三次元漂流記 2005
命のかぎり [1月のモデル;命のかぎり]
水槽の中で、産卵用の網に隔離したブラックネオンテトラ。
生まれつきの奇形でエラ蓋がないが、非常に丈夫だった。
上の方に見えるのは、水面に浮かんだ餌。
一生懸命に上に向かって泳ごうとするも、
思うように体を操ることができない。
やっと水面に口が届いても、餌に辿り着けない。
苦しいだろうと思った。
それでも、生命とは諦めてはならないものなのである。

□■■ Jan 12th

ブラックネオンは時折、泳ぐ以外、横になって沈んだまま、エラを大きく動かしている。
随分、疲れやすくなって来たようだ。
餌を食べようとしても、もう水面まで上がれない。
恐らく、丸2日は何も食べていない。
浅ければ何とかなるのか?
昨日から考えていたことを実行に移す。
隔離ネットの封を開け、プラスチックの支柱を切り、
3分の1の深さに改造したものに移してみた。
ダメなら戻してやればよいだけ。
何故、もう1つ買ってあったのか.....?
きっと、この日の為だろう。
チリレンゲで掬おうとすると、泳ぎ出した。
慌てて逃げるという様子でもなく、浮いた勢いで餌に向かって行く。
実は、こうやって手助けしてやるアイデアもあったが、
蓋を開けっ放しでは他の魚たちが危険な上、
案の定、水面がかき回された為に餌がボロボロと沈んでしまう。
浅くなったネットの中、ブラックネオンは早速、上へと泳ぎ始めた。
食べたかどうかは判らないが、これまでと同じように、餌が口に当たるようになった。
今度は細工をしなくても、他の魚達が挟まることはなさそうだ。
ダータテトラが、恨めし気にネットの中を立ち泳ぎで覗き込む。
あ〜もう、判ったわかった。
魚も少食が長生きの秘訣と言うが、君達はよく食べ、よく生きるね。
みんな5歳を超えているのだから。


□■■ Jan 10th

ブラックネオンの泳ぎが変わった。
真上に向かうことしかできなかったのが、横向きに泳いでいる。
休む姿勢も、昨日までとは違って、縦。
魚本来の向きに戻っている。
少し泳いでは、すぐに休むところを見ると、それほどよい徴候でもなさそうだ。
暫くすると、いつものように横になってしまった。
何度か少しずつ、移動はしたものの、餌には辿り着けていない。
動いた後は、エラが激しく呼吸している。
あまり意味はないと思うが、停電の時の備えに買ってあったO2ストーンを3つ、沈めてある。
こちらは意味があると思うが、カビや菌の発生を抑える為のトウガラシも浮かせてある。
頑張ろうな。
毎日かけるこの言葉は、一体何を意味しているのだろう?
元通りになれることは夢ではあるが、現実的ではない。
生き長らえることは、苦しいことに違いない。
長さのことではなく、最後の瞬間まで闘い抜け、負けるなよ、そういう意味かも知れない。

昼過ぎ。
ブラックネオンは位置を変えていない。
これまでの眠っている時の静かな様子とは少し違い、エラの動きが大きなままだ。
限界なのだろうか。
底に沈んだ餌を、レモンテトラとキャッスルテトラが網の下側から器用に突ついて食べている。
疲れたね。
灯りを消して、少し休もうか。

「責任を取るのが厭だから、何ごとにも深く関わらない」という「主義」の人がいる。
そんな人が責任感が強いのかというと、決してそうではない。
自分の都合だけで相手を振り回す人間である。
関わるかどうかということは、自分の意志では決められない。
ものごとを真直ぐに見つめようともせずに、逃げているだけである。
関わりがあるかどうかと、責任があるかどうかは全く関係がなく、
責任のないことには手を貸さなくてよいという理屈も又、どこにもないのだ。

