全日本選手権、試合レポのない試合話。

2.長野
雪国では冬に傘がいらないのだと3年前に旭川のタクシーの運転手が教えてくれた。
実際に体験してわかったのだが、雪が服についても手で払い落とせるので濡れる事がない。雪の湿り気が全く違うことに驚いたものだった。年に一度雪がつもるかという地域に住んでいる人間にとっては目からうろこが落ちる事実、確かに傘はいらないわ。
今朝の雪も傘はいらなさそう。ただ3年前の旭川の雪よりは少し湿り気があるようで、ダウンジャケットは大丈夫だが髪の毛についた雪は落としにくい。マフラーを満知子巻き(この字であってたっけ?)にして頭をカバーする。

以前Kが朝ごはんを食べたパンのおいしい喫茶店を目指したのだが、記憶を頼りに歩いているうちに見覚えのない通りにまぎれこんでしまった。何回も来ているが、この街はシンプルなようで妙にややこしい。(一度も地図を見ていないというだけの話)やっとその場所にたどり着いたと思ったら、別の店に変わっていた。残念。幸い駅前のカフェが開いていたので、クラブサンドとカフェオレで朝ごはん。
買い出しに立ち寄った駅前のコンビニにはおやきが売っていなかった。長野でのスケート観戦には必須アイテムなのになあ。前はあったぞ。
8時25分だというのにビッグハット方面のバスには人がいっぱい並んでいた。この辺はみんなお仲間だろう。ビッグハットの開場は8時30分、みんなすごい気合。座れるかしら。



会場から一番近い入口は関係者席、その次はアイスクリスタル席。そこを避けて(アイスクリスタルに入っていない^^;)ジャッジと反対側の席へ急ぎ足。前の方でほぼ真ん中、理想的な席が取れた。いすの座り心地ともたれた感触がなんとも言えず気持ちいい。中国GPから帰ってしばらくして日本のタクシーに乗った時と同じ感覚。
会場全体を見まわすと、席の密度が低くて妙に空間のデザインが凝っているような気がする。北京首都体育館の全体を見回した時の感覚と比べると、雰囲気がきめが細かくてやわらかい。そういえばホワイトリングも空間の割合が大きくて、何かきめ細かい雰囲気があった。
ビッグハットは長野オリンピック当時アイスホッケーの会場。海外のアイスホッケーの会場といえばヘルシンキ世界選手権のHartwall Arenaや、バンクーバー世界選手権があったGMプレイスのようなどでかい会場が思い浮かぶ。NHLのスーパースターによるドリームチームがこんなコンパクトな会場で戦った事を北米のファンが知ったら、さぞかし驚くことだろう。
「日本のものは小さくて細かいものがぎっしり詰まっている」という内容のすぐりんの言葉を思い出す。
なるほどね。

そのリンクの上では女子フリーの練習中。曲かけが前半部分だけなのに驚いた。
最後のグループはフリーの最終グループと少しメンバーが違っている。練習開始と同時にシニア、ジュニア、ノービスとシャンパンゴールドの全日本ジャージがぐるぐる回る。全日本ではステイタス的存在の全日本ジャージがそろって滑るとやっぱり壮観だなあ。
そんな中ですぐりんは一人水色のジャージ。


国際試合で放映される選手はほとんど毎年プログラムを変えてくるが、全日本選手権だと毎年プログラムを変える選手の方が少ない。グランプリ派遣クラスぐらいではないだろうか?2年連続は当たり前、中には3年連続同じプログラムという選手もいる。同じプログラムは見たら大抵思い出すので、それだけその選手は記憶に残りやすい。知っている選手の数が増えていくのが嬉しい。
ところで今年の男子シングル、茶髪率が下がってないか?

