三次元漂流記 2001
雨を引き留める花 24KB [2月のモデル; ビオラ]
パンジーより少し小さいすみれ科のこの花は毎年、
ツマグロヒョウモンと名付けられた蝶を宿す。

風にそよぐ印象的なオレンジ地模様は、
派手な羽に彩られた標本の中では目立たず、
まるで冴えないのだろう。
銀の装飾をつけたさなぎは、
枯れ枝と殆ど区別が付かない。

2月の終わり、まだ寒く、雨だというのに、
私と同じ、せっかちな一羽が、
花びらのしずくの間を舞っていた。

温かい雨のように
柔らかい日射しのように
丸で記録フィルムを早回しするように
小さな花を次々に咲かせる魔法があり
冷酷な稲妻のように
無慈悲な木枯らしのように
瞬時に花を灰に変えてしまう毒がある

2月最後の日は雨
君の上に降らないように
ここでパンジー達と一緒に引き留めておいてあげるから
安心してお行き

怯える星は流れ
小さなせせらぎになった
ここから立ち昇り
再び 空になることも
このまま注ぎ
海になることもできる
この澄んだせせらぎに
自分の姿を確かめに来た君が
くすんだ岩の陰に小さな貝を見つけたら
ひとつだけあげる

私は幸運だ。
自分の創ったものがいつも目の前にあって、
それを見れば自分が誰だかすぐに判るんだから。

誰かが庭のバラで怪我をした。
ごめんなさい。
せめて一輪、咲かせておいて。

私を守る?
そんな事しちゃいけないよ。
己を棄ててそんな馬鹿な真似をしていいのは
うちの親だけだ。

誰かが私の前に餌のついた釣り糸を垂らす。
ねぇ。
..........針がついてないんだけど。

心を売って永遠を手に入れよう。
別に欲しくなんかないけれど、ちりがみ交換みたいなもんだ。

飼い馴らした孤独。
あまり出来が良くないらしい。
暫く留守にしているうちに忘れられてしまった。
再び手なずけるのは少しばかり大変だな。

遺伝子が組み替わる。
私の中で起こるこの変化は自然なものでは無いけれど、
必然なんだ。
人が宇宙の真理を求めて生み出した筈の科学が
宇宙の定義を変えてしまう前に、、、、、
破壊せよ。
そんな凶悪な指令が脳から指先へ。
それを、尤もなことだと受け入れる私だから。
拒んだところで、他の誰かが選ばれるだけなのだけれど。

国一番の美しい娘は
王子に嫁ぐことが出来るだろう
国一番の醜い娘は
王の運命を知ることが出来るだろう

春なの?
蝶が舞う
あの愛らしい白い犬が真っ白な花を咲かせるのは
もう少しあとだよ

「痛い」と言えるようになった今、
誰かが黙って耐えているのに気付かないのだとしたら、
私には言葉を発する資格は無い。

真の言葉を持つ為に
人の言語を奪われていたのかも知れない
ある時は虹色の絵の具となり
近付く者 そして私自身を
いざない 迷わせ
ある時は鋭い刃物となり
合わせた傷口から中身を入れ替え
惑わせ 狂わせ
悟らせる
その驚くべき道具を

運動エネルギーと位置エネルギー。
高さを取るか、速さを取るか。
捨てられないものがあるなら、拾えないものがある。

理性。
多分、それは私にとっての本能。

言葉は下世話で役立たず。
だからそんなものを使わずに語り合う。
大昔の人類から受け継いだ力が私を導く。
私のことを優しいなどと思ってくれる、泣きたくなる程に優しい人達の中へ。