ニワトリ小屋の卵は一向に孵らないまま、つい最近、更に1つ増えていた。
最後に巣立ちした足の悪いカモっ子は、5羽の兄弟に仲間入りしたものの、
暫くは事あるごとに小屋の傍にいた。
近頃は寒いせいか、1羽のアヒルに率いられた他のカモ達とくっついていることが多い。
みんなで14羽。
土手からキョンが蹴落とした砂に驚き、群れ一同が走り出しす。
足の悪い彼は付いて行けなかったが、見事に羽ばたいて先頭を追い越していた。
今朝は小屋のある中洲に、みんなで寝ていた。
彼はやはり、母さん達の真ん前で丸くなっていた。


□■■ Jan 9th

寒さの余り、いつもより1時間も早く目が覚めた。
温度計を見ると、華氏で43度。
ひぇ〜。
摂氏ではマイナスだとか言っていた。
二重サッシでこれかよ。
両親の部屋の窓を閉め忘れていたというが、
扉は密閉してあるから、大きな関係はないだろう。
布団の足下に入れたミニホットカーペットのスイッチを足で入れる。
枕元のハロゲンヒーターも入れ、ようやく少しウトウトできた。
川コースに、もうあの犬はいない。
キョンが行きたいと言った山へ向かう。
美しい霜の朝。
丸い小さな葉っぱが白く縁取られ、上品なインテリアアート、という感じだ。
地面や枯れ草はサンゴ、道ばたのうんこはウニに。
「わーっ!」「わーっ!」
としゃがみ込んで観察する。
時折、ツルリと滑りながら進むキョン。
コンクリートの面は灰色のまま、キラキラと輝いている。
山道への入り口あたりの家の2階の出窓に柴犬がいる。
小さい時は、キョンと遊んだこともあるそうだ。
背中を向けていたが、我々に気付いてこちらに顔を向けた。
ご飯を食べた直後なのか、何かムシャムシャやっていた。
帰って来ると、植木鉢の氷は1mmほどの厚さになってはいるが、
まだ立て掛けられたまま残っていた。
表を見ているキョンに「キョン、お手々。」と言うと、
面倒臭そうに、ハンコを押すように短く、チョン、とくれた。


□■■ Jan 8th

おはよう。
毎日、呑気に寝起きしているかに見えるブラックネオンだが、
剥き出しの真っ赤なエラの後ろのヒレの付け根には血がにじみ、
どれほど必死に生きているのかを物語っている。
何と偉大なのだろう。
生き物は本来、こんな勇気を持っているものなのだ。
どんなに苦しくとも、先が見えなくとも、生き続けることを放棄しない、
私にはそれができるだろうか?
そんな、当たり前の強さがあるだろうか?

川のニワトリ小屋の中の卵が、また1つ増えていた。
誰か産んだの?
.....というか、小さいから、またカモの子かな?
君らは、ほんとに面倒見がいいのね。

散歩から帰ったキョンが、洗面器に勢いよく頭突きをしていた。
見ると、1cmほどの厚さの氷だ。
鼻で真っ二つに割って、水を飲んでいるのだ。
それでも邪魔らしく、氷に咬み付いている。
相変わらず、勇ましいなぁ。
怪我をするといけないので取り除き、水の足りていない植木鉢に乗せる。
端の方から新たに1層、氷り始めたところで、雪の結晶の一部のようになっている。
丁度、シダの葉の形だ。
水の分子の角度が肉眼で見えるのね。
今朝は霜柱が美しかった。


□■■ Jan 7th

犬年の年賀状に、ボンの写真。
3ヶ月の頃と、ついこの間の、
そして、お前だからこそ取らせてくれたであろう、足型。
「少し甘えん坊だけれど、優しいよい子」だって。
変わっていないんだね。
少し前の写真の時よりも少し痩せて、ちょうどいい体格だね。
顔も、体の色も、口の太さも、耳も、何もかもそっくりだよ。
ステキチ君に。
きっと、その性格もね。
素晴らしい犬に違いない。
違うのは、お前が愛情たっぷりに育てられて、少し甘えん坊な顔をしているところ。
お父さんはね、凛々しくて、厳しくて、強くて、どこまでも公平だったよ。
微塵の矛盾も無かった。
お前の写真を見ていると、ついつい、錯角してステキチ君に話し掛けてしまうよ。
ステキチ君と仲良しだったニャンの写真の後ろに立て掛けてあるよ。
あんな友に、また巡り合えることはあるんだろうかね?
犬でも、なかなかいない。
人間では望みないね。


