2004年9月25日(土)。
Polaris
” Tour 2004 ”cosmos” ”
@日比谷野外大音楽堂


入口でお客さん全員に配られたシャボン玉がふわふわと宙に浮かび風に舞う中始まったライブ。 1曲目の「Slow Motion」から感覚をすっかり持っていかれてしまった。 イントロのギターのミニマルなフレーズに、モコモコと湧き上がってくる低音が効きまくったベースと、宙に抜けていきそうかつしっかりとした軽い音のスネアが特徴的なドラムが加わった時
「今まで見たポラリスの中でダントツでいいかも!」
と、フライング気味に感じてしまったのだ。 でも、しばらくして、1音1音が大切に鳴らされ無理なく重なり合い出来上がっていく空気が、体に染み込み包み込まれるのに、早くもグッときたのは確かで。 それは、丁寧に丁寧に歌われる言葉と、それに共鳴する丁寧な丁寧な楽器の音達が作り出した、幸せな音楽だった。 続く「季節」は、ジワジワ広がっていくような質感と、サクサク進んでいくような質感が混ざり合い気持ち良過ぎ。 そして、その流れの中に表れるブレイクを挟んでの再度サビに上昇する一瞬の語句に変換できない「切ないのに優しい」感覚といったら! 「絶対今まで見た中でダントツかも!」というおぼろげな予想は最初の2曲にして、すでに確信に変わった。 というか、
「もう、これだけで満足。」
といっても過言じゃなかったのに、ポラリスでトップクラスに盛り上がる曲でサポートの郁子ちゃん(クラムボン)の鍵盤とコーラスがカワイイ「深呼吸」。 深くダビーな音像に絡むなめらかなストリングスに溺れそうな「甘い海と記憶」。 ライブでは初めて観れたドラムの坂田さんがヴォーカルをとる角のない繊細な電子音が織り成す「あかつき」。 という、3連発! こうなってくると、音に身をゆだねる以外には何にも要らない。 知らない間に踊っていたり、ただただ聴き入ったり。
「なんで、こんなに優しい音を鳴らせるんだろ?」
心地よい響きの連続は、心配や杞憂でこんがらがったストレスを解いていってくれるみたいだった。

しかし、ここまではまだまだ序の口であった。 ドラム以外のメンバーがステージから居なくなったと思ったら、ステージ中央のセットが回り出し大歓声が起こった。 それもそのはず、ここでスペシャルゲストの茂木さん登場。 そして、坂田さん・サポートギターの宮田さん・茂木さんの3人で、「Twin Drums」のトリプルヴァージョン! 「Triple Drums」を披露。 これがすさまじかった。 全員技術的に巧いいうのも、もちろんあるんだろうけど、3つのドラムが狂ったように響き渡る様は、”圧巻”としか言えない衝撃で。 多重録音された緻密な音響作品を生音で再現しているかのような、呼応したりぶつかり合いながらどんどん高揚していく、リズムの万華鏡。 しかも、この状況の中再び他のメンバーが戻ってきて、トリプルドラムのまま「瞬間」! 元々ポラリスの中では極端にアッパーで、リズムに重点を置いたトランシーな曲を、そんな編成で奏でるんだから、ヤバ過ぎであるのは必死。 炸裂する生ドラムンベースに浮遊する唄が乗るキラキラした空間。 そして、「瞬間」は全然しんみりする曲じゃないのに(どちらかというと明らかに熱狂に持っていくタイプの類)、気付いたら涙が出かけてた。 感動的だとかいったものとは離れた、何か小さな奇跡めいたものを聴いているみたいで、訳も分からないのに何度も泣きそうになってしまった。 「瞬間」が終わった後、茂木さんがヴォーカルのオオヤくんやベースの柏原さんと握手していく様子に大きな拍手が送られていたが、その時にもナゼかグッときた。 それは、 ” フィッシュマンズのリズム隊が復活する! ” という売り文句っぽいものから生じる感傷ではないと思う。 素晴らしい瞬間が目の前で鳴っていた事実に心を揺さぶられたんだと思う。 直後のメンバー紹介で郁子ちゃんがこう言っていた。 「何だか、さっき(演奏してる時に)泣きそうになっちゃって。」

