―project!―
「……誠ちゃん。ここ、教えて」
ここ。と数学の問題を指す。
「……ちー。だったら今は飲食は禁止。」
置いてあった袋の口を丸めてゴムで縛る。……それを見た第三者のクラスメイトの一人。この二人の共通の友人とでも言うべきか?……いや、それではなんだか誤解を招いてしまいそうだ。なぜなら、教科書を指差した人物は不思議っ子と言われながらも愛らしい顔と動作で人気者であるし、袋を縛った人物はその不思議っ子の世話はもちろん、クラスを纏めることすら苦にしない頭脳明晰、スポーツ万能の爽やか好青年だったりするのだから。
まぁ、つまり。二人ともクラス内はもちろんのこと、学校でも結構な注目されている人物と言う事である。その二人と仲良くなりたい人間は結構いるし、実際に仲の良い人物はいたりする。その人達とこのクラスメイトの違いは……この二人が本当に付き合っている恋人同士であるという事を知っている点である。その人の名は三波涼(ミナミ・リョウ)である。彼はとても不思議そうに首を傾げて
「……なぁ、誠吾…なんでちーちゃん、煮干し食ってんの?」
と口にした。誠吾と呼ばれる人物は、ちょっとだけ片眉を器用に上げて見せ
「ちーのおやつだよ。前にちーがせんべい食べてたら、皆が匂いに惹かれて群がって、ちーの分ほとんど無くなったし」
その群がりの先頭に立っていた涼は、ちょっと居心地悪気に苦笑いなど……
「だから、それは悪かったって。……でも、みんなが勝手に後に続いただけで俺の所為にされてもさぁ……」
ぶちぶちと文句を小声で言いながらも、誠吾にこれ以上、小言を言われては堪らないと千草に話題を振る。
「でも、ちーちゃん、煮干しって美味しい?」
「うん」
誠吾に教えてもらって問題をクリア出来た千草は、ほっと軽く息を吐いた後、真顔で頷いた。そして、徳用大袋の煮干しをまた開けて、口に放り込む。
「にゃんにゃんのおやつにもなるから結構良いよ。……涼ちゃんもいる?」
袋の口を涼の方へと向けるが涼は、苦いのは苦手なんだよね。と笑って断った。
千草は、別段、気を悪くした風もなく、自分の真ん前にいる誠吾に向かって
「誠ちゃん。……最近、誠ちゃんが家に来なくてにゃんにゃんの元気がないんだ…」
と言ったその後に、言外に「来てくれる?」とおねだり光線を出している。その訴えかけるような瞳を恋人が受けて断る事なんて出来ようか?……いや、出来はしない。
誠吾はちょっとばかり、困ったように微笑んだが最後には軽く頷いた。そして、その時、同じ学級委員の女子に呼ばれて席を立った。
その姿を見送りながら、
「ちーちゃん……もしかして、計画的犯行?」
なんとも言えない顔をして涼が聞く。あえて言うなら、その顔は呆れ顔に近いかも知れない。それをしっかりと目にしながら千草は、ん〜、と悩んだような顔をして
「だって誠ちゃん、休み前しか相手にしてくれないんだもん」
と、恥ずかし気もなくサラリと口にした。涼は、溜め息を吐きながら小さく呟く。
「それはちーちゃんの体を思ってでしょうに……」
もっともなお応えであり、誠吾の真意もその答えで間違いはない。だけれど、それで納得する千草ではなかった。その証拠に可愛い顔して、桜色の唇から吐き出されたのは
「俺は嫌なの。だから誠ちゃんをその気にさせるために良い事考えたんだ」
と。それに、にゃんにゃんが元気ないのも嘘じゃないよ。と。それを聞いた涼は恋人のために欲望を制御しているにも関わらず、その努力を恋人本人に壊される哀れな誠吾を想い、天井を仰いだ。
そんな涼を横目に、千草は指に持っていた煮干しに想いを込めてキスをしたのだった。