全日本選手権、旅行と観賞記。
3.長野→新横浜 出発前にロビーで新聞各誌をチェックする。 美姫ちゃんの大きなカラー写真が真っ先に目に入る。文を読んで彼女がクワドサルコウを跳んだ事の大きさを実感した。そうだよなあ、クワドサルコウを跳んでグランプリファイナルのメダリストを破ったセンセーショナルな16才なんだよなあ。 美姫ちゃん以外の写真を載せている新聞は、すぐりんが1誌(2誌だったったかも)と田村君が1誌。長野で試合があった時の新聞はやはり信濃毎日がベスト。選手のコメントはほとんど女子だけだった。そりゃまあ注目度と紙面の都合を考えたらそうだけどさあ…。そんな中で田村君ヘの暖かい視線が感じられたのが珍しく朝日新聞。四大陸派遣に関する一文ではちょっとした遊び心も。ヤマトを見ていた世代なのかしら? 今日は晴れていて寒さもゆるんでいる。一日ずれてくれたらよかったのに。 長野駅の横にある売店で、今日泊めてもらうTちゃんご夫妻へ 長野新幹線の中でおやきの5個入りパックを二人で分けて朝ごはん。会場で食べられなかったのがちょっと残念だった。おにぎりと違って野菜が摂れるし、観戦用のお弁当に最適だと思うんだけどなあ。 さて長野新幹線。 関西からだと半日かかるのに、関東からだと日帰りできてしまう長野新幹線(←しつこい)。長野から東京というのは初めてのルートなので、移動というよりは旅気分になっている。幸い窓際に座れたのでつい外の景色をかじりつくように見てしまう。 雪が融ける境目が見たい。観光都市長野と関東との境目を。 篠ノ井までは見覚えのある風景。いつもと違う分岐を進み、しばらく行くと上田。 軽井沢は駅から見える範囲でさえ日常を離れた世界が広がっている。純白の世界に癖のある針葉樹が並び、避暑のニュースで見る映像とは対照的な空間。冬の軽井沢もいいかもしれない。 安中榛名を過ぎて小さなトンネルをくり返し通り、その一つを抜けると雪が完全に消えていた。 ここか。 非日常から日常への回帰。逆方向だと「トンネルを抜けると…」の世界になる。 川端康成はどこの出身なのだろう。 雪国出身かそうでないかでこの風景の変化に対する感じ方はかなり違ってくると思う。 物珍しい単一色の世界への転換だったのか、それとも日常の光景なのか。故郷への回帰を象徴する現象かもしれない。一通り思いをめぐらしてみたが、考えた後で書いた本人にとってどのような現象なのかを推測するのは意味がないことに気がついた。 この作品は彼の随筆ではなく、創作の物語なのだから。 「トンネルを抜けると雪に埋もれた世界が広がっていた」というのはそう珍しい現象ではない。学問的にはあっさり説明できてしまう現象だろう。 何気ない現象ほど書き表すのが難しい。書こうとするほどの何かを感じとれるかどうか。感じたにしても、その感覚を文章を書く際にストックとして自分の中に留めておくことができるかどうか。ストックとしておいていても、その感覚を書き表すことができるかどうか。 「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった。」シンプルな文章である。 しかし多くの日本人には定番のフレーズになっている。雪国に行ったことのない人に雪国入りした時の転換をある種の知識として与えている。初めて見た時にはすでにある種の確認が伴う。それほどまでにあの色彩の劇的な転換を書き表しているのだ。 文芸で身をたてていく人はだからすごいのだと、あらためて目からうろこが落ちた。 山中から平地に入り、田んぼが広がる。(米原と岐阜羽島の間みたいだな…)建物が乱立する都心との間のワンクッション。このルート、逆からたどったら都心からの脱出の過程がはっきり出ておもしろいだろうな。 長野世界選手権やオリンピックで初めて日本に来た選手はこの光景を見てどんな印象を持つのだろう。近代的なJapanにもこんな一面があったのかと驚くのか、それともなるほどサムライとゲイシャの国と思うのか。 ここで夜に移動したから風景が見えなかったとか移動中ずっと寝ていたなんていうオチを考えてはいけない。真相はそんな所だろうが。 高崎の前で建物が増え、都市の様子になってくる。