軽い放心状態になっている中、「太平洋」〜「檸檬」〜「コスタリカ」のブラジリアンリズムタイムに突入。 色んな感覚を整理できないまま、ひたすらワクワクしっぱなしの一時へ。 「太平洋」は踊り出したくなる軽快さの中にも、しっかりした音の重みを感じる、CDより何倍も素敵な出来になっていたし、生ストリングスを取り入れた「檸檬」は、
「あー、やっぱりいい曲だなぁ。」
なんて、しみじみ。 特に「コスタリカ」は途中の坂田師匠のドラムソロ(何時間でも聴いていたい!)により、ラディカルに ” 楽しい ” と感じさせてくれる力が生まれていた。 加えて、クールダウンしたかに思えた「流星」ではハナレグミの永積くんがいきなりステージに登場して、さらに大盛り上がり。 コーラスの大合唱の大合唱の末、
「この時間が終わってほしくない!」
そう今までにないほどに夢中になっている自分がいた。

と、盛りだくさんの充実この上ないライブが展開されてきたわけなのだけど、今回、最も印象に残ったのは、淡々と音を刻むバンドの原点である本編最後の「光と影」だった。 この曲の中にある、ゆっくりゆっくりと模索しながら歩いていく、大らかな雰囲気に、またしても涙。
「時間が止まってるんじゃない!?」
周りの音が止み、ギターだけの弾き語りになった時の、あの世界が終わってしまっても穏やかであり続けられるような感覚は一体何だ? 文字になんか絶対に出来ない、でも、明らかにそれがココにあったのだ。 ” 日常の何処にでもあると錯覚していて気付けない穏やかな何か ” が。 二度目の放心状態を終え、アンコールは「コスモス」。 一面に飛び交うシャボン玉の模様の元で、静かに周囲の虫の鳴き声や、車が走る音に同化していく音楽。 最後に、サポートを一切入れないでポラリスのメンバー3人だけで「星と願うなら」。 意外にも音数が一番少ないこの曲が、一番音が豊かに聴こえた。 それは、音数が簡素である分隙間が多分にでき、人為的に鳴らされている音と、自然に鳴っている音が分け隔てなく融合していったかもかもしれない。 音楽というのは、人が恣意的に作るものであり、完璧に自然から発生する音楽なんてものはない。 しかし、” 音楽 ” はいつでもどこでも鳴っているとも思う。 演奏しなくても歌わなくても再生ボタンを押さなくても、耳を傾ければどこかで音が鳴っていて、それらも、やはり音楽以上でも音楽以下でもないものじゃなかろうか。 ポラリスは ” この国の何でもない日々にある ” ことを音にして表現し続けていると思う。 そんなポラリスの音楽は、時にささやかな驚きをくれ、世界が音楽で溢れていることをそっと教えてくれる。 その感触は、” 日常の何処にでもあると錯覚していて気付けない穏やかな何か ” に触れている感じで、優しくて、何だか嬉しくなってしまう。 ” 気付くはずでしょ・・・ また会えた ” 「星と願うなら」のこの一節が、空っぽのバケツを埋めてくように、深い深い素敵な余韻を残してくれた。

終焉の挨拶でオオヤくんは何回も「最高だよ!最高すぎるよ!」と言っていたけど、本当にそうだ。
「最高!!」
これ以外の言葉が見つからないよ。


− セットリスト −
 @ Slow Motion
 A .季節
 B 深呼吸
 C 甘い海と記憶
 D あかつき
 E Triple Drums
 F 瞬間
 G 太平洋
 H .檸檬
 I コスタリカ
 J 流星
 K 光と影
 (EC)
 L コスモス
 M 星と願うなら