やがて彼女の里の唐戸という所についたが、彼女は風変わりな人で、別段感動するふうでもなく、車から降りようともしない。
私の方が気に入ってしまって路傍に降りて仰ぐように眺めると、山が箱庭の蓬莱山といった感じで屏風のように里の背を立てめぐらしている。小高い所には白亜に勾配の深い屋根をかぶせた城郭のような真宗寺院があり、家々の配置に秩序があって、それぞれが石垣を組みあげ、小藪などをめぐらし、柿の木を点在させて、日本の村里のなかでも景観の美しい村の仲間に入るだろうと思われた。
とくに谷川と木の橋が、造形としてよく利いている。谷川は、近景になる。道路わきを深く鋭く地を割って流れ、木の橋が、道路と村とをつないでいる。戦国のころならこの木の橋をおとしさえすれば村という「垣内」が孤立し、谷川は壕になって外敵の進入をふせげるし、必要とあれば真宗寺院に籠ればそのまま城郭になりうるのである。
司馬遼太郎:「街道をゆく」より
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