□■■ Jan 6th

おはよう。
水槽を覗き込むと、ブラックネオンはまだ寝ていたが、私の足音を聞いて起きたのか、
顔を洗って出て来ると、もう泳ぎ始めていた。
おいおい、まだ餌を入れていないのに。
無駄にエネルギーを使うなよ。
パラパラパラ〜〜〜。
他の魚達が群がって来る。
君たちはまだだよ。
寝ボスケのマジタナスがまだボ〜ッとしているからな。
ま、あの子はコケが食べられるみたいだけれど。
夜、寝て、朝ご飯を食べる、という奇妙な生活が、何だか当たり前のようになっている。
1日は、「今日も頑張ろうな。」と言って始まり、
「頑張ったね、明日も頑張ろうな!生きような!」と言って終わる。
ブラックネオンは奇形が多い。
尻尾が縦に2つついていたのもブラックネオンだった。
近頃は、東南アジアなどで繁殖させているのが普通で、近親交配が進んでいる為だ。
だから、何だ。
たとえクローンでも、生命は生命だ。
何でも定義で価値を決めようとするのは、人間のレベルの低いところである。
人工だろうが何だろうが、生まれた命は、命以外の何ものでもない。
愚かなのはヒトの行いであって、結果であるものに責任は無いのである。
人間同士ならまだしも、他の動物の運命を売り買いするというのは、やはりおかしい。
犬が欲しいと言って「買う」人の脳みその構造もよく判らないが、魚だって同じだ。
見たければ、自分がアマゾンに行かなければ。
私がやめたところで、世間は変わらないかも知れない。
人間が「買う」のは、彼等を「お世話させて頂く権利」という、他の人間に対してのもの。
人間が他の生き物に対して「権利」を主張するのは、
ちゃんちゃらスカポンタンな話なのである。
自然から君たちを切り離した落とし前として、
せめて、最後まで面倒見て差し上げさせておくれ。


□■■ Jan 5th

朝、見ると、ブラックネオンは隔離ネットの隅に沈んでいる。
まだ目に生気はある。
エラと口はかすかに呼吸を続け、時折、胸びれが動いている。
いよいよか。
ものすごく頑張ったね、お疲れさん。
隔離していなければ、他の魚に目をくり抜かれ、追い回されて力尽きていただろう。
もともとは、UFOキャッチャーの景品として連れて来られたネオンテトラのお友達として、
君たちに来て貰ったんだった。
仲良くしてくれてありがとな。
君だけ、エラ蓋が欠けているのを病気と勘違いして、
魚に詳しい兄ちゃんのいる店まで訊きに行ったっけ。
奇形だから問題ないって言われたけれど、本当に君は丈夫で、
ブラックネオンの中では一番、長生きだったね。
うちにはもう、5年半もいるんだから、もう6歳位?
夕方にはもう動かなくなって、浮いているであろう、
そして、用のなくなった餌と共に、ネットごと外に出せばよいのだ、
という段取りまでが頭に浮かんでいた。
暗いのがいいのか、周りを見せてやるのがいいのか判らない。
明かる過ぎるのも疲れさせて良くないかも知れない、
安らかに休ませてやろうと、水槽の電灯はつけずに、玄関の明かりだけをつけておいた。

山へ行きたがるキョンを無理矢理付き合わせて、川コースへ。
やはり、昨日の餌を忍ばせて。
いない、いない、いない。
無法者を追い払う番犬の声も無い。
明日は雪だと聞くのに。
寝床は見つかったのだろうか。
雨のかからない休憩場所は?

