レッスンに来られる方は、愛らしい幼稚園児から還暦を過ぎた貫禄ある方まで、スポーツや勉強で忙しい子供達から演奏家を志す方まで人 それぞれ、年齢、経歴、志望により求める方向は多様です。その全ての方に適切に対応するノウハウを求めて、教え始めた当初は様々な初 心者教材の研究に没頭しました。生徒さんそれぞれに違ったプログラムを用意しよう!と、アメリカの教則本研究から、コダーイやバル トーク、カバレフスキーの小品へと手を広げ、日本の子供用メソードを纏めたいと思ったことも…でも長い模索のあと思い至ったのは、教 材研究は一方法論に過ぎないということ! みんなが楽譜と仲良くなってくれるとは限らず、楽譜の無機質な表情に拒絶反応を示されるこ とも。大切な要素とはいえ、楽譜は音楽を2次元の世界の閉じ込めたものなので、理解は容易くないのです。レッスンを楽しくするには “耳コピー&即興”で音と戯れる時間も必要かもしれない・・・メソッドや選曲だけでなく、大切なのは“遊び心”かも、と思うにいたり ました。出来る限り自由な発想で、 “α波がでるような”レッスン目指したく思っています。 |
もともと、生きた“音楽”を楽譜という平面に閉じ込めることには無理があります。現在使われている音符は、聖歌を覚え書きとして始ま
り、中世ヨーロッパの人々が数百年かけて作り上げたもの、近世以降の西洋音楽はこのシステムに基づいて作曲されるようになり、音楽と
楽譜は切り離せない関係になりました。でも地球上にはこれに当てはまらない音楽も山ほどあるし、日本人である私達の体内には違った感
性が息づいているかもしれません。 しかし鍵盤楽器の最大のメリットは、一度に複数の音を鳴らせる(一度に何役もこなせる)ことなので、読譜力は、歌や旋律楽器よりも 重要になるのです。聴きなれたメロディーなら、鍵盤を探って弾けるようになりますが、多様なハーモニーや対旋律が付いてくると、難し くなることでしょう。 初歩の段階から、音符の動きから音の変化を読み取ってキーの動きに移す(目と耳と手の連動)トレーニングも大切なのです。自分の目 で楽譜を追い、自分の弾きたい曲を弾けて初めて、“ピアノで遊べる”と言えます。なんとかゲーム感覚で音符のパズルを解く力が育つよ う、工夫を凝らしてゆきたいものです。 さらに、「“音符”を読む」から、「楽譜の向こう側に在る “音楽”を楽しむ」によう想像力豊かになりたいですね。「たかが音符、されど音符」。それは音楽への道標なのですから、仲良く付き合えるようになりましょう! 何より、 レッスンを離れた後も自分で音楽の世界を楽しんでゆけますように! |
「ピアノ弾きは音色に対する敏感さに欠ける」と言われることがあります。悔しいけれど、時としてそれは事実。管楽器や弦楽器と違っ
て、順番に並んでいるキーを押せばとりあえず一定の音が出るし、そのキーは調律師が整えてくれるのだから、鋭敏な聴覚が無くてもある
程度までは困らない。この「猫が歩いても音が出る」という便利な分だけ、音質に対して無関心になりやすく、時に雑音をたたき出すこと
になる…としたら残念なことですね。 見えている部分、触れる部分は鍵盤ですが、実際に音の響きが生まれるのは、ピアノとチェンバロは弦、オルガンは管からです。素直に 自然に楽器に触れ、指先が楽器内部の音源を“感じる”ときに、楽器は弾く人の心を伝えてくれます。ピアノはオーケストラの代理が務ま るくらい大型なので、魅力的な曲はしばしば難しく、練習も力みがちになり易いのですが、バランスのとれた姿勢、腕の脱力、安定した手 の形、指先の微妙な感覚を大切にして、美しい音色を聴き慣れれば、優しい音、軽やかな音、哀しげな音、など色々なニュアンスに富んだ 表現が出来るようになるでしょう。 先ずは、シンプルな曲で、身体に優しい、楽器に優しいタッチ、心に添う響きを求めたいものです。 |
好きではじめたピアノでも、たった一人の練習はちょっぴり孤独。楽器を弾くことは作品(作者)や楽器と対話していることなのですが、
それでもやっぱり誰かと一緒のほうがいい…。音楽の楽しみは何よりも、お互いの息遣いを感じながらのアンサンブル、人と音(心)を交
わすことにあります。 歌は愛の言葉の交換から生まれたのだし、器楽の旋律はそれを置き換えたもの。鍵盤楽器の演奏が楽じゃないのは、一人で何役もこなす宿 命を背負っているため。だから難しいバッハのフーガだってパート別に分担すれば楽勝! アンサンブルの楽しさを一緒に味わうべく、レッスンでは連弾など一緒に弾く時間を沢山作ることにしています。ニュアンスに富んだ伴奏 をつければ、初心者も歌手気分で「ピアノで歌う」ことが出来るでしょう。伴奏パートを弾けるようになったら、相手の呼吸に合わせて音 楽を支える経験をもつことが出来るかも。難しい曲もパート別に半分ずつ一緒に弾くと音楽の流れが聴こえてくる筈。相手の音を(相手の 心を)聞く習慣を身に付け、譜面には書き尽くされない音の躍動を感じて、表現力を高めてゆきましょう。 |