1.祖先と遺伝子


1.祖先とは遺伝子を共有するものである

我々には必ず両親がいます。その両親もそれぞれの親があり、その親もそれぞれ親があり、・・・・ずっと切れることなく親をたどっていくことができます。ちなみに一代を30年とすると、私を1代目として、私の江戸時代生まれの祖祖母「きく」は4代目になります。

10代目となると江戸時代中期、20代目になると室町時代に、さらに30代目になると、平安時代、50代目では奈良時代、70代目では弥生時代、80代目になると何と縄文時代の祖先に行き着きます。
ついこの間まで我々は、祖先を「血のつながり」とか「血族」とか「一族」とかの言葉で言い表し、中には「家系図」というものを作って祖先や子孫を表していました。

しかし遺伝子が発見され、そのDNAという化学物質が解読されて、我々の祖先から引き継いでいる命は、厳密に言えば、血ではなく遺伝子であるということが分かりました。したがって、祖先とは、血の繋がりというより、遺伝子を共有するものである、ということができるでしょう。
2.新しい命の誕生
「自分という新しい命の誕生」とはどういうことか。両親の細胞が合体する、すなわち精子と卵子が受精して受精卵という一つの細胞になる、これが自分のスタートです。こうしてできた一つの細胞は、その後分裂を繰り返し、母親のお腹からオギャーと出てくるときには約3兆個の細胞に、さらにその後大人になると60兆個ほどの細胞になります。我々の体は、この1個あたり直径100分の1ミリ(mm)くらいの小さな細胞が約60兆個集まった固まりなのです。そしてその1個の細胞の中に、我々が祖先から引き継いできている遺伝子(DNA)があるのです。
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3.遺伝子とは
一つの細胞の中を見てみると、(説明図を見るには、ここをクリック)中央に核があり、その中に46本の染色体があります。その染色体の中にDNAがきちんとたたまれて収まっています。DNAは、デオキシリボ核酸という化学物質で、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4つの塩基の並び方の組み合わせで必要な遺伝情報を書き込みます。
 我々の現在使っているコンピュータは、「0」と「1」の二つの情報を組み合わせた2進法をベースにしたコンピュータですが、DNAは4進法のコンピュータであるといえます。一人の人間のDNAで、約60億文字(1000ページの百科事典8000冊分)を記憶し、それを高速で間違いなく取り出し、体に指示を与え、体を動かすのですから、人間業とはとても思えません。
 人間の場合、遺伝子の数は1細胞あたり32000個あります。

 

4.遺伝子の働き
 (ここから以降は、村上和雄先生の著「遺伝子オンで生きる」からもってきています。
 遺伝子には、大きく分けて二つの働きがあります。
 一つは親から子へと遺伝情報を伝えていく働きです。顔つきや仕種(しぐさ)、声、性格、才能まで、親子が似てくるのは、遺伝情報が子へと伝わったからです。
 もう一つが、リアルタイムに体の中で働いて生命活動を維持しているということです。その働きがなければ、私たちは一刻も生きていけないのです。心臓を動かす、血液を循環する、音を聞く、料理の味がわかる、人を好きになる、ものを考える、幸せを感じる、・・・ あらゆる人間の活動は、遺伝子の働きのもとにあるのです。
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5.遺伝子のオン/オフ
 一個の細胞内の遺伝子がもつキャパシティ(潜在力)は非常に大きいものです。かりに遺伝子の持つ全能力を100とすれば、その3%から5%しか、私たちは用いていないのです。
 自分の遺伝子にどうやって「もっと働いてもらうか」、自分にとって好ましい遺伝子が、 人よりちょっとよけいに働いてくれれば、それまでの自分とは違った自分になれるのですが、そのためにはどうしたらよいか?
 長年の遺伝子の研究の成果から、遺伝子にはスイッチのようにオン/オフの機能があることが分かっています。
 自分にとって好ましい遺伝子をスイッチ・オンにしてもらい、好ましくない遺伝子はオフにして眠らすことができればよいのですが、はたしてそんなことが人間自身にできるのでしょうか。
 以前は「とても無理だ」と考えられてきました。しかし、遺伝子暗号の解読が進んだいまは「できそうだな」という方向へ急速に傾きつつあります。

