SKREW KID 『speak slowly』
名古屋のバンドALL OF THE WORLDの中心人物である土江佳弘によるソロユニットSKREW KID。自宅で気の知れた友人と録音された今作は、その作られた過程や彼の日常が伺えそうなとてもリラックスしたもの。作り手の顔がちゃんと見える音楽。アコギを中心としてローズピアノやリズムマシン、ピアニカなどが添えられる簡素な作風は、基本的にとっても緩ーいのに不思議と飽きたりダレたりはしない。むしろ、必要以上に作りこんでいない隙のある音像なので、こちらの感覚が自由に入り込む余地があり、聴き方によって色々な表情をしてくれる。だから、全編を通して同じトーンであるのに、決して聴き心地は一辺倒になることがない。時には寝る前の安眠剤にもなるし、時にはゆったり体を揺らしてしまうダンスミュージックにもなり得そう。うーん、これはありそうでなかったかも。何より、正に今ココでのんびりと音が奏でられているような自然な身近さと、ある種の未完成なたくさんの間のある響きはとても魅力的。牧草的なインストやフォークトロニカが好きな人にはもちろん、音楽を聴くのに疲れてしまった人も一度処方されてみてはいかが?何でもないけど楽しげな光景が目の前に浮かんできて、ちょっとほっこりした良い気分にさせられそうですぜ。

2005年08月07日(水)



little creatures 『NIGHT PEOPLE』
4年ぶりの新作は、前作で突き詰めた気がするプロツールを使った録音した素材を加工した感が全くなく、一貫して、シンプルに楽器の音色が美しく重なっていく。実際にほとんど一発録音だったよう。しかし、すごいのは音を思いのまま面白くする切り貼り編集という技法を排除したのに、各々の音の鳴りとその配置が過去最高だと思う位、見事だということ。だから、どの曲も一見シンプルでありながら、ジワジワ染みてくる複雑で豊かな響きを帯びていて。尚且つ、押し付けがましくないキレイなメロディを描くたおやかな唄声に、各音の1つ1つが静かな調和を持って浮かび上がる。また、アコースティックで決して派手でない音色を基調にしつつ、さりげなくスパイスが効いているし。リズムが強調された曲と穏やかな緩い曲のバランスもよく全体としてダレることがない。奥行きのある音質もまた味わい深く、「最近、こんな豊潤な音って聴いたことあったっけ?」と思わされる程。9曲目での翻訳家であり最近はsigh boatでも活躍している内田弥也子さんの客演も的確。低音の平熱な唄声をヴォーカルの青柳さんとのデュエットで聴かせてくれる。そんな『NIGHT PEOPLE』を聴く体験は、まるで誰も知らない夜の闇に愉快に迷い込み、雑踏から離れた大らかさを感じながら、静かに心地よい驚きの種が撒かれていくようだ。



ozma of oz 『chinese take out』
同じ小谷和也さんがやってるソロユニットPalm echoと同様、ozma of ozも基本的な部分は弛緩した音像をゆっくりと奏でる穏やかな世界観。ただ、このアルバムには全編を通して、とても懐かしさを感じてしまう空気感がある。セミの鳴き声。日常の雑音。人々の会話。誰もいなくなった祭の喧騒の後の残り香に乗るピアノ。ギターで奏でられる牧草的な旋律。管弦楽器のドローン。浮遊する電子音に骨格を添える民族楽器。気ままに始まったっぽいウッドベースとドラムの共演。それらは決して大袈裟に主張することはないけれど、知らない間に耳から体内へ感覚へ入り込む不思議で小さな力を持っているように感じる。そのどれもがタイトル通りどこかアジアの香りがする。子供の頃通っていた小学校のように近い、これまで訪れたこともない異国のように遠い。見慣れているようで、きっと見たことのない心の中の原風景を喚起させられてしまいそう。急ぐことはない、焦ることはない。ただ少しだけ音に身を漂わせてみる。暑い夏はこんな音楽で涼んでみませんか?



volta do mar 『03>98』
volta do marの音源は日本ではなかなか手に入れられない印象がある。これはホントにもったいないことだと思う。何年ぶりになるかは分からないが、やっとCDというフォーマットで入手できた新作は、目が回るほど爽快で、最高に気持ちいい!所謂、ポストロックというジャンルに入るんだろうその音楽は、音を浴びると一気にそんな陳腐な枠をぶち壊してくれる。何処か無国籍な匂いのするリフ。スピードと高揚感のボルテージを振り切るかのように盛り上がる各楽器の手に汗握る駆け引きの演奏は、ぐちゃぐちゃになっていくようで、無意識の内に熱狂してしまう位心地よいツボを確実に押してくれる壊れ具合。ジャズのことは全然知らないから分からないけど、フリージャズをロックというフォーマットにトレースしたらこんな化学変化が起こるんじゃないか!?そして、各曲の繋ぎが絶妙すぎて、何曲目を聴いているのか分からなくなってしまい、同じトコを何度も繰り返してしまう。うわー、たまらん!かと思ったら、しっとりした唄やコーラスが挿入される曲もあったりして。聴く度に、この魅力から抜け出せなくなりそうになる。もっとこの国でも注目されて知名度が上がってもいいのに!ライブとか絶対に悶絶もんだよ!



qodibop 『another tone form』
バンド名が読みにくいのだけど、”キュー・オー・ディー・アイ・ビー・オー・ピー”とそのままアルファベット読みします。めちゃくちゃ覚え辛い・・・。札幌在住。3人組のインストバンドでありながら、全員サンプラーをいじるということで、電子音の比率は他のインストバントよりも、かなり高め。一聴した分には、ほとんどをラップトップで構築したんじゃないかと思う曲もある。でも、ホントは全部一発録音だそうで吃驚。タイトなドラム、気持ちよいフレーズを次々に奏でるギター、控えめながらボトムのしっかりしたベース。そこにぷにょぷにょした手触りの何とも言えない電子音が混ざりこみ、絡み、溶け込む。基本はミニマル気味に徐々に変化していく展開でありながら、曲によっては瞬発力を最大限に発揮し、一気に盛り上がり壊れて行き、抑揚をつける構成もあって、それはスリリングでかなり癖に。初期トータスに電子音を足した感じの音楽を求めている人には何気に相当オススメかも。このバンドはもっともっとたくさんおもしろい音を奏でてくれるはず。一度生でライブを是非観てみたいです。

2005年07月20日(水)