田んぼ道を歩く。

”看板に気をつけろ!”

”看板に気とつけろ!”

昔の呪文みたいに、繰り返す。

その時、コォシは歩幅を等間隔に歩いていた。

「なぁ、看板に気をつけろって書いてる。」

「「気とつけろ!じゃない?」」

ふと、向こう側の道(それはあまり舗装されていない)を見ると

豆腐屋さんが木の車でガタガタ通っていた。

”看板に気とつけろ!”

そう3回言ってみる(ばれないよーに言う)。

それから、田んぼ道でジャンプする。

着地した時の振動は、少し軽いものだった。

だから、意味もなく重力に感謝する。

ここらへんの重力に。

重力はどこでも一緒じゃない気もする。

物理的には一緒なんだけど。

向こう側の豆腐屋さんの影がゆらゆら揺れる。

今日は暑い。

最高気温は39度。

風鈴の音がちょっと忌々しい。

せみの鳴き声はゆっくりと風景を溶かしてく。


多分、この辺で記憶ってる。


その看板を間近で見てみようと思ったが、

12時のサイレンが遠くから聞こえたのでとりあえず止めておいた。

(別に見てもよかったのだが。)

「看板って等間隔にあると思う?」

「「うーん、そうかもねぇ。」」

コォシは水筒を空に投げた。

思い切り投げた。


−−−−−−


昨日、『オレンジ』という映画を見た。

映画といっても、知り合いが撮ったので別にすごいものではない。

風景のダラ撮り。で、画面はオレンジのフィルターがかかってた。


−−−−−−


せみの声が風景を溶かしてたのを、空にあった水筒が少し戻した。

ほんのちょっとの瞬間だけ。

そしたら、言う。

”看板に気をつけろ!”

じゃなくて、”看板に気とつけろ!”

ろれつが回らなくて、ちょっと笑う。

それから、豆腐屋さんで豆腐を買って家に帰った。

昼ご飯は冷奴だなぁ。と思う。

”看板に気とつけろ。”