研究の概要 (最終更新2006年)

 

予備調査

T.調査方法

調査期間:20015月〜20025

1.        インターネットによる調査

 難聴者・中途失聴者団体が運営するウエブサイト及び本サイトの掲示板や、メイリングリストを利用して、難聴者・中途失聴者の悩み、精神的に負担になっていること、周囲の人への要望などを尋ねた。また調査者個人と回答者とのメールで意見交換を行った。回答者はインターネット上で難聴者・中途失聴者であることを自己表明している人である。

2.        面接による調査

 難聴者・中途失聴者の団体に加入している15名を対象に面接調査を行った。それらの団体の月例会等を利用して、日常生活で困っていること、悩み、周囲の人への要望、インターネット上の調査でよく話題になることなどを尋ねた。面接に用いたコミュニケーション手段は主に音声言語であり、必要に応じて筆談と手話も併用した。

 

U.結果と考察

 ほとんどの人が日常生活では主に音声言語を用いていた。共通した回答としては、以下のようなものがあった。@職場で理解が得られにくい。会話はできても、電話が聞こえないことなどが特に理解されにくい。仕事に必要な情報が十分伝わってこない。Aふだんのおしゃべりやリアルタイムでの討論に参加するのが難しい。このため同僚との交際に消極的になるなど、不安感や孤立感を感じている人が多かった。Bめまい、不眠、耳鳴りなど不快な症状を抱えている人がかなりおり、心身の調子がすぐれない人も少なくなかった。C現在は障害が重い人でも、幼少期にはかなり聞こえていた人が多かった。

 

 

本調査

T.調査内容

<第1研究>

GHQ-30General Health Questionnaire:一般健康質問表30項目版)を用いて、難聴者・中途失聴者の全般的なメンタルヘルス度を調査した。またメンタルヘルス度と、聴力・障害発生からの経過年数・随伴症状との関係を検討した。

<第2研究>

難聴・中途失聴によって起因する悩みで、多くの人に共通するものは何かを質問紙によって調査した。また障害発生が就学以前か学齢期以後かによって、悩みの内容に相違があるのかを検討した。

<第3研究>

小学校入学以後に難聴が発生した難聴者・中途失聴者(中途聴覚障害者)名を対象に、難聴発生時の悩みは何であり、それが現在ではどう変化し、変化の要因は何であるのかを質問紙によって調査した。

<第4研究>

小学校入学前から難聴であった人に学校生活を回想してもらい、学校における彼らへの配慮の程度、難聴に関係する悩み、今後の難聴のこども達のために要望することを質問紙によって調査した。

 

U.調査方法

@    調査期間:20025月〜9

A    対象者:成人の難聴または中途失聴者であり、難聴者・中途失聴者団体の行事に参加した人、およびインターネットを通じて本調査の趣旨に賛同した人。さらに障害発生後1年以上経過していることを条件に付した。難聴者・中途失聴者の定義は自己表明に委ねた。

B    材料:第1研究には市販されている日本版GHQ-30を用いた。多くの心理学・精神衛生学の研究で使われている質問紙であり、妥当性・信頼性が高い。第2研究以後は新しい質問紙を作成した。その内容は予備調査を元に作成し、難聴者・中途失聴者団体の会員8名により、妥当な内容であると評価された。

C    方法:難聴者・中途失聴者団体の例会や行事に参加している人260名に質問紙を配布した。またインターネットで調査への参加を表明した人19名には、メールで住所を尋ねて質問紙を直接郵送した。回答用紙および返信用封筒は無記名で、郵便で回収した。228名から回答用紙が返送され、回収率は81.7%であった。

 

V.結果(要約)

<第1研究> 成人の難聴者・中途失聴者のメンタルヘルスについてGHQ-30による調査を行った。結果は以下の通りである。@回答者201名のGHQ-30得点の平均は8.77、神経症傾向を有すると考えられる人の比率は53.3%であり、全体的にメンタルヘルス度が低く、心理的支援の必要性が示された。A男性に比べ女性のメンタルヘルス度が有意に低かった。B聴覚障害発生時の年齢の早晩及び障害発生後の経過年数はメンタルヘルス度に大きな影響を与えていなかった。C聞こえの障害の重さとメンタルヘルス度には相関がなかった。Dめまい・耳鳴り・言語障害等の随伴症状のある群は無い群よりメンタルヘルス度が低かった。以上、メンタルヘルスの問題は難聴者・中途失聴者全般に存在し、聴力障害の軽い人、障害発生時期が早い人、経過年数が長い人にも心理的な困難が存在することが示唆された。

 

<第2研究> 成人の難聴者・中途失聴者207名(平均年齢53.9歳)を対象に、難聴に起因する現在の悩みを、質問紙を用いて調査した。最も多くの人に共通する悩みは「複数の人の雑談に入れないのが寂しい」であり、目的が明確でない非公式の情報交換や交際の場でコミュニケーションが円滑に行えないことが、心理的に大きな負担となっていることが判明した。難聴発生時期が小学校入学前である早期群では、恋愛・結婚・子育てに関する悩みが深刻であった。一方難聴発生時期が小学校以後の中途群では、難聴発生後長時間(平均24.4年)を経ても障害の存在そのものが深刻な悩みであった。特に中途群の中でも現在精神的に不安定な群では、全般的に心身の調子が悪く、難聴が進行することへの不安感が強かった。また「難聴であることを人に知られること」に抵抗感があった。中途障害の場合は健聴者であった時の価値観や習慣を変容させるのは容易ではないことが示された。

 

<第3研究> 小学校入学以後に難聴が発生した難聴者・中途失聴者(中途聴覚障害者)128名を対象に、難聴発生時の悩みは何であり、それが現在ではどう変化し、変化の要因は何であるのかを調査した。対象者の障害発生時の精神状態は危機的で、この時期への心理的支援の必要性が明らかにされた。難聴発生から長時間を経た現在でも難聴に起因する悩みは数多いが、全体的に悩みの深刻さは軽減し、ある程度精神的に安定する人が多かった。精神的安定をもたらした要因としては「聴覚障害を持つ友人・知人ができたこと」をあげる人が多く、心理的支援においても同じ障害を持つ人(同障者)との連携を図ることが重要であると考えられる。また現在精神的に不安定な人は、「社会全体の難聴者に対する理解が進むこと」を求めており、心理的リハビリテーションは社会的リハビリテーションと不可分であることが示された。

 

<第4研究> 小学校入学前から難聴であった成人62名(平均年齢43.8歳)に学校生活を回想してもらい、学校における彼らへの配慮の程度、難聴に関係する悩み、今後の難聴のこども達のために要望することを調査した。回答者の80.6%が普通校の一般学級のみで教育を受けており、そこでは難聴のこどもに対する配慮は殆どなかった。回答者のほとんどが自分は難聴であると意識したのは小学校以後であった。学校生活では多くの場面で情報入手が困難であり、級友とのコミュニケーションが難しく、孤立したりいじめられたりすることが少なくなかった。こうした孤立感が最も強まるのは中学時代で、思春期の深刻な悩みは教師や家族には十分理解されていなかった。学校への要望としては「教師が難聴のこどもにも分かりやすい教え方する」が最も期待されており、情報保障を求める意見が多かった。学校においては難聴のこどもが学習内容を理解できるようにすることが第一の課題であろう。

 

 

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