
ところで、貨幣のルーツは次のとおりであったと考えられている。つまり、貨幣が発明される以前は人々は物同士を直接交換しあって(これを「物々交換」と呼ぶ)生計を立てていたのであった。例をあげると、内陸では野菜や穀物は余るほど取れるがその反面魚介類はまったく取れないのである。逆に、海岸では魚介類は余るほど取れるが野菜や穀物は不足している。したがって、内陸に住む人々は自分のところで余っている野菜や穀物を海岸に住む人々に与え、その代償として海岸に住む人々からそこで余っている魚介類をもらうことを思いついたのであった。これが「物々交換」の起こりである。
しかし、この「物々交換」には少なからぬ問題点があった。つまり、野菜も穀物も魚介類もすべて保存がきかず、すぐに腐ってしまうのである。このとき偶然土の中から黄金色に輝く物質が発見された。もちろんこの物質とは他ならぬ「金」である。そのすぐ後にこの「金」なる物質は何年保管しても絶対に錆びたり腐ったりしないことが明らかとなったのである。そこで、食料は取れないがその代わりに「金」が豊富に取れる地方の人々は食料が豊富に取れる地方の人々に食料と「金」を交換しあうことを提案し、その後直ちににそれを実行したのであった。
その後、食料との交換には「金」以外にも「銀」などの貴金属やさらにはダイヤモンドなどの宝石が用いられるようになり、みなさんもご存知のとおりこのように貴金属や宝石を物の交換の媒体として使うことが「貨幣」というシステムの起源となったのである。その後、貴金属を決まった量の「塊」に分割し、その「塊」の数で物の価値を表すと貴金属の量が一目でわかり、さらには物の価値も一目でわかるようになることが明らかとなり、これが現在でも用いられている「硬貨」のルーツとなった。なお、この時点でダイヤモンドなどは鋳造して一定の大きさの塊にすることが不可能であることが明らかとなり、その後専ら鋳造可能な貴金属が物の交換の媒体として用いられるようになったのである。
このように、「貨幣」なる役目をするものにはまず第一に保存がきくことが求められるのである。なぜなら、先述のとおり「貨幣」には「価値の保存」なる役目があり、したがってその「貨幣」の材科は保存できる物質でなければならぬからである。
「硬貨」から「紙幣」へ・・・「通貨危機」の起こり
その後、上にあげた貴金属の塊には「硬貨」なる名称が与えられ、さらには政府がこの「硬貨」を鋳造、発行し、さらにはそれを管理するようになったのである。ここで地球上に「金」をはじめとする貴金属がわずかしか存在しないことが通貨を発行している政府にとって実に不都合なこととなった。つまり、「金」などの貴金属の存在量が限られているので政府は通貨を発行したいときにそれが発行できないという弊害が生したのである。
それで、政府は「紙幣」なるものを発明し、さらにはそれを印刷、発行して民衆に「硬貨」の代わりとして使うことをすすめたのであった。また、この「紙幣」を一定のレートで金貨や銀貨と交換できるようにし、これが政府が自ら貨幣の価値を決める、いわゆる「管理通貨制度」の起こりとなった。なお、このように金や銀などによる価値の裏づけがある紙幣を「兌換紙幣」と呼び、金の量をもとにすべての物の価値を決める方法を「金本位制」と呼ぶ。同様に、銀の量をもとに物の価値を決める方法を「銀本位制」と呼び、「金」と「銀」などのように複数の物資を用いて価値を定義する方法を「複本位制」と呼ぶ。
その後、政府は金などによる価値の裏づけのない紙幣(「不換紙幣」と呼ぶ)を発行するようになり、さらには「硬貨」自体が金などの「貴金属」ではなく銅や亜鉛などの「卑金属」でつくられるようになったのであった。このとき「硬貨」が「本位貨幣」から「補助貨幣」へとその地位を転落させ、それから現在までずっと「紙幣」が「貨幣」の主流となっているのである。
このようにして、政府は貴金属の存在量に関係なく自由に貨幣を発行するすべを身につけたのであった。