三次元漂流記 2003
ツバメっこ [6月のモデル; となりのツバメ]
防犯灯っちゅうんですか、センサーで勝手に灯るやつ。
あの上に巣を作ってしまったもので、夜は大変だったと思います。
熱いし、まぶしいし。
うちの戸を開けても、自分ちの犬が動いても、反応してしまうのです。
下には番犬がいて、カラスやネコの脅威からは守られていました。
しかし、土台に少し無理があり、5羽生まれた内の3羽は、
成長の段階で落ちて、死んでしまいました。
この時は、3羽いたと思います。
大きな口を開けておねだりしています。
巣立ち間近になると、先に生まれた兄姉でしょうか、
何羽も、様子を見に来ていました。
まるで、空は楽しいよ、早くおいでと誘っているようでした。

□■■ Jun 27th

自転車カゴに、又もや子猫の兄弟が!
前の日に見たチビは、子供用の自転車のプラスチックの小さなカゴに、
2匹いっしょに入っていた。
その両側にはそれぞれ、いつもの子たちが別々に寝ていた。
気が付いた順に、跳び降りて走って行く。
毎回、起こすの悪いね。
そーっと出て行くんだから、寝ていてくれていいのに。

地上電車の乗り換え駅で、スズメの声が妙に騒がしいと思ったら、
鉄の梁の間にいくつも巣があるようだ。
灰色の無機質な格子の間を、親鳥が忙しく餌を運んでいる。
ハトたちは、群れることも邪魔することもなく、すぐ横でおとなしく止まっている。
本当に平和の代名詞にふさわしい鳥だな。
真っ白でなくとも。


□■■ Jun 24th

雨の自転車置き場に、いつもの子猫...... おや、数が多いぞ。
4匹ほどいて、半分は茂みに逃げた。
自転車カゴを寝床にしている子たちは、警戒の姿勢で、こちらをうかがっている。
その隣では、小さな手のひらサイズの黒い子が、一心に遊んでいる。
まだ危険や恐怖というものを知らないのだろう。
子供ながら、弟妹の面倒を見ているのだろうか.....
親らしき大人のブチ猫は、少し離れた場所を気ままに歩いていた。
猫は家族で暮らすのだっけ?


□■■ Jun 23th

真似をするのも、違ったものを排除しようとするのも、本能である。
己と種を守る為。
地球上の一生物に過ぎないという、根本的な事実も見ようとせずに、
変わったことをやりなさいだの、いじめはダメですだの、生き甲斐だの、
何を言ってみても、中身がスカスカで、説得力のかけらもない。

戦争も知らない、スーパーで肉の切り身を買い、
テレビ画面で飢えた子供を見てもダイエットなどほざき、
涙が出ればそれで感動だなどと思っている、
どうしようもない若者ばかりになってしまったら、
もう誰にも元には戻せない。
「文明」は、ある種のカルトだから。

君が悪いとは言っていない。
君は醜い、それだけさ。
一生懸命、言い訳したって無駄だよ。
だって、責めていないんだし、醜さは変わらないから。
いや、さらに磨きがかかるね。


□■■ Jun 21th

何も無い溝にキョンが興奮していた。
以前、別の場所で、水が跳ねたのか、魚だと思って跳び込んで暴れたことがあった。
ここにも魚はいるけれど、それはもう少し向こう。
濁ったたまり水しかないのに、何故こんなにむきになるのだろう。
よ〜〜〜〜〜く見ると、端の方に黒っぽいカメがいた。
目立たない色、ゴミか石のような、掌ほどもないそれは、首も動かさずにじっとしていた。
よく見付けたね。
いつも、ちらりとも覗かずに通り過ぎる場所なのに。
去年、アカミミガメがうちに迷い込んだ時のことを思い出したよ。
クロスケと鹿の子ちゃんが見付けて、大騒ぎしていたんだった。
君たちは、本当に命に敏感だ。