幸せって何だろう。
追いかけた事が無いから判らない。
本能だったのだろうか。
苦しむ度に私は腐った皮を脱ぎ捨てる。
周囲を疑いの目で眺めては軽蔑し、
己を疑いの目で見つめては、その資格を問う。
隠した爪がいつの間にか尖り、何かを掻いてしまう。
そしてその罪を知り、手の甲を刺して目を覚まそうとするのだ。
幸運なのにとてつもなく不運で、
幸福なのにこの上なく不幸で、
抱きしめて欲しいのに触れられたくなくて、、、、、
壊れてしまう寸前までそんなにことには何も気付かない。
このまま誰も幸せに出来ないのだろう。
そして幸せでもいられないのだろう。
絶望の歪みから生まれた途方もない幻想が、誰かにつかの間の夢を見せる。
こうして得られた無数の架空の居場所は、本物の私がどこかに存在することを認識させる。
そして、存在する以上は、それをやめる事は出来ない。
それだけははっきりと判るのだ。

すれ違う瞬間にしか触れ合うことの許されない
決して共に巡ることの無い
惑星のように
太陽を見つめながらいつまでも
太陽を見つめていれば又いつか

種を植えてみよう。
明日には愛らしい芽が出て、私に詩を書かせるだろう。
私は毎日観察しては水をやり、その植物のことを懸命に調べるだろう。
やがて花が咲いたら、何もせずに、ただ見とれているだろう。
来る日も来る日も、ただ見ているだろう。
少し枯れ始めたら、一番美しく咲いていた頃の姿を重ね合わせ、更に想いを焦がすだろう。
そして本当に枯れてしまったと知った時、悲しみに暮れて歌うだろう。
届かぬ歌を歌い続けるだろう。
その種を風に委ね、誰かの庭に落ちて行くのを眺めながら、
二度と植えないと誓うのだろう。

「罪は生きて償え」
それが天の答えらしい。
この生だけでは足りない。何世にも渡って。そう覚悟した筈。
だからこそ、理想の生き方を問われたあの時、植物ではなく、「虫」と答えたのだろう。
他の生き物を補食すること無く、ただ天敵から身を隠し、
毎日、這い、食らい、眠り、そして又這い、、、、、
ただ生きるという使命の難しさ、重さを噛みしめながら、
何度も土に返っては、無限の営みを繰り返す。
或いは、今の私。
生まれ落ちた瞬間から、何世代目かの償いの始まりだったのかも知れない。
あとどれだけ残っているのだろう。
今世でも又、罪を増やし続けているみたいだ。

庭をバラ色に塗った。
明日になれば棄てられた城に戻るのかも知れない、けれど
今夜は暖かく包まれ、子犬のようにぐっすり眠るだろう。

遠い友からの手紙は
いつまでも絆のゆるまぬこと そして
既に充分に距離の離れてしまったことを
さとすようだ

永遠.......
そこでは 誰にも意志は無く
氷の中に封じ込められたように
歳を取ることも 息をすることも許されず
美の瞬間をとらえたデジタル写真のように あせることすら無く
いつも微笑んでいるのだろう

温めた牛乳の表面に張った皮が、
予言者のような厳めしい顔で語り始めた。
.......暫く聞き入った。

道端で覗き込んだある光景を思い出しながら、近所の山道を散策して来た。
その光景とは..........
都会に積もった雪。
人の踏まない隅に残った黒ずんだ塊は、溶ける瞬間が最も美しい。
時の移るのを知らずにいた中のアワが、日射しを受けて輝き、
寝言の様な囁きを洩らしながら、大気中に帰って行く。

所々、まだ精霊が宿っていそうな人間界の波打ち際を、
肉体という乗り物で行けば、闖入者に雲蚊のお迎え。
眼下には、自然を制御するのではなく、太陽にひざまづき、祈った証の段々畑。
足下には真っ赤な草。
図鑑の無いここではこの草に名は無く、
眺める私にも又、名前などいらない。

緑色のフェンスに区切られた、四角く淀んだ水の中。
濁りの中に息付く、大きな鯉の形を借りたぼんやりとしたそれは、
しゃがみ込んで見つめる私の姿を確かめるようにやって来て、
私が何者かを直ちに見抜いた様子で、悠々と泳ぎ去った。
暫く行くと方向を変え、問いかけたげな私に答える代わりに、
自分が何者であるかを示しながら黙って通り過ぎた。
岸に流れ着く黒いゴミの群れの向こうで一度、微かに水面を叩き、
薄く大きな波紋を広がらせた後、肌色ににじんで溶けた。

