2004年7月13日(火)。
OWEN / toe / MARITIME
@心斎橋クラブクアトロ


OWEN
「人から音楽が発せられるということ。」
音楽って、どんどん進化していっていますよね?
それは革新的という意味でもあるけど、レコーディングや演奏の充実や楽曲の複雑化といった技術的なクオリティの高さの発展という意味でも。
”優れた音質で、優れた演奏技量で”音源を残すということが、1つのプロフェッショナルだとされているトコがある気がするんです。
ライブに関しても”エンターテイメントとしてすごい。パフォーマンスがすごい。演奏がすごい。”ものが素晴らしい基準になっているとも思ったり。
でも、それって1つのモノサシでしかないし、いくら優れた環境下や技術で鳴らされても、心に響かない音もある。 むしろ、クリーンに計算され尽くして構築されすぎたものは、ある種の生々しさという魅力を失ってはいない?
Joan Of ArcやOWLSとして有名なキンセラ兄弟の弟、マイク・キンセラのソロユニットOWEN。 彼は、ステージにひっそりとやってきて、自分の家にいて何気なくギターを奏でて唄を歌うかの様に弾き語った。 使った楽器はアコースティックギターとエフェクター1つだけで、完全に弾き語り。 それは、日常生活の一部とも感じられる自然なもので、”パフォーマンス”とはかけ離れていた。
しかし、その音は心を捉えて、一瞬たりとも離さなかったのだ。
最初に簡素なギターのコード弾きで思いつきのごとく歌われた、スターダンド曲「Moon River」のカバーから泣きそうになった。
「なんで、こんなにグッと来るんだろ?」
ギターと唄の質感は、ふわっとしているのに、こちらが震えてしまう程の深く深くもある。 特に唄は、息遣いが細やかに感じられる活きた感触で、ふと力を入れて歌い込む時もスッと呟く時も、独特の柔らかさと優しさで溢れていた。
そんな唄で、何処か切なく、静かな躍動感に満ちた、とってもキレイなメロディが紡がれるのだから、何度も泣きかけだ。
新しいEPに入っている名曲「SKIN AND BONES」なんて、もう、、、!
「弱ちっそうで今にも崩れそうに繊細なのに、活きている力でいっぱいなの!」
んで、空気の流れるザワザワした雑音とすら溶け込む音達は心底暖かくて、そっと手と繋いでくれる心地な安心感をくれたり。
かと思えば、急に切なくなったり、ドキドキもしたり。
「ん?矛盾してるなぁ。 これって、なんでなんだろ?」
と、曲もブツッと切っちゃう風に終わらせちゃうし、曲の途中で狂ったチューニングを変えちゃったりするのは、やっぱり現在の一般論的なライブの良し悪しという範疇では図れないもの。 でも、それほど彼はリラックスして、”さぁ!ステージにのぼって音を鳴らすぞ!”といった意識は微塵も感じさせない親近感と、ライブハウスという場所で観ているとは思えない生々しい音を聴かせてくれた。
「そう! この音楽は複雑な感情が混ざった良い隙間を生み出しているのかもしれない!」
だから、染み込む音1つ1つに豊かな感覚を与えてくれるのだ。
丁寧にアルペジオを爪弾き、お客さんと対話するみたいに歌声を響かせた30分にも満たない短い時間は、OWENにとって生活の中で音楽というものが特別でないことを、言葉少なに強く強く伝えていた。
まるで、マイク・キンセラという人物の人柄そのものに触れているかのようなゾクゾクする一時。 まるで、彼の家に招かれて、唄を聴かせてもらったかのような穏やかな一時。 完璧なものや圧倒的なものを魅せようとするのだけが、ライブの醍醐味じゃない。
「何の飾り気もなく不器用に素朴に演奏されたものが、こんなに心を揺さぶるんだから!」
なんてね。 ライブというものの在り方には、まだまだ可能性があるんだ、きっと。 演奏後に何度も繰り返されたお客さんからの暖かい拍手が、それを物語っていたよ。 そして、自分がこの空間にいれたことに、何だかとても幸せに感じ、嬉しくなった。