長野と東京の中間地点なのか結構降りる人がいる。降りた数の分だけ新しく人が乗ってきて、車内の空気が少し入れ替わった。 高崎って、何県? ……私達の関東に関する地理感覚はこんなものである。 県境の描いてある地図に県名を書き入れることはできるが、何市が何県というあたりになると全くわからない。そもそも長野新幹線がどういう経路を通るのかも知らない。 高崎は○県かな、いや●県かなとか、駅の表示には何県何市というのを入れてほしいとか、道路みたいに線路の県境に表示をしてほしいとか、端で聞いたら反応に困る会話を延々と。このあたりは東海道新幹線ではしゃぎまくるおばちゃんの旅行グループのノリかも(^^;) Kに言われて気がついたのだが、周囲とは様子の違う山が遠くに見えている。 もう雪は完全に消えている。見える山もくすんだ緑色なのに、その山だけ長野近辺の山のように白い。もういい加減関東圏。関東圏であんな形といえば。 富士山? あの高さといい、あの形といい、位置関係といい、どう考えても富士山よね? だんだん不安になってきた。東海道新幹線だったらわざわざアナウンスがあるくらいなのに、車内に特別な物を見たという空気が全くない。 それにこの富士山は普段見る印象からは全く違う。他の山が2、3つ同時に見えていて、平地の向こうに単独で空間を独占しているあの定番の姿ではない。裏側から見る富士山というか、素顔の富士山というか。 「長野新幹線から、富士山が見える」 へぇ〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜(ばしばしばしばし) 新幹線を降りると空気が違う。ぬくい〜〜。上野から東神奈川への京浜東北線は、座れるわ天気がいいわ暖かいわでしばし爆睡。 せっかく新横浜に来たのだから、お昼ごはんはラーメン博物館で食べよう。ということで行ってみると、どの店も45分以上の待ち時間だった。ラーメンが食べられたらいいので、さっさと予定を変更して新横浜駅前のラーメン屋に入る。豚骨なのにあっさりしていておいしかった。 会場へ行く途中に親子連れらしき二人組を見かける。お子さんがひっつめシニヨンのメイク顔、ジャパンジャージ着用。ということは今日出るジュニアかノービスの選手。誰なんだろう?しかし会場時間の直前に会場入りするスケーターを見かけるとは思わなかった。この時間だったらてっきり会場でリハーサルや打ち合わせをやっていると思っていたのに。 そして関係者用入り口付近では久永会長が立っているのが見える。会長――!知る人にとってはすごい目印。前を横切る時に面識もないのについ会釈してしまうのはディープなファンの性。さっきの選手を出迎るつもりで待っていたのだろうか? (ちなみにこの時見かけた選手は北村明子ちゃんでした) 会場と同時に中に入り、自分の席を確認。近くにPさんを見つける。さっそくあいさつに行き、写真を見てもらう&見せてもらう。席に戻ると、他の人が座っている。どうも私の席はもっと前だったようで、そこでやっと亜鈴久世さんと合流できた。リンク常設の席ではなく、リンクサイドと常設の中間にある位置。こんなにいい席なの!?私こんな所に座っちゃっていいんですか!? こんないい席のチケット譲ってくださってありがとうございます亜鈴久世さん。これは大ちゃんの写真気合を入れて撮らせていただきますわ。ああでもこんな近くで撮れるかしら(^^;) 目の前の通路を見覚えのある頭が行ったり来たりしている。あ、竹内君だ! オープニングはメダリスト達の紹介。ヤグディンが出てきた時の盛り上がりがすごい。リンクサイドにはバナーがぎっしり。みなさんいつの間に作っていたんですね。 ノービス2位の高山睦美ちゃんは子供らしいはつらつとした祭囃子。男子ノービス1位の無良君は聴いたことのある曲。ロッキーかな…とのんびり見ていたのは始めだけ。見た目は完全に子供なのに、ダイナミックな曲に演技が負けていない。 あなたノービスでそれだけ滑れてどうするんですか―――!!! しっかり小道具使っている北村明子ちゃん、バリバリに踊りまくる小林君、タンゴが既に色気がある武田奈也ちゃん、やっぱり踊れる前川君、ノリノリハバネラの真央ちゃん、踊りまくりパート2南里君、しっとりもできる澤田亜紀ちゃん、ミスを笑いに変換して帳尻合わせる関西人織田君、表現が既にベテランシニアの舞ちゃん、何なのこの舞台慣れっぷりは!