根本を大木に絡めた薄茶色のその植物は、
その枝よりも更に白い、透ける塊を宿している。
天を求めて伸ばした千の指が、かすんだ青を切り刻む。

繭を守る木のすぐ横の草の上には、妙な塊が二つ。
枯れたようにひび割れた一つは南国の果実を、
つついたような窪みのあるもう一つは馬糞を思わせる。
何か、危険な動物の巣に見えないこともない。
正体を知りたいが、触れてはならない世界のもののように思えるのだ。

空き缶であろうと石であろうと、水は隔てる事なくその上を行く。
流れの速い場所に付く藻は長い。

ヒトが地球を作り変えてしまったのは、
賢いからでもなく、強いからでもない。
ルールを忘れ、犯したからだ。

帰りに通った鯉の池。その近い果てに映る何かの横顔。
上を見ると、白い体に黒い筋の入った、鶴のような模様のサギがとまっている。
その大きな姿に見入る私を、片目でじっと見つめ返す。
フェンス越しの風景が、鏡の向こうの景色のように妖しく浮かぶ。
はて、鏡の中はどっちなのだろう。
隔てられた世界の砂浜の上には、私と一緒に歩く影。
あれは、影。すると.......?
見上げると、もうサギはいない。
不思議の国だ。
そう、自然とは不思議なもの。
実像、鏡像、同じではないけれど、決して無関係ではあり得ない。

人工物が味気ないと言うけれど。
人は自然のもの。
受け取る者の中に宇宙があるかどうか、それが一番重要なこと。

庭に時折舞い降りる山鳥達は、
開拓された土地に自然を点滴して行く。
自力で摂取出来なくなりかけている我々の為に。

小さな破片を投げ入れて
その落ちる音以外に
閉じたままの扉の向こうで何か動く気配があったら
それが答えだ

たとえば、Jimi Hendrix はまだ生きている。
未だにCDが売られているからではない。
現代に溢れる音楽のそこここに、彼の音が存在するのだ。
彼の魂は、何世代にも渡り、薄れることなく受け継がれている。
朽ちて地球上を巡る肉体と、人の心の間を伝う精神。
それは紛れもない、永遠の命。
勿論、全ての人に与えられる訳では無いが。

ステキチを病院に連れて行こうと抱き上げた事があった。
ただでさえ重いのに、不安気に四肢を伸ばしたままのステキチは、
自転車という手段しか無い私の手には負えなかった。
抱かれ、甘える事に慣れていない、たくましく美しい生き物。
幸い、深刻な皮膚病のように心配されたのは、擦り傷だった。

陽光を浴びに行こう
透けてしまいそうな外殻の今だから
隅々まで光を当てて
殺菌してみよう
自然はバランス
一つの菌が減少すれば新たな菌がはびこるもの
次に何が芽吹くのか、、、、、、
自分の体で実験してみよう

忘れてはいないか。
私は囚人。
意味なんて求めなくていい。
出来る限りのことをすればいい。
数え切れない生命の中の、たかが一つとして。
本来、生き物が当たり前にするように。

生きる事は面倒臭い。
自分の為だなんて思ったらやっていられない。
私はそんなに前向きな人間じゃない。
何も守らなくてもいい。何の責任も無い。
なんて気楽で..........

話しかける相手は真っ暗な洞。
誰も答えない代わりに、一巡りした声がやや誇張されて自分の耳に届く。
誰もが聞いている。
誰も答えはしない。
私にとってはずっと普通の事だった筈。