□■■ Jun 19th

自転車の前カゴに気配を感じた。
灰色の猫だ。
今度はこちらの方がかなり先に気が付いた。
猫は体を起こして、振り向くような姿勢になった。
正面を向いた顔には、まん丸の目。
2台ほど右側の前カゴでも何かが動き、同じまん丸がパチクリした。
こっちはトラ猫。
2匹とも同じ位の大きさの仔猫だ。
狭い隙間をすべるように、音もなくコンクリートの上に降り、
すぐ前を走っている浅い溝に揃って身を隠し、息を潜めた。
小さいから、そんなところに隠れられるんだね。
長い尻尾がのぞいているけれど.....


□■■ Jun 14th

愚かだね。
ランプの中から出してくれた恩人を葬れば、
良い魔法使いと偽って、
花や蝶と楽しく暮らせると思っているのかい?
下手な手品以下の魔法で、私を封じ込められるとでも思っているのかい?

被害者のフリをしても無駄だよ
あんたの部屋からは
盗まれた宝がザックザク


□■■ Jun 13th

マンションの横が雀のマンションなら、階下は自転車のマンション。
マンションと言っても2階建て。
「2階」に泊めるには、持ち上げねばならない。
背の届かない子供は言うに及ばず、女性やお年寄りは大変だろう。
1階に泊めた自分の自転車を出そうと近付くと、前カゴに何か、いる.....!
2階の「床」の陰でよく見えなかったが、灰色の小柄な猫らしい。
きっと、この間、階段で見た子だ。
向こうも、うろたえる私の気配に気付いて、あ.....!
と、心の中で小さな悲鳴を上げておろおろしていた。
何しろ、2階の「床」が頭の真上にあるもので飛び出せず、こちらの様子も見え難いから。
互いに暫く固まった後、猫の方が静寂を破った。
細い体で、細い隙間を越えて跳び降りた。
急いで何歩か逃げて振り向き、重なるスポークの隙からこちらを観察している。
そーっと自転車を出す。
猫は少し安心した様子だった。
ごめんね、安らぎを奪うつもりは無いんだよ。
安らぎか.....
私の自転車の上に、あったんだ。
そんなものが。


□■■ Jun 10th

螢がいた。
今年も、まだいてくれた。
年々、少なくなる。
来年はどうだろう。
大人を教育するには、子供を教育するのが一番。
「おじいちゃん、捕まえて持って帰って来たら、
 螢が子孫を残せなくなって、地球から消えてしまうんだよ!」
子供達が大人になっても尚、豊かな生命の星であるようにと願うこと、
その為に努力すること以上の「子供達のため」なんてあり得ないだろうに。


□■■ Jun 9th

広げ切ると、摩擦で止まったまま口を閉じない洗濯挟みがあった。
力が加わるとパチンと元に戻るのを発見して、ささやかな遊びをしていた。
ベランダのコンクリートの上に落としてみたり、自分の足を挟んでみたり。
あることを企てた。
そして、その機会はすぐに訪れた。
ベランダの下は、あの猫の通り道だった。
いつものようにまっすぐ、悠々と歩く仇にタイミングを合わせ、
一杯に口を広げた洗濯挟みを落下させた。
即席ミサイルは意外にも命中し、脇へ飛んだ。
猫は驚いて立ち上がり、頭をこすった後、声も上げずにまたゆっくりと目的地へと歩いて行った。
怪我をすることも、洗濯挟みに挟まれたままの姿で恥をさらしてくれることもなかった。
私の復讐は終わった。
命を賭けて日々を生き延びている野良猫を憎む理由のないのは判っていた。


