Reder's Column Charing Cross Road ロンドン最大の書店街
中川 徹夫
この夏(1998年8月)、私はロンドンへ出かけた。ロンドンにはかの有名な大英博物館を筆頭に、大小合わせて200以上の博物館がある。それらのうちいくつかを見学するのが、今回の旅行の目的であった。その合間をぬって本屋さんめぐりをすることにした。旅先で時間があれば、私は必ず本屋さんに立ち寄る。そして、その中をふらふらとさまよう。これが何よりの楽しみである。そして、探究書を見つけて買い求めたときの喜びは格別である。ついでに、面白そうな本に偶然出会うこともある。ロンドンの書店街といえば、なんといっても、Charing Cross Road であろう。ここは、歓楽街で有名なSohoの近くにある。行ってみると、意外と小さな書店街で、書店数は全部で十数軒であった。東京の神田神保町にはとても太刀打ちできる規模ではない。しかし道行く人々のキャリアバッグを見ると、いずれも本屋さんのものばかり! Charing Cross Road を地下鉄 Tottenham Court Road 駅から Leicester Square 駅へと歩くと、新刊書店に混じって古書店が現われる。店頭のワゴンや段ボール箱には今にもこぼれそうな山盛りのペーパーバック。それを必死で物色する古書マニアたち。店の中では、ビジネスバッグを抱えた一見学者風の初老の紳士が経済学の本に目を通している。日本の古本屋さんと全く同じ光景が、ここ Charing Cross Road にもあった。どこの国でも、本好きの人はいるものである。
まず、世界最大の売り場面積を持つ書店と噂に聞く FOYLES に立ちよった。噂のとおり、本当に広い書店である。いたるところ本、本、本、そして本! しかし、各本棚にきちんと整理しておかれている訳ではなく、乱雑に積んであるという感じであった。いわゆる、書店のあちらこちらに、本の山があった。化学関係の欲しい本があったので、その本をカウンターへ差し出すと、店員はその本を見て即座に請求書に金額を書くやいなや、「ここのカウンターはクレジットカード専用です。向こうの現金のカウンターへ行ってください」と一言。この店はクレジットカードのカウンターと現金のカウンターが別なのだ。何と面倒くさい。やむなく現金のカウンターへ行き、本と請求書を現金とともに差し出すと、小さな本であるにもかかわらず、FOYLES と書かれたB4の書類が入るような大きなキャリアバッグに入れて渡してくれた。日本の書店では一冊だけの場合なら、カバーをしてくれるだけであろうに。そして、このキャリアバッグには、"Well worth visiting! The World's Greatest Bookshop FOYLES" と印刷されていた。正にこの表現に偽りなし!しかし欲をいうともう少し本を見やすく整理してほしいものだ。
FOYLES を出てから、向かいの新刊書店 BOOKS et al. にふらっと立ち寄った。ここは、本の数や売り場面積では FOYLES にはとても及ばないが、各ジャンルごとに本がきちんと整理して置かれていた。SALE! のコーナーでは、少し表紙の傷んだ新刊本が値引きして販売されていた。お客さんにたいする気配りが感じられる洒落た本屋さんであった。
さらに、今度は古本屋さんを四〜五軒見て回った。いずれも古めかしい店構えで、見るからにがんこそうな親父さんが店番をしているところもあった。店に入ると、ほとんどの店で、ジャンルごとに本がきれいに整理されていた。日本でもおなじみの「本を見たら元の場所へ戻してください」という文句が目についた。ある古本屋さんでは、一見狭いと思われる店内を奥へ進んで行くと階段があり、これが地下室へとつづいていた。そこには、なんと店頭を凌ぐ莫大な数の本が本棚に並べられているではないか! さらにその横に、整理されていない本が山積していた。地下室へ下りて中を見た瞬間、何か秘密の隠し部屋を発見したような気分になった。ここの本棚に並んでいる本はすべて商品なのだから、売り場面積は見かけよりもかなり広い。
Charing Cross Road は小規模ながらも、新刊書店と古書店が見事に調和して、独特の雰囲気を醸し出している書店街である。私は今回のロンドン旅行中に二度訪れただけであるにもかかわらず、ここがすっかり気にいってしまった。書物愛好家にとっては、大英博物館、バッキンガム宮殿、ウエストミンスター寺院、ロンドン塔などにつづいて、Charing Cross Road もロンドンの名所の一つに数えられよう。是非とも再訪したい場所である。本好きのみなさんも、ロンドンへ行く機会があれば、一度足を運ばれたらいかがでしょうか。
(なかがわ てつお・京都府立鴨沂高校教諭)