私は怠惰なのだろうか???
それとも、私の理性が、精神に対して厳格過ぎるのだろうか。
これでいい筈なのに、これではダメだ。

山に登って見下ろそう。
反対側も見よう。
人の目は、下から見上げてもよく判らないように出来ているから。

恵み、押し流し、淘汰する雨。
この上なく優しく、この上なく厳しい自然現象。
その本質は善でも悪でも無く、そして必然。

大衆は色恋ものに極度にカンドーする。
それ以上の恍惚を経験した事が無いのなら、仕方が無いのかも知れない。

崩れ落ちそうな瞬間には、いつも誰も傍にいない。
そのことが今日まで私を生かして来たのだろう。

君の足は折れちゃいない。
杖を捨てなさい。
必要なのは歩き方を学ぶこと。

大人びていても、若者達はその歳なりの、素直な恐怖を抱いている。
私の肩にまだ何も載っていなかった頃。
圧迫する空気に息の詰まりそうだった頃。
物事を好き嫌いという尺度で判断できた頃。
私もそうだった。
心配無いよ、と抱きしめても、きっと不安は追い払えない。
未来は更に深刻で、苦しいものだと、
しかし今よりずっと強くなれるのだと、教えてあげたいけれど。

螺旋。
元いた場所に近付くが、決して交わりはしない。
何度か触れそうになりながら、次第に離れてゆく........

刀。
常に戦っていなければ、誤って庶民を傷付けてしまうというのか。

斬った人間に、もはや斬られた痛みを語る資格は無い。

満ちたり、欠けたり、無くなったり。
実際は光が当たっているか否か、、、、、それだけのことなのに。

巻き込まれてしまった渦。
真ん中にいる間は大丈夫。
抜け出すのは危険で、力のいることだ。

フィギュアスケート。
ついつい見入ってしまうのだ。
単なるスポーツでも無ければ、見せることに集中するショーでも無い。
幼い頃から、常に想像もつかない程の重圧を加えられ、
押し潰されることなく絶え間なく己を磨き、耐えて来た人達。
勝負の瞬間まではそれぞれに内なる闘いがあるのだろう。
己に勝ち、コントロールする力を得た者だけが放つ美しさ。
それは、私の理想とする音楽の形に限りなく似ている。
音楽の糧となるものが音楽である事が少ない訳........
きっと、私の理想そのものが音楽では無いからだろう。
音楽という姿を借りた、何かなのだ。

浅い擦り傷は派手に痛む。
鮮やかな切り傷は、深くても痛みが鈍く、時にかゆみすら覚えるものだ。
流れる液体に首を傾げ、ようやく自分のものであると知った時のショックに視界が暗くなる。
ふと気付けば、何かを握りしめている感触。
そして目の前には、誰かが同じ液体を流して倒れている.......
私は何者なのだろう。

創作とは
かけがえの無いものをガラスに閉じ込め、
永遠に手の触れられぬ場所に保管する魔術。
現実と引き換えにのみ授かることの出来る虚しい力。
その色は、表すとすればきっと黒。

冬の空に星が流れるのを待ち続けるように
無限の中の、唐突な一瞬を待ち続けるように
切なさを怖れず、
出来ることならこのまま生身でいたい。

私は運が全く良くないが、不幸だ、なんて言えるほど、世界は平和じゃない。

NHKの"水の世紀"特集で書き留めたことをまとめてみた。
動物、地球に焦点を当てた、三時間程の昼間の番組には心動かされたが、
最もアピールしたかったのであろう、
"人の未来"や"生活"などに重点を置いた夜の番組には殆ど入り込めない。
同じものを記しても、記録者の意図が大きな意味を持つという事だな。

* シベリア北極圏 *

ホッキョクギツネの子供のじゃれ合う相手は、明日は獲物を争う敵。
大ワシの兄弟。
時期が来れば、強い一羽が残りのヒナを巣から追い落とす。
親が運んで来る餌で充分に成長できるのは一羽だけなのだろう。

氷の女神は
朽ちゆく昨日の勇者に
哀れみの代わりに永遠を与える
飢えた者達を満たし
つかの間の花を咲かせ
やわらかな陽光の射す頃
再び挑むがいいと

やがて争う兄弟達よ
慈しみ 育み合い
尊び合うがいい

終わりなく巡る寒さに震えるお前達を温めはしない
ぶつかり 傷付け合うお前達を止めはしない
力尽き ひざまづき 戻り来る度
黙って抱き 休ませるだろう

鎧に身を包み 立派な角を持つ
その生き物の糧は 草
何の為に闘うというのだろう

決して生まれつくのではない
渇きに耐え
血を流し
死骸を踏み越え
残ることができたわずかな勝者
それが「王者」

* 雨季と乾季を繰り返す、苛酷なモンスーン地帯 *

年に一度やって来る水の女神は
ひび割れた地を湖底に
土色の丘を緑に変える
カエルよ 跳ねなさい
カタツムリよ 這いなさい
与えるうちに生きなさい
私は間もなく奪うでしょう
生と死の繰り返し
見守るのが役目

