[玉葱の丸煮]

この「玉葱の丸煮」は、昭和初期に先の住職が本山の大徳寺へ移られて慈光院が無住になった折り、留守番役に入られた森トノさん(下写真)が始められたと言われています。
当時はこの辺りも田圃が一面広がっているような田舎で、当然近くに店なども無く、当院で何か食べさせてもらいたいと仰る参拝の方に、畑で採れた野菜や境内に生える山菜などあり合わせの材料で精進料理を出しておられました。
その中で、先ず第一に保存のきく材料であり、そして冬場には身体の温まる料理をということから考え出されたそうです。
玉葱を3・4時間煮込んだだけのシンプルな料理ではありますが、玉葱の産地や採れた時期によっても柔らかくなる時間は異なりますし、さらには使う水も当院にある江戸時代から使われている井戸の水でないといつもの味が出なかったりと微妙な部分もあります。
最近は飽食の時代で、珍しい食材や手のかかった飾り立てが多い中にあっては、とても単純明快な料理ではありますが、物の少なかった時代のおもてなしの心を感じて頂ければと思います。

 晩年の森トノさん