 

6.よい想いでよい遺伝子をオンにする
 村上先生は、心がどのような状態にあるとき、あるいはどのような行動をしたときに、遺伝子がオンになるかをいろいろの事例で紹介されています。
 一言にまとめれば、よい想いがよい遺伝子のスイッチをオンにし、悪い思いが悪い遺伝子のスイッチをオンにする。イキイキワクワクと前向きにポジティブに考え、生きることによって、よい遺伝子をオンにして生きられる、ということです。
 先生の本から、良い遺伝子をオンにするキーワードを拾ってみました。
 喜び、笑い、楽しい、感動、強い志、使命感、他に利する、チャレンジ、目標達成、愛情、祈り、感謝、力を抜く、祖先と心が通ったとき
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7.遺伝子のなかに眠る意識系
以下は、主として春山茂雄先生の著書「健幸革命」からもってきています。

 立花隆さんの「宇宙からの帰還」に書かれていますが、宇宙から帰還した人たちは、異口同音に「地球を、これ以上汚染してはいけない」「人間は、もっと愛に生きるべきだ」というようなことを言い出すわけです。
 これは、宇宙空間を遊泳し、宇宙から地球を見るという非日常的な体験をすることにより、何らかの触発が起き、それまで眠っていた意識が目を覚ましたのです。眠っていた遺伝子がオンになったのです。

 遺伝子の中には、体験学習することによって獲得する意識とは別の意識系が、もともとあって、それは眠っているということです。

8.遺伝子には、祖先の体験が記憶されている
 タカやワシは、小さな鳥を餌にしています。小さな鳥からすれば、タカやワシは、自分の命を狙う非常に危険な生き物です。
 そこで面白い現象がおきるのですが、タカやワシに一度も襲われたことのない幼鳥であっても、地上にタカやワシに似た影が見えると、あわてて避難します。同じ鳥の影でも、タカやワシ以外のものであれば、避難はしません

 つまり、タカやワシは危険であり、その影が地上に見えるときは襲われる前兆であるということを体験学習していなくとも、タカやワシの影が見えると、幼鳥は逃げるわけです。
 なぜ、一度も危ない目にあっていないのに、その幼鳥が逃げるのかというと、それは祖先の経験が遺伝子に記憶されているからではないでしょうか。そのように、自意識や潜在意識のほかに、祖先の経験を記憶するものの存在を考えない限り、説明がつかないわけです。

9.「遺伝子の意志」と一体化したいというのが、わたしたちの究極の願い
 私たちの体は60兆個ほどの細胞から成り立っています。細胞は一つ一つが意識を持っています。その細胞を一つにまとめて、一つの約束事で統一してしまうことにより、一つの生命体になるわけです。そしてその生命体が、上手にバランスを保っている状態が、ホメオスタシス(恒常性)というわけです。

 体温をこのくらいにしておこう、血圧はこのくらいに保っておこう、このくらいのカロリー吸収量で基礎代謝を保っておこうというように、いろいろ約束事を決めて、その通り実行できるからです。

 そのような約束事は、どこで決めるかというと、遺伝子の中です。

 わたしたちの一つの個体にしてからが、全体のバランスが崩れないように最大の注意を払っている。ということは、人間の集団が作っている社会においても、わたしたちは、最初から、そのような社会的な生き物であるということです。
 私たちがもっとも大切にしなければならないのは、社会全体であり、人類という種全体です。わたし個人の利益が何よりも大切だということには、その本来からしてなっていないのが人間なのです。
 
 わたしたちが最終的に望んでいることは、遺伝子の意志との一体化です。遺伝子の中に入っているプログラムに、自分が一体化し、ハーモナイズした感覚を持ったとき、わたしたちを恍惚が襲います。深い無限の喜びを味わうことができるのです。
 わたしたちは、もはや遺伝子の存在を抜きにして生命を語ることはできない時代に突入したのです。