羽を広げる孔雀は雨を呼ぶのだと云う。
中国統治下にある泰族の祭りに、水をかけ合う"孔雀舞"というのがあったっけ。

トキはトキ色
他に名のつけようの無い色

水を運び
翼を広げて陰を作り
ヒナを守る
モンスーンの親鳥

* 北東アジア *

カエルの卵
ゼラチン質の養分に守られたそれは
地球から眺める月のよう
きっと 惑星でもあり
一つの宇宙でもあるのだろう

ヤマメという魚
川の有利な餌場を確保できない弱い個体は
雪解けの水に乗り
体を銀に染め 海へ旅立つという
しくじれば餌になるという条件のもと
生きるチャンスをつかむのだ そして いつか
ヤマメのままでいるかつてのライバル達の元へと
帰って来る
サクラマスという
見違えるほど大きな魚に姿を変えて

パンゲア
一つだった頃の世界の名

Still water runs deep.
海のように。
広く大きな川のように。
うねりを底に秘めたまま、おだやかに波打つことが出来たら。

キューピッド
恋する人の欲しいものはお前の手の中に無い
悲しみと諦めに満ちたお前の矢は
愛しい人の想い人と
その大事な人を
射殺してしまうだろう

新曲を仕上げたいのにNHK、おもしろすぎ。
たまらずに広告の紙と鉛筆を取り、紙面を真っ黒にしてしまった。
宇宙となり、生命を見つめる時、
そして自分も又、地球という個体の一細胞に過ぎないのだと認識する時、
一瞬である営みに悩み、苦しむことなど馬鹿らしく感じられる。
生きることは所詮、生きること。
それ以上でもそれ以下でも、だからと言って当然の事でもない。
こんな考えを冷めているという人がいたとしても、
その本当の熱さ、果てしなさを、少しは判っているつもりだ。

流れ星を待って寝転んだ庭。
通りかかったニャンを捕まえて抱いた。
もう星なんて一つも流れなくてもよかった。
ニャンはすぐに飽きて離れてしまった。
そして、星は幾つも流れた。
もう、流星群の季節なんて忘れてしまった。
空を見上げる癖は治りはしないけれど。

君は「井の中の蛙」なんかじゃない。
オタマジャクシだったんだ。
狭いなと思っていたそこは、水たまり。
足が生えてきた君はそろそろ泳ぎが少し下手になるけれど、
手が生えたら、どこへでも跳んで行ける。
迷い、食べられそうになり、干上がりそうになりながら、
大きな流れを目指せばいい。
そっくりな色の森の中で、決して振り返らない君を、私はいつしか見失うのだろう。

昔から一人だから、今更、孤立することなんて怖くない。
私が笑顔を作るのは、何かを守らなくてはならない時だけ。

歌手に必要なのは、音楽の勉強だけじゃない。
楽器と違い、言語の専門家でもなくてはならないのだ。
並大抵のことじゃない。
そして、それは最低限の条件だ。
私は厳しいことなんて言っていないことを、
歌手を志しているつもりの人達にどうしたら判って貰えるのだろう。

長い間、忘れていた激しいものが、
抹消したつもりでいた醜いものが、鏡から目を離した隙に吹き出す。
それらは、掃除の行き届いていないフィルターのように水を逆流させ、
私を汚そうとする。
皮肉にも私は、己の美しさに初めて気付く。

