校長の手紙 第 九 十 六 号 郷 の 秋 平成十七年十一月四日(金) 昨日は文化の日でした。小さいころから、この文化の日は楽しみにしていた日の一つでした。私が生まれ育った奈良県宇陀郡大宇陀町は、山間の町ですが文化の香りがしていたように思います。 文化の日には、水彩画、油彩画、書道、俳句や短歌、写真、菊花に、小学生も含め多くの町民が出展します。それに運動会があり、これも小学生から青壮年代まで、多くの老若男女が集まって運動を楽しみました。婦人会の皆さんによるバザーもありました。テントを張って、その中で、うどんやコーヒー、紅茶をいただきます。これが家で食べるものより美味しい。何か全てのものが珍しく新しく輝いているように思えました。 五十年も前のことですが、よく覚えています。皆さんの幼い頃の文化の日は、どんな日だったでしょうか。 もう一つ文化の日に関して記憶にあるのが、明治生まれの祖父が「今日は天長節の日」と言っていたことです。天長節とは、明治天皇の誕生日です。明治天皇の崩御に伴い廃止されましたが、昭和に入ってから「明治節」として復活しました。しかし、敗戦後一九四八年(昭和二十三年)に「自由と平和を愛し、文化を進める日」として国民の祝日として制定されました。新しい日本を作っていくにあたって、かつての明治天皇の誕生日を「文化の日」としたのです。 平成の時代になってから、昭和天皇の誕生日であった四月二十九日が「緑の日」と制定されましたが、「今日は天皇誕生日だ」と、よく間違えて言ってしまうことがあります。それとよく似たことだったのです(恥ずかしいかな「緑の日」の意識が低いからですね)。 皆さんは、昨日の文化の日はどうのように過ごされたでしょうか。日本の文化は、これでいいのだろうか、こんな大きなテーマについて考えられた方もおられることだろうと思います。 欲望はどこまで危険な形に変わっていくのでしょうか。一年前に、近くで小学生の女の子が誘拐殺害されました。考えられない犯人の行動、残酷極まりない事件でした。直近では、高校生が母親を劇物のタリウムで殺害しようとしたとして、殺人未遂の疑いで逮捕されました。児童虐待、家庭内暴力、青少年の犯罪は、枚挙に暇がないと言っても過言ではありません。 いとも簡単に命を奪ってしまう社会には、いい文化が育つはずがありません。いい文化=生命の尊重、これは不可欠条件の一つです。世の中を便利に、そして人びとを楽しくさせるものがたくさん作られてきました。しかし、それが生命を冒涜する事に変わらないように、コントロールしてきたでしょうか。生命の尊厳には無条件に頭をたれる人に、導いてきたでしょうか。いい文化が育つ日本に向かってそんなことを考える日、一人一人が文化の創造に意識を持つきっかけの日が、十一月三日でした。どうだったでしょうか。 |