中西秀樹  『ambivalent』

マンドリンのみで構成された、ひんやりとした手触りがする1枚。 エフェクトを駆使して何層にも音が重なっていく様は、一本のマンドリンで鳴らされているとは考えられないほど音色が多彩。 何より驚かされるのは、これらが全て一人きりの即興で一発録音されているということ。 どうやって演奏してんだろ?
系統的にはミニマル色の濃いアンビエントといった感じに位置されそうで、前記したように作られ方も特異。 なんて言うと、小難しそうな気がするのだけど、間口は広いと思う。 ナゼなら、ポップなメロディがちゃんとあり聴きやすいし、何より音単体各々が気持ちのよい響きをしていて、それらが反復しながらも明確な静と動の抑揚を持って展開していく曲達は、さりげなく耳への浸透度が高いから。 ポチッと再生ボタンを押して何気なく流しておくだけでも楽しめるし、聴き込めばどんどんその音の渦に埋もれていく感覚が味わえる。 そして、『ambivalent』は夜や暗がりがとても似合う。 また、そういった要素を喚起させられる力にも溢れてる。 加えて、この音の独特のおもしろさは、想像させられる世界が壮大じゃなくて、あくまで身近な空間であるトコ。 個人的に夜や暗がりの要素である闇の印象を受けるアンビエントな作品は、非常にスケールの大きな世界観を持っていることが多そうな気が勝手にしている。 それは、元々闇が何か得体の知れなく人の能力が及ぶ範囲外の存在であるからなのかもしれないし、自分にとってアンビエントという音楽性は多弁でない分曖昧で、そういう抽象的で何処までも広がっていくような想像力をかきたてられる表現がしやすいんじゃないか、という感があるからかもしれない。 でも、ココに広がっている闇は途方もない広がりを成してはいない。 むしろ、どちらかというと小さな部屋の中の暗がりや、部屋の窓からうかがえるひっそりとした夜の空気を感じさせてくれる。 実際に手に取ったきっかけが、夜中にちっちゃなカフェみたいなお店で、友達とささやかにテーブルを囲んでいる時に、店内で流れているのを聴いたためだったりもして。 つまり、良い意味でちんまりとした雰囲気が漂っているのである。 もちろん、こちらが身をゆだねられる余地はたくさんありつつね。
@ 1:09  A 3:00  B 6:30  C 2:05  D 8:47  E 3:28  F 6:00  G 3:14  H 5:31  I 5:11  J 12:48