昼。
まだ息をしている。
凄いな。
玄関を通る度に水槽を覗くが、目が活きいきと輝いたまま。
病気や老衰ならば、もう息絶えている筈なのだ。
飢えているだけなのか?
或いは浮き袋の故障かなにかで、食べられれば何とかなるのだろうか?
何とか、食べさせてやれないだろうか?
割り箸で餌を掴んで、口元に持って行ってみる。
これが又、想像以上に難しい。
せっかく浮いていた餌を巻き込んで、沈ませてしまった。
これでは、撤収が大変ではないか。
沈んだ餌をめがけて、レモンテトラ達が下からつつく。
おい、やめてくれ!
ブラックネオンの口元に大きなかけらを置けたものの、
弱々しく動くが、食べる気配はない。
試しに、水槽の電灯をつけてみた、すると.....
何と、泳ぎ出したではないか。
何じゃそりゃ!
幾度となく水面に顔を出し、餌も口に入ったようだ。
気のせいか、昨日よりは餌の場所が見えているかのようだ。
暗いから、寝ていただけなのか?
頑張れ、まっすぐ上に行け、こっちだぞ、などと応援していたら、
1時間以上経っていたらしい。
まだまだ泳ぎ回っていたので、水槽を離れて30分ほどして戻って来ると、まだ泳いでいた。
餌はもう食べたようだから、今日はもう寝なさい、ハイ、消灯。
暗くなって何分かすると、又、朝のように横になって眠った。
凄い奴だな、君は。
明日も頑張ろうな。


□■■ Jan 4th

今朝は私とキョン、2人だけでお散歩。
あの犬に会えるだろうか?
昨日、袋に入れたまんまの、キョンが食べるよりも少し多めの餌をポケットに、
川沿いを行く。
いない。
いそうな気配もない。
夕方、5時を回ってから再び探してみても、いたのではないかと思わせる空気すらない。

ブラックネオンのお腹はペッタンコ。
ここ何日も食べていないのだろう。
食欲が無い訳ではないのに。
他の魚がいなければ、ゆっくりでも食べられるのだろうか?
食べたところで、寿命なのだから、また弱ってしまうのだ。
待てまて、「面倒だ」という気持ちが理由に入っていないか?
確かに、とても面倒なことは間違いない。
「可哀想だが仕方がない」で終わらせられれば、何と楽なことか。
「面倒」以外の理由を挙げてみる。
既に弱っている場合は、水槽を移した途端に更に弱ってしまい、
恐怖と孤独の内に死なせてしまっても可哀想だ、実際にそれはよくあることだ。
他の元気な魚が飛び出してしまう危険が大きい。
特にうちには「ジャンプ系」の魚がいるから。
妙に慣れていて逃げないが故に、急に驚いて飛び出したりする可能性が大きい。
余命いくばくもない魚の為に、元気な魚の命を危険にさらすのが如何なものか。
.....やはり、無理か。
死ぬ寸前だからって、お腹が空いていれば食べさせてあげたいじゃない。
たとえ一口でも食べて、「やった!」と思わせてやりたいじゃないか。
何か方法がないかなぁ。
う〜ん、何か..... 頭の中を「検索」。
あった!
2つ買ったけれど、殆ど役に立たずにしまい込まれている「稚魚用ネット」。
深さ10cmほどの四角いあれを、水槽の中にセットすればいいのだ。
そうすればみんなと同じ水、同じ環境にいながら、
餌が確保されるし、水面に上がるのも楽になるかも。
斜め泳ぎだし、すぐに捕まえられるだろうから、他の魚が飛び出すこともないだろう。
あれなら、ダメならばネットから出して戻してやればいいだけだ。
よし。
魚をすくう網がなくなってしまっているので、買いに行く。
近所のスーパーには、白い網しか無かった筈だから、少し先のホームセンターに行く。
すると、、、、、白い網が、大、中、小、、、、、何でやねん!
白い網なんか、一番いらんやないか。
魚をすくうには、草と同じ緑色の網、ナマズなど夜行性の魚には黒、
白は魚が怖がって逃げる、ゴミとり用の網じゃい!
一番必要な緑が無いやんか。
その癖、「コケをなくす」「水換えが要らなくなる」「バクテリアで何とか」みたいな、
詐欺商品や、魚の命をおびやかす製品だけはずらりと並んでいる。
客を金ヅルとしか見ていないのがよ〜判る。
くそ。
近所のスーパーに逆戻りじゃ。
もしかしたら、黒いネットがあったかも知らんが、最悪、白いのもあるやろう。
、、、、、と、無い!
何色のネットも無い!
毒フードや不凍液ジャーキーの並ぶ売り場は、売る気すら感じられない。
いかん。
今日のところは白でもいい。
あいつは、逃げ回れるような状態ではないから。
再びホームセンターにチャリを飛ばす。
半分ブチ切れながら帰宅し、あっさりとブラックネオンを稚魚ネットへ。
緑だと記憶していた稚魚ネットも、あいにく白だった。
どう?
うまく泳いでいる。
狭くなったのに、ぶつかることなく、方向をコントロールしながら。
.....ということは、却ってしんどいのかい?
どうなのだろう。
迷う。
餌を入れてやるが、全然、見えていないのか、思うように動けないのか、
上がっては来るものの、少しも食べられないようだ。
そうだ、水面一杯にしてやろう、寝る前にすくい出せばいいんだから。
それでも、食べるところをとうとう見なかった。