□■■ Jun 6th

数えきれないまぶしい思い出と、愛情の死骸の山。
ごめん。
あんなに楽しい日々をくれたのに、私の涙は真っ黒だ。
扉の中には君たちの戯れる美しい花園があって、私は門番をしているんだ。
時々、中をのぞいて、しっかり守らなくちゃ、と思うんだよ。
代わりに、色々な人に君たちのことを話して、笑顔をあげる。
君たちの友達が困らないように、楽園だけじゃなく、この世界も守るよ。
君たちと出会えた素晴らしい空間がいつまでも存在するように、
君たちがまた生まれて来る場所があるように。
何世かかってでも。
君たちに巡り会えるまで。
そんな地球に戻る日まで。

2代目チーコは、初代チーコにそっくりだった。
頭が良くて好奇心が強く、相手が鳥であろうと人であろうと、音や癖をすぐに真似る。
言葉も50種類は覚えた。
歌も覚えている最中だった。
真っ黄っ黄の体に紅い目、白い頬。
セキセイインコ特有の、高くて愛嬌のある声だった。
10歳の頃の図画工作は、チーコばっかり。
長い下羽が格好よくのぞいていれば逃げてしまった最初のチーコ。
そうでなければ、2代目。
飛べない分、甘えん坊で、おちゃめだった。
チーコは自分の言葉を持っていた。
嬉しいことがあると、
「チーちゃん!」
と可愛らしい声で言った。
歌が途中で判らなくなると、
「チーちゃん!」
でごまかしておしまいにした。
ふざけて驚かすと、
「チーちゃん! チーちゃん!」
と叫びながらピョンピョン逃げた。
何か失敗すると、頭の毛を逆立てて、照れ隠しをした。
宿題をしていると、手にとまって、鉛筆に興奮してつつき、私の字を滅茶苦茶にした。

慣れている鳥でも、どんなに人と仲良くなっても、本能は欺けない。
最初のチーコも、空への憧れを殺せなかった。
だから、チーコにそっくりな新しいチーコは、飛べなくした。
力の限り羽ばたいても、跳ねることしか出来なくした。
チーコは飛ばない。
たとえ、外でカゴから出しても、逃げて行かない。
信頼の証などではなかった。
ただの傲慢だった。
チーコが大好きだった。
チーコも私を好きだったと思う。
だが、どちらがどちらを守れる関係でもなかった。
私は馬鹿で無知な子供で、チーコは飛べない鳥だった。

面倒臭がりの私が、朝の7時の鳥カゴ掃除を始めた。
掃除の前か後には、チーコを家の裏に連れて行って、土の上で遊ばせていた。
チーコは夢中で地面を探索し、色々なものをかじった。
いつもの三日坊主の筈だったが、3日も持たなかった。
いや、ちょうど3日だったろうか。
この「お世話ごっこ」を、観察している者がいた。

2日目だか3日目だか、不吉な気配が視界を遮った。
形容し難い、音とも気流ともつかない、まさに気配だった。
茶色い影が目の前に現れ、形になる前に消えたかと思うと、
地面で遊ぶチーコの姿が無くなっていた。
頭の中が空っぽになった。
次の瞬間、何が起こったかを知り、路地に吸い込まれた影を追って走り出した。
チーコの名を呼びながら、闇雲に走り回った。
表で影を目撃した子の話から、いつもうろうろしている虎猫だと知り、
その寝ぐららしき辺りも探したが、もはや影すら見付からない。
見付けたところで、どう出来た訳でもなかったろう。

どれほどの時間が経ったのかは判らないが、
玄関に帰りついてまだ呆然としている私を母が抱き締め、
私が悲しんでいると思ったのだろうか、
泣きなさい、忘れてしまいなさいと言った。
意味が判らなかった。
現実を受け入れていない頭は、悲しむという段階では無く、
また、忘れるべきことではないのだと感じていた私は、
「この人は、一体なにを言っているのだろう」と、かすんだ意識の中でぼんやり思った。
猫は遊びながら殺し、最後に食べるのだ、と、現実主義で正直な父が言った。
うつろな瞳でゆっくりと部屋に戻った。
その前に朝食などとったかも知れない。
喉の中と外をひっくり返してのたうち回ったのは、
ずいぶんと時間が経って、記憶が整理できてからだった。