"優しい人"などいない。
与えられる強さがあるかどうか、それが全てだ。

切なそうに見える人は得だな。
私は自分の努力に見合わないものを沢山持っているように見えるのかな。
たった一つしか無いものを、
「ひとつ位あげてね」と取り上げられて黙っているのは、遠い過去の私。

曲作りでもしないとギターを持たない。
なんちゃってギタリストの風上にも置けないなぁ......
久々にギター小僧な気分だ。

蹴飛ばして何もかも遠くへやってしまったら
改めて追いかけよう
足の速い私に一生は長く退屈

地道な作業が山程ある。
最優先である水槽の水換えは終わった。
次は新曲"LORELEI"に集中する。
昨年末から既に頭の中では形になっていた曲ではあるが、
実際の制作作業過程に於いて、思わぬ精神的境地へと私を導きつつある。
ここのところ、もう裏方に回ってもよさそうな気分になっていた。
しかしこの曲をアレンジするうち、私の中のアーティストが再び目覚めた気がする。
いつの間にか、曲作りは自分自身の表現を通り越し、思考そのものとなり、
その都度の私の目を通した世界描写となっていた。
生み出された曲はそれぞれに生命を持ち、そこから勝手に動き出しはするけれど、
作者である私自身はどこへも向かわない。
だが、この曲は違うような気がする。
書き始めた時から、強い理性と野生を合わせ持つ何かが私の中で蠢いていて、
それは少しずつ形を変えては成長を続け、脳に侵入し、体を支配しつつある。
長い眠っていた"人間"かも知れない。何なのだろう。判らない。
だとしたら、或いは一度も目覚めたことが無かったのかも知れない。
このままこいつは私の中に居座るのか、一曲だけの奇蹟なのか。
ちょっと怖くて面白い。

鏡の中の人が言う。
ねぇ。あんたのこと素敵だって言ってくれる人なんかいない。
何もかも忘れて、私を信じてついておいで。
輝くにはあなたの体が必要だから。
そして意志も。

"優しさ"って何だろう。
人を怒らせないこと? .............違うよな。

「鏡の中のあの人」が私を迎えに来る。
孤独と言う名の馬に跨り、操り、とてつもない場所へ私を連れて行く。
「あの人」の笑顔は、夢でも見ているかのような気分の私の中に滑り入る。
そして又、目もくらむような崖の上に堂々と立たせるのだろう。

「〜症候群」のように、人は名前があると安心する。
ストーカー。ともすれば、ある種のステータスを持つ響き。
のぞき、痴漢、そんな恥ずかしい呼称で充分だ。

カタツムリは考えた。
背負ってしまったものは降ろしてはいけないのだろうか。
ナメクジだったことにしてそ知らぬ顔で暮らしては、、、ダメかな。
どうやって手ぶらで生きるのか、よく判らないけれど。

生き物が死んで人の記憶の中で生き続ける場合、その命は永遠かも知れない。
生きている内に誰かの心の中に生かされてしまう場合、
生身は既に死んでしまったことになるのだろうか。
生み出した生の証を、人は遺跡を発掘するかのように見るのかも知れない、、、、、お。
生のタテBINGOや......

うっ、いかん。
殻から出てしまいそうになった。
ナメクジじゃないんだから、、、丸腰の今出たら死んでしまふ。
目の見える内は、、、まぶたをしっかり閉じていないと。
また不感症に戻るまで療養せねば。
「あの人」は曲を作る時以外は熟睡しているから。

いつの日かまっすぐに地獄に落ちて、一番いい場所に置いて貰いたい。
天国の端っこが見える場所。
あの日の写真のように仲良く並んだニャンとピヨの尻尾が、
楽しそうに揺れるのが見える場所に。
その為に、生きている内に少しでも償っておく。

鏡の中のあの人が動き始めた。
手に負い難い、圧倒的なパワーとプライドを以て。
私は乗りこなせるのだろうか。

黒に見えそうな程に深い藍の、天にぶら下がる金の月。
あまりにも美しくて、一人で見上げているには勿体ない。
指さして教えたゆきずりの人は、月ばかりに気を取られていた私に、
そのすぐ隣にある同じ色の星に気付かせてくれた。
おとぎの国の空。雪の道。
この世では手に入る筈の無い世界の蜃気楼。
澄んだ空気の向こうでは、夢のドレスをまとったお姫様が、
月と星の物語を、手に届きそうな思いで描いていた。