ファンキーなシルバーハチェットが絶えず、
平たい体をネットと水槽の隙間にねじ込んでは閉じ込められるので、
あれやこれやと工夫をして、一段落、と食事をしようとしたところ、
手を洗いに玄関へ行った折に見ると、
今度はおでぶのダータテトラが挟まっていて、
挟まったダータテトラに出口を塞がれたハチェットが、やはり閉じ込められて困っていた。
君らはコンビか!
たまたま、1つだけ残っていた水草用のおもりを垂らし、
ネットと水槽の間に1cm位の隙間を開けることができた。
その隙間は、おでぶダータテトラのお気に入りになり、時々、眠ったりしているようだ。


□■■ Jan 3rd

キョンの川沿いお散歩コース。
首輪のない、キョンよりひとまわり大きな薄茶の雄犬が近付いて来た。
キョンは早くから唸っている。
喧嘩になっては大変と、キョンを押さえ、落ち着かせる。
緊張していると、向こうは遠巻きに通り過ぎた。
散歩中の犬や番犬達に次々に鳴かれ、
キョンと仲良しの小さな雌のダックスちゃんにまで吠えられて、逃げていた。
畑の中に入ってキョロキョロしたり、犬に近付いたり、明らかに困っているのである。
ダックスちゃんを連れたおじさんは、捨て犬だと言っていた。
夜、来てはダックスちゃんに吠えられて、追い返されるのだという。
可哀想に。
何てことをするのだろう。
どんな事情があろうと、許せない。
「事情」?
そんな言葉を使う奴に限って、大した事情など持っていないのだ。
本当に生活が苦しくて、とかだったら、自分の子供は手放したんか、
その後、首でもくくったんか?!
言い訳ばかりする奴は、結局、自分のことしか頭にない。
どんな事情があろうとも、結果が全てだ。
己が大変ならいいんか、
己が苦しいなら、他に与えた苦しみはゼロになるんか、違うだろう!
首を締めに行ってやるから、名乗りに来い!
だがその前に、頭を地面にこすりつけてでも、犬の行き先を確保したらんかい。
そこまでできる奴が「事情」なんて甘ったれたことは言わんがの。