チーコは、きょんに遊ばれる虫のように、
猫に弄ばれながら、
「チーちゃん!」
と助けを求めたのだろうか。
そんな余裕すら無く、鳥本来の悲鳴をあげて逃げようとしたのだろうか。
ただ、私の呼ぶ声を確かに聞きながら、絶望の縁をさまよっていたに違いないのだ。
私の運命は、多分、この時に決まっていた。


□■■ Jun 4th

さすがにびっくらこいてしまった!
「歌うことが大好きです! 80年代ロックと言うと、ビートルズくらいしか知りませんが.....」
ショックのあまり、先へ目が行かなかった。
いいとか悪いとか、問題外に、純粋に驚いた。


□■■ Jun 3rd

太陽が照らし出していた幻想の消えた、ふもと。
遠くの町は、闇に吸い込まれてしまった。
明日やって来る光の為のかすかな目印だけが、湿った空気の中にちらつく。
山の輪郭の上に、細い金の弧。
あの星は、こんなに近い。
そちらも、夜ですか?
こちらは、夜に見えていますか?

少し足を伸ばしたついでに、きょんのおやつを買いに行った。
スーパーに並んでいるようなゴミ餌もあるが、まともな餌も沢山、扱っている。
最も金になるという生体もやはり売っているここは、熱帯魚店としては穴場かも知れない。
水槽の数は少ないのに、珍しい魚が多い。
珍カラの季節でもないのに、この間も、ガラスに貼り付いてしまった。
特に印象深かったのは、グラス・ハチェットだった。
実物を見たのは初めてだ。
思ったほど透けていないので、最初はマーサ・ハチェットか何かかと思った。
キラキラと七色に光るお腹の他は半透明で、体長は2センチもあったろうか。
縦に平たく、表面積の大きな形が、そのきらめきを生み出すのだろう。
ハチェットの養殖に成功したという話は聞かないから、アマゾンから来たのだろう。
同じ水槽にはドワーフ・ボティアとシグナル・テトラ、
隣にはコーヒービーンテトラ、、、、、etc。
下の方には、名前も姿も初めての、不思議なコリドラス。
ダイヤモンドネオンなんかも当然のように泳ぎ回っている。
地球の裏側にいる筈の美しい魚が、お金を出せば自分の「所有物」になるという状況は、
一体、何なのだろう?
繁殖法が不明であった頃は1匹で車1台分の値うちがあると言われたネオン・テトラ。
ワイルドにはかなわないとは言え、
養殖でも充分に鮮やかな1匹20エンの彼等は、今やアロワナの餌。
まだ来たばかりで慣れていないのか、
少し怯えた様子でウィローモスの影に揺らめくその20エンの群れは、
身売りに出されたばかりの乙女を思わせる。
そのはかないあでやかさに、私の目は釘付けになった。
珍しい魚が沢山いる中、この最もどこにでもいそうな魚を最も美しいと感じる自分に驚いていた。
頭のいいオウムは、狭いカゴでストレスと闘いながら、客の下らないちょっかいの相手をし、
売れずに少し大きくなってしまった犬が、客と「触れ合って」いるのを横目に、
お得意様のスタンプをひとつ押して貰ってお金を払い、
棄て犬の為のボランティア組織の寄付箱にまた釣り銭を入れ、店を後にした。
この国に必要なもの、欠けているものが何であるのか、
そして「はみだし者」達が反発して問題を起こす理由、そしてその解決法、
以前から判っていたそれらを更に強く確信していた。
ニャンがお世話になっていた病院の横を、自転車で走りながら。


□■■ Jun 1st

媚びと尊敬は違う。
陰口を言い合う間が、尊敬で結ばれている筈が無い。
互いを利用する為に絡み合った、ぬるぬるとした触手。
絆だと言い張るのなら、勝手にするがいい。
認めたフリをして貰えるのは、うるさいからだよ。
媚びですらないのだから。
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