男子フリーはのびのびと滑るジュニアとは対照的にシニア勢が壊滅状態で、田村君が最後の砦になったという印象だった。NHK杯では正直全日本の順位がやばいと思っていたのだが、ここで持ちこたえるあたりはさすが長野オリンピックからの生き残り。
しかし田村君は今シーズンで引退してしまう。日本男子どうなるんだ…と一瞬頭を抱えたが、よく考えてみればこの状況は4年前の女子シングルと似ているのだった。この年はジュニア推薦枠が初めてもうけられた年で、女子シングルは1、2、4位がジュニア勢。あの時も日本女子が壊滅状態になったような気がして頭を抱えたが、それが今ではこの大激戦区なのだから。
それほど悲観しなくていいのかもしれない。実際ジュニアには似たような力の選手がそろっているし。


長丁場の全日本は休憩時間がほとんどない。男子フリーが終わるのがお昼前なので、お昼ごはんや休憩で、アイスダンスフリーの時は結構人が減ってしまう。だがディープなファン(人のことは言えない)は居残るせいか、かえって独特の盛り上がりがあるように思う。関係者の応援が耳をひき、演技が終わった後で選手とのコミュニケーションが見られるのも全日本ならでは。下手をするとNHK杯の日本勢に対する時より盛り上がっているかもしれない。そんな中で都築さん達の投げ物が一番少なかったのが、内心面白くなかった。会場のできあいの物でもいいから買っておけばよかったな……。
シングルの試合と違うほんわかした雰囲気の中で、木戸さん達の演技のラストに対する観客の盛り上がりは本物。2つのおもちゃがコミカルに滑る、「チャンピオン」が誕生したアイスダンスフリーだった。リフトの迫力が去年とは段違い。四大陸ではアジアトップの指定席(7位)脱出だ!


ビッグハットはロビーが思いきり広い。種目の間の休憩時間にはジャージを着てメークをした女子選手がそこかしこを歩いている。高そうなコートを着たマダムがいると思ったら、有名コーチと知り合いのように話をしている。スケート会場には珍しくにーちゃんの団体がいると思ったら、ついさっき試合が終わった男子選手達だったりする。すれ違う度に内心どきどき。
お茶を買いに行く途中に「よしえちゃん」という女性の声。条件反射で振り返ると美栄ちゃんがいる。セーターにマフラーが可愛い…って、普段着じゃん!!
もう女子フリーが始まるのにまだ普段着姿なの?舞ちゃんも由加里ちゃんもジャージ姿の所を見たのに。まさか、棄権!?来た時に見た練習でも調子はいまいちそうだったけど…大変だ―――!とパニック。女子フリーの製氷中にRさんとmさんからジャージ姿の美栄ちゃんを見かけたことを教えていただき、一安心。

と思いきや、ヤグディンが見に来ていることを知らされる。
なに―――――!!!!!
男子フリーの時に既に来ていたそう。私の席から貴賓席はリンクを挟んでちょうど真向かいにあるのに、ぜんぜん気がつかなかったぞ!Kに話す時についペットボトルをぶんぶん振り回してしまい、お茶が泡だらけになる。せっかく日本に来るんだから、確かに新横浜で時間をつぶすよりは全日本見た方が有効だろうけど。弟子のライバルチェックにもなるし。

製氷中にパニックになっておきながら、試合が始まるとヤグディンの存在は忘れていたりする。
私は旭川のエルビスでさえ完全に存在を忘れて男子フリーの観戦に没頭した人間だ。


さて、ヤグディンも注目する今や世界一激戦区の全日本女子、最終グループ。実はこの試合、見る方にとっても世界有数のハードな試合だと思う。
まず国内戦で30人エントリーしているのは珍しいらしい。(外国のファンが驚いていた)
人数が多いということはそれだけ時間が長くなるということで、朝から夜、昼から夜遅くまでの観戦になる。座って見ているだけでもそれなりに体力を消耗する。もっとも時間だけなら世界選手権3日目の方が長いのだが、全日本のハードさはむしろ精神的な消耗度合いにあると思う。

