一人医長と言うものはなんのことでしょう?医長と言えば、その病院の産婦人科では一番偉い人の訳ですが、部下は居ません。一人で毎日、外来も、お産も、手術も、当直もしなければなりません。もちろん大学からは、週一回か二回ヘルプと称する、お手伝いの若い医師が当直や、手術の助手に来てくれることになっているのですが。しかし、私の赴任した病院はお産が少なくなっていましたので、前任の部長が退職後も週一回当直と手術の助手をしてくれるだけで。大学からのヘルプは有りませんでした。
この病院は救急指定では有りませんでした。ですから、産婦人科に限らず、原則として救急車で運ばれてくる患者さんは診なくともすむのです。しかし、産婦人科と言う科目は特別です。たとえ月に10件の分娩予約しか入っていなくとも、陣痛が始まれば、それが夜中であろうが、日曜日であろうが、断ることができないのです。つまり、院外に、予約の数だけ、必ずいつか来る救急患者を抱えているのと同じです。ただ、その方たちが何時やってくるのかが分からないだけなのです。これが、なかなかやっかいなことで、我々産婦人科医の日常生活に多大な影響を与えるのです。今日はお産が無い、と保証が有れば、祇園で酔っぱらって居ようが、遠くのスキー場や、ゴルフ場で遊んで居ても良いわけですが、それが分からない以上、病院から1時間以内で帰れる場所にしか、出かけることができないのです。
実際、今日はお産は無いだろうと予想して、(その根拠は?数日以内に分娩予定日の患者さんがいない・・・、こんなことなんの保証にもならないのですが)上さんと、どこかに食事に出かけたとします。こういうときに限って、ポケットベル(今なら携帯電話)がなるのであります。仕方なく、途中から病院へ戻るのです。当然、かみさんの機嫌はすこぶる悪くなるのでした。