野辺山やメダリスト・オン・アイスで滑っているとはいっても…それを全く見たことがなかっただけに茫然自失、ある意味麻痺状態。日本ジュニア、怖すぎる。(←あんた何人だよ) ヤグ、これは手抜きできないよ。 ジュニアの演技の後で滑るせいだろう。リンクに立つヤグディンは貫禄が目立った。 聞き覚えのあるメロディー。盛り上げ方が同じなのはさすが同じ振付師。繰り返すフレーズ、これでもかと繰り返す動き、情熱をぶつけるような独特の動きは間違いなくヤグディン。 でも違う。何かが違う。何かが確かに喪われている。「それ」が喪われていく過程を、そして喪われた「それ」へのレクイエムを自ら演じているようだった。 彼は「受け継ぐ者」と思っていたのだが、いつの間にか「伝える者」「託す者」の立場になったらしい。 このヤグディンの後にシンクロを持ってくるのは順番的にどうかと思う……。シンクロは好きだが、この余韻のまま一部を終わってもいいのでは。 そのシンクロ、男性が混じっているのは初めて見た。あいかわらずの迫力…というより、席が近いだけに団体で向かってこられると、迫力を通り越して怖い!!フェンスがないだけに余計に距離が近く感じる。 演技が終わってからシンクロを製氷直前にもってきた理由に思いあたった。あれだけの人数で一つのプログラムを滑ると一気に氷が荒れるからなのかもしれない。 第二部でオープニングに出てこなかったシニアの上位選手達が出てきてホッとした。いくら「Medalists On Ice」でも、メダリストだけだと物足りない。 スローな表現が本当に上手になった由加里ちゃん。イメージチェンジに挑戦していた由希奈ちゃん。 都築さんに上着持ってきてもらって賢ちゃん幸せ者!と思いきや、結構危ないくい違いの連発…大丈夫かこの二人……。 美栄ちゃんのHaremは何回見てもいい。すっかりロシアンな大ちゃんはこれくらい派手な振り付けの方がいいのかも?ミシェルみたいなスローな女性ボーカルもこなすしーちゃんは本当に器用。キャラに合っていることが一番大事、スタッフの方よくこの路線でプロデュースしてくれました岸本君(ちょっと心臓に悪いけど)。エキシビナンバーを作ってきた木戸さん&渡辺さんは何やら貫禄が出てきたような。 田村君、正統派美形でエキシビナンバーも正統派なのに、頭だけ浮いてる〜〜(泣)しかし何かに逆らうかのように変な方向へ行ってしまうのが、田村君の田村君たるところなのかも。 美姫ちゃんのカルメンは聞いたことのない曲ばかりの美姫ちゃんのカルメン。 そしてトリのヤグディン。 美姫ちゃんが下がっていく時にスタンバイしている姿がうっすら見えると「きゃ―!」、出てきてちょっと手を振ると「きゃ―!!」、ノリノリの曲の最中にちょっと客席にアピールすると「きゃ―!!!」「ヤグ様」のノリ、健在。 後半のストレートラインステップでは始まりのポーズをとった時点で大歓声。それに乗せられてヤグディンのアクションが大きくなる。さらに観客が盛り上がる。スケーターと観客のキャッチボールの応酬、みごとなまでの相乗効果。最後がRacingでよかったわ。 この観客を相手にノらないスケーターはいないだろうとは思うが、ヤグディンはフィナーレでは3トウ+3トウまで跳んでいた。始めにループは跳んでいるし、初日からそんなに飛ばして大丈夫なの!?明日は2公演あるんだよ〜〜(^^;) プリンスアイスワールドショーの盛岡公演をを見たKによると、ヤグディンの状態はその時より大分安定しているらしい。 会場の入り口でPさん&Eさんと遭遇し、近くでコーヒーを飲むことにする。関係者入り口付近では小さな人だかりがあった。出待ちかしら? コーヒーを飲みながらEさんの写真を見せてもらい、私の写真を見ていただく。何を話したのか覚えていないが、スケートファンが集まって話をしたら30分は軽く過ぎてしまうもの。新横浜駅で別れてTちゃんご夫妻の家へ向かったのだが、きりがないのでここで終わることにする。 |