ぶっちゃけた話、あまり騒げないのだ。
同じ日本開催の試合でありながら、NHK杯とは明らかに違う。

全日本を3回しか見ていない私が書くのもおこがましい話だが、全日本はフィギュアスケートのスポーツの面だけを突きつけてくる面があるように思う。氷の上で自由に動くこと、ジャンプを跳ぶということの難しさ。ケガやプレッシャーとの戦い。フィギュアスケートといえばエンターテイメントの観賞に近い面もあるし、NHK杯での盛り上がりはアイドルのコンサートに近いものがあるのだが、全日本はフィギュアスケートが本来持っているこれらの水面下の部分がより浮き上がって見える試合だと思う。
自分の持つものを発揮しようと全力でトライしている選手に黄色い歓声などミーハー、失礼きわまりない。国際試合ではすごいジャンプに歓声が起こるが、この試合ではジャンプを成功した時に叫んだり、他のエレメンツをやっている時に拍手をしたりすると選手の集中力が乱れる。そう思わせる雰囲気がある。感情表現が爆発したものになりやすく、また発散する観戦スタイルが定着した私の場合、常にテンションを抑えていないと周囲の観客に顰蹙を買いそうなのだ。
もう一つ、全日本は関係者が近くに座っている可能性が結構高い。複数で観戦している時は演技が終わった直後に感想をあれこれ言い合うのも楽しみの一つなのだが、近くに座っている人には丸聞こえになる。ファンの誠意ある辛口感想も関係者には無責任な放言、迂闊な事は言えない。

断っておくが、それはマイナスでもプラスでもない。そういう面があるというだけのこと。
もっと回数を重ねればまた認識も変わるのだろう。


その女子の最終順位だが。
私が思っていた順位とは違う。そして納得はしていない。
しかし順位の決定法は複数のジャッジによってつけられた順位点をある一定の法則で計算するもの。かなりジャッジ泣かせの試合だったし、評価は割れただろうと思う。ジャッジがつける順位点がばらばらになれば、計算で割り出される最終順位は数のマジックの世界という一面もあるかもしれない。
どの道どんな順位の並びになってもすっきりしないものが残る試合だったのだろう。


どうも盛り上がれない感があった全日本だったが、表彰式の田村君の嬉しそうな様子が救いになった。表彰台で肩を組んで左右に揺れるわ、ウィニングランでカップからがぶ飲みするジェスチャーをするわ。飲むか!?勝利の美酒…というか、案外ベタなギャグをする人だったのね(笑)
岸本君と大ちゃんが似たような背丈なのに驚いたとか(岸本君は田村君ぐらいあると思っていた)、美姫ちゃんは大きくなったと言ってもしーちゃんに比べると小さいとか(しーちゃんぐらいあると思っていた)、表彰式で初めてわかる事実がちょこちょこ出てくる。


全日本の後は国体予選の練習。女子選手がウォームアップを始めるのと入れ替わりに会場を出る。
寒い!!しかも道路が凍っている!!!
会場入り口の横に旭川ラーメンの屋台があったというのは笑える偶然。臨時バスは出ていないので、停留所で待たなければいけない。雪のおかげで少しバスが遅れている様子でどんどん並んでいる人が増えてくる。ビッグハット帰りの客でバスがいっぱいになり、乗り込んだものはいいものの手もほとんど動かせないすし詰め状態。おかげで途中の停留所で乗車拒否することになってしまった。地元の方すみません(^^;)
道路がアイスバーンなので徐行運転になっているのに加え、少し渋滞になっているので進みがのろい。新幹線の時間を気にする声があちこちから聞こえる。関東の人は今日のうちに帰れるんだなあ。
地元の人なのだろう。「これで長野に懲りないでね」という声が聞こえた。それはないです(笑)。


長野世界選手権の時に何回か行ったおいしい居酒屋さんが満員だったので、歩きながら見つけた九州産焼酎を揃えた居酒屋に入る。席に座ったあたりから頭痛と寒気がしてきて、疲れが出た時の典型的なパターン。眠った気がしない夜行明けでの全日本観戦はさすがにきつかった。
焼酎のお湯割りを飲んでもあたたまらず、頭痛止めを買いに行ってもらう羽目になってしまう。K、ごめんよ〜。味噌仕立てのきのこ鍋を鳥のように押しこんで、なんとかもち直す。

アイスバーンに注意しながら宿へ戻り、お風呂にも入らず荷物の整理だけして即行寝る。スポーツニュースは…見たっけ?



あと1回続きます(^^;)