眠い。
昼食後、目を開けていられなくなり、部屋のコタツで寝転んだ。
あの子はどうしたろう。
捨て犬特有の、人に対しての頼りたい気持ちと怯えた様子が感じられた。
もう大きいから、拾って貰える希望も薄いだろうか。
まだ困っているんだろうな。
ガリガリだったから、何日も食べていないのだろうか。
キョンが受け入れないし、付いて来てくれそうにもない。
一時預かりというのも無理そうだ。
だったら、何もしてやれないのか?
せめてうちの近所ならば、餌を置いてやることもできるのに。
せめて、食べ物だけでも..... ん?
何で餌をあげられないのだ?
あげればいいじゃないか。
人目があるからか?
「野良犬に餌をあげるのは悪いこと」ということになっているからか?
何が悪いんや?
本当に悪いか?
いや、断じて悪くない。
「飼う気が無いのに餌をあげるのは無責任」ということになっているから?
根拠がない。
無責任なのは誰やねん。
ただのババ抜きやないか。
「どうせ死ぬんだから」?
誰かが助からん病気と判ったら、飯を食うのは無駄なんかい?
大体、みんな何で犬なんかしゃあしゃあと「飼って」はるん?
産ませるのも勝手、売るのも勝手、売れ残って実験に回すも勝手、
品物みたいに買うのも勝手、思ったように育たんからと捨てるのも勝手、
ならば、困ってる犬に1度でも餌をあげることも勝手と違うんかい?!
何をためらう必要があるねん。
そうや、あげたらええ。
がば!

勇み足で家を出たものの、朝の捨て犬どころか、犬一匹見当たらない。
いや、人目を忍ぶ為に犬の散歩ラッシュを外したのだから当然ではあるが.....
ダックスのおっちゃんの家ってどこやねん?
せめて、通り道でも判れば、他の犬の通らんところに置いて行けるのに。
1時間ほどウロウロして、餌の置けそうな溝の位置だけをチェックして帰った。
5時過ぎにもう1度行ってみても、やはり、どこにもいなかった。

命を「救う」ことはできないのである。
何故なら、地球はひとつの生き物だからである。
地球上に於ける生命エネルギーは、常に一定なのである。
ひとつの命が生き延びるということは、相応の命が奪われるということ。
我々は、何ものをも救い得ない。
日々、手加減のない厳しい瞬間を切り抜けるだけ。
それこそが「生きる」ことの本当の意味であり、
それのみが「生きる」という行為である。
己を、そして愛するものを生かそうとする。
「生」とは、非情なる女神への闘いの連続でしかない。
それ故に、自然の生き物の間には「悪」は存在しない。
それ故に、彼等は全て、善良なのである。

「今日、死なない」ということは、明日へのチャンスをつなげられるということ。
それは、大きな意味がある。
それは正に、「生きる」ことの本来の意味である。
今、死んでいない、それが、生きていること、
それを継続させることが、生きるということ。

ここ2−3日、ブラックネオンの調子がおかしい。
まっすぐに泳ぐことができずに、上に向かっては沈み、を繰り返す姿は、
体色と相まって丸でペンギンテトラだ。
体は常に斜めで、餌を入れても水面まで辿り着けない。
やっと口に入れることができたと思っても、すぐに吐き出してしまう。
金縛り状態で必死に起きようとするのに体が動かないようなものなのだろうな。
それがずっと続く上に、お腹もペッタンコでは、余りに気の毒だ。
テトラミンなどの薄いフレーク状の餌ならば、
口に入ればすぐに切れるから、食べられるかも知れない。
水槽は汚れるケド。
餌はまだまだ残ってはいるが、ためらう理由は無かった。
はてさて、食べることができるのか.....?
いつもと違う餌に、魚達は大喜びでパクパク、、、、、
肝心のブラックネオンには、一口もあたらない。
隔離するか?
弱った魚を移動させるのは、余り感心できることではない。
老衰を「治療」することはできない。
何かしてやれることは?
う〜ん、思い付かない。
© K. JUNO ALL RIGHTS RESERVED.
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