toe
「音の絵の具がぐちゃーって!」
OWENの余韻に浸っていたら、次は大好きなtoeである。
toeの鳴らす音は、一般的にポストロックと言われる類のものだ。
でも、ライブを観る度に感じることは、
「ポストロックなんて使い古された言葉では収まらないなぁ。」
ということ。
インストでありながら、時に絶叫する歌を超えるほど感情をぶちまけ、それでいて巧妙に音が織り重なっていくtoeの音楽は、「高揚感による熱気」と「冷静な曲展開の心地よさ」という一見反対の感じ方を同時に味あわせてくれる。 今回は、それらが今まで見たライブとは比較にならないパワーアップをしていて、
「ヤバイ! これはヤバスギル!」
と夢中になって、時に意識が飛んでいた自分。
丁寧に絡み合あったり解けたりする2本のギターの融合と分離、その下をしっかりと支える流れるようなベース、変則的で強烈なリズムを叩き出す鬼のごときドラム。
「toeの発信する音達は、絵の具みたいだなぁ。」
と、思ったりする。 音という絵の具がぐちゃーと溢れ広がり出し、曲という1つの抽象画を描いていく。 その絵は1曲単位で描がかれるものではなくて、1曲のなかでどんどん変化していく。 1つの絵を描いてはぐちゃぐちゃに塗り潰し、またハイスピードで見事に絵を描く。 こんな繰り返しが1曲の中で何度も何度も行われているような気がするのだ。 そして、きっちりと構築されていった曲を、ぐちゃぐちゃに潰す転調・ブレイクの瞬間に、計りきれない熱狂を覚える。
「この一瞬の各々の音のガッツリと合わさった強度といったら!」
ホント、意識飛びます。
特に多く披露された新曲郡は、その魅力をいかんなく詰め込み、更にぐんぐんと音の領域が広がり上昇していくものばかりで、
「ダイブしてやろうか?」
と思うくらい、気持ちよく発狂してしまった。
でも、終盤に演奏された既出の曲である「yoru wa akeru」の凄まじさには、踊ることすら止まるほど圧倒されてしまった。 音源やこれまでのライブで演らされたテイクとは明らかに違う、曲自体の格段にドラマチックに強い生命力を帯びた進化と深化に完全にノックアウトである。 展開が変わり、音が一気に流れ込んだ時なんかは、もはや絵を描くという2次元の形容では足りなかった。 何もない荒地に次々と建物が出来て行き、街がハイスピードで出来上がっていく、と、その光景を逆回転したかのように次々と建築物が崩壊して行き、街が野原に変わっていく。 あたかも、そんな壮大なスケールの3次元の映像の反復が目の前で繰り広げられているみたいだった。
最後の一音が鳴り終り、ファンタジックな疑似体験ですらあったライブがピシッと突然幕を閉じたと同時に、会場に溢れた大歓声に、今日のtoeのステージがいかに最高だったかということを再認識。
「やべーよなぁ!」
もうね、最高っ!


MARITIME
「あっ、楽しい!」
全く音源を聴いたことがなかったMARITIME(メインアクトなのに・汗)。
少々不安な面持ちで観始めたけど、始まってみれば自然に手拍子したり踊ったりしてしまう軽快な時間が流れ出した。
元プロミス・リングと元ディスメンバメント・プランのメンバーからなる云々といったことは抜きにして、誰にでも聴きやすいそのキレイなメロディと楽しげな演奏は素敵だった。
メンバーもみんな楽しそうに演奏しているし、
「お好み焼きウマイネ!」
と片言の日本語で語りかけてくれたベースの人なんか、かなりサービス精神旺盛でキュート。
難しいことを全く考えさせない、ハッピーなライブでありました。