星は輝くのをやめちゃいけない。
数え切れない中から、偶然見付けて指をさしてくれる人のために。

そろそろ跳ぼうか?
時期だな。
でも助走を始めれば又、手を振られそうで怖いんだよ。
かつてはあんなに善良な人を冷たく置き去りにしておきながら。
勝手だね。
腰が重い癖に、助走も短く、思い切り跳ぶ女。
決して人を傷付けない人に、辛い思いをさせたと今になって反省の念を抱く。
限りない感謝と。

闇を怖れぬのは愚かな証。

ニャンから私を取り上げた天の意志。
どこにあるか見えなくなりかけていた。
これがそうかと思った。
罰だったなんて。

適度に渇き、適度に潤い、適度に冷めて適度に熱く、
立ち上がって何とか歩ける程度に傷を負った人はカッコイイのだろう。
今夜寝る場所程度の身の置き場所があって、
瞳にはまだ生気が残っていて。

いい曲が書けたな、と思う時、
「あ、私はまだ生きてる」と実感する。
きっと生きている限り続くのだろう。
別に音楽である必要も無いのだけれど、他のものだと実感が無い。
共作でも、ヘルプでもだめ。
産み出して、命を与えて、動き出す瞬間を見なければだめ。

音楽は心の眼で見るもの、か。
強い人、能力のある人は、その度合いがとてつもない。
私はまだ、本当の天才には会ったことが無いのだと思う。
だってみんな人間の域を出ていないもんな。

人の生まれつく星には、少なくとも二種類ある。
奔放に生きて尚、愛される星。
どんなに誠意を尽くしても踏みつけられる星。
色んな星を見て来たけれど。
どちらに生まれつくかによって才能の向かう場所は著しく変わる。
才能はどこへ向かっても美しい。
それが人を幸福にするかと言えば、決してそうではないけれど。

命懸けで守った人が自分を守ってくれるとは限らない。
母の強さがあれば微笑んでいられる筈。

知らなくてもいいこと。
知らされたくないこと。
目を背けるのは簡単なこと。
誰か一人に背負わせて苦しませていると知って尚、平気でいられるのなら。

真実に掛けられた覆いを外す。
鏡の中のあの人が甦るのが見えた。

車到山前必有路。
首先人是要走到山前的。

So......
Alles gute zum Geburtstag!

気持ちの良い目覚め。恐ろしい夢を見た記憶も無い。
他人の事を純粋だの、優しいだのと言いながら、
結局、一番純なのは自分だったな......
文明人である以上は、生物として善であり得るとは思えない。
でも人として、私が怠惰であるとは思わない。
自分を悪人と呼ぶのはやめよう。
私が抱いた生き物達が残してくれたもの、
自然が教えてくれた大切なもの、
出会った人達が与えてくれた愛情。
未だ確実に私の中に存在するそれら全てを否定することになってしまう。
そんな素晴らしいものを持っていながら、つまらない人間である筈が無い。
罪を意識しながら、驕ること無く、自分の価値を認めよう。
一年前に、人である私は死んだ。
人として生きることを止めた私から今、新たな人が生まれた。
この人はこれからどれだけ生きてくれるのだろう。

さて。
新幹線に乗ると日が倍になる。
風呂にも入ってさっぱりしたとこでハタと思った。
明日、ニャンとピヨにただいまを言おう。
何か忘れてる筈だ。
とっても大事なこと。
それでも思い出せなきゃ、ステキチ達と野道でも歩くか!

未来。
目を閉じてもまぶたを透けて脳へ焼き付くもの。
今夜は死んだ夢を見るだろう。
こんな死に方をしてもどこへも行けない。
自分自身は好きじゃない。
でも肯定出来なくなったら、一日たりともまともに生きてはいられない。

© K. JUNO ALL RIGHTS RESERVED.
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