―夏祭―

 

 

 

 

「ディーク、何か食べないの?」

僕は、沢山の食べ物が売られているのを見て不思議に思って聞いた。

「私だけ食べてても面白くないでしょう?その間、暇になってしまうでしょうし」

と僕の顔を見て真顔で答えた。僕は焦って

「そんなことないよ。僕もいろいろ見れて楽しいし……」

「……そうですか?……ですが、一人で食べるのも……あなたが食べさせてくれるなら楽しいですが……」

返ってきた返事と流し目に僕は返事に詰まりながらもいつも僕に付き合って何も食べないのにこんな所に遊びに来た時まで僕に合わせてもらうなんて悪いような……。だって、ディークは悪魔だから(食べなくても全然支障はないんだけど)一つの楽しみとして食事を摂るのが普通なのに。

「……本当に僕が食べさせたら良いの?」

ぽそっと小さな声で聞いた。ディークはちょこっと驚いたように目を開いた。けど、嬉しそうに微笑むと

「良いんですか?」

と僕の顔を覗き込むようにして悪戯な視線を送られた。

僕が小さく頷くと、周りに人間が居るのも構わずにディークは僕の額にキスをした。僕は驚きと恥ずかしさで真っ赤になって硬直した。……歓声が沸いたのを遠くで聞きながら。

 

 

 

 

なんで僕達が人間界に来たかと言うと、やっぱりディークの一言から始まった。

何やら機嫌の良いディークは僕を腕の中に抱きしめながら、楽しそうに笑って言ったんだ。

「ルイ、良いとこに行きませんか?」

「……良いトコ??」

「ええ、楽しい所です。きっと、ルイにも気に入って貰えると思いますよ」

と何やら意味深な言葉で。それを聞いた僕がちょっと不安になったのは言うまでもない……(過去の経験より:泣)

でも、ディークが優しい目をしていたからなんだか断る気にはなれなくて、僕は頷いたんだ。

すると、ディークはやっぱり嬉しそうに微笑んで僕と自分の姿を人間界に行っても大丈夫なように魔法を掛け、飛んだ。

……魔法を掛けたディークの姿は、前に着たのと良く似た浴衣を着ていた。でも、色は少しだけ明るめで白のストライプが細く入っていて格好良かった。そして、履いている下駄は濃い色の木で出来たもので艶があって綺麗で。……けど、何と言っても際目付けには、金髪に青い瞳。魔法を掛けた後でも十分カッコイイけど目立たないようにするにしては上手くいってないように思えて聞いたら、ディークは

「黒にしても良いんですが、私達のような骨格の顔でそうするとハーフに見られて、話し掛けられる危険が多くなりますから。多分、あそこには日本人がほとんどでしょうし……」

だった。ついでに言うと僕は、濃い茶の髪にグリーンの目。浴衣は、白地に大輪の花が描かれたもので前よりも大人っぽい感じだった。下駄にも華やかな絵が描いてあって可愛かった。

で、最後の仕上げに髪留めに揺れる飾りの付いたピンを前髪にさして出来上がり。

……ディークはその僕を見て満足げに微笑んだ後、「艶っぽいですね……似合うと思って用意したんですが……脱がしたくなって仕方ありません」と少しだけ困ったように笑ったんだ。

 

 

 

「……じゃあ、何にする?」

僕は、思い出すのを止めてディークに何が食べたいか聞いた。

「私は何でも構いませんが……そうですねぇ……あっ、良い物がありましたよ」

「え?」

「あれならあなたでも食べれます。……ただ、味はないんですが……」

「僕が食べれる物??」

「ええ。あれです」

《あれ》の先にあったのは、氷。僕は、驚いたけれどディークは一緒に食べれる物があって良かったですね。と優しく微笑んでくれたから僕も嬉しくなって笑った。天使でも水や牛乳なら命を奪っていないから大丈夫なんだ。ただ、実際に口にする機会はほとんどないけど…。

買ったかき氷は、僕仕様に何も掛かってない氷。蜜や練乳をかけなくて良いのか?とお店の人は不思議がったけれど、ディークが念を押して言ったらそうしてくれたんだ。ディークはスプーンで掬った氷を僕に向けて

「はい、どうぞ」

「えっ!?」

にっこり微笑まれてすごく驚いた。さっきキスされた時みたいに動けなくなった僕にもう一度、微笑んで

「はい」

と口元へと……。僕は上目でディークを見上げながら口を開けた。途端に舌に触れた冷たい感覚。味はないけど口に広がる感覚はなんだか嬉しかった。それに冷たい物を口にしているのに心は暖かくなった。ディークは首をゆったりと傾げながら

「美味しいですか?」

優しい声と視線で聞いてきた。僕は、頬がもっと赤くなるのを感じながら頷く。

「うん…美味しいよ……」

ちょっと照れてしまって僕は視線を外しちゃったけれど、ディークはずっと僕を見ているのを感じていた。

「……ディークも食べなよ……」

「ええ。……あなたが食べさせてくれますか?」

「ぼ、僕が?」

「ええ。さっき、食べさせてくれると言いましたよね?」

ふふっと口元に笑みを見せて言った。僕は何も言わずにディークからスプーンを受け取るとそっと氷を掬ってゆっくりとディークの口元へと運んだ。

「………美味しいですね」

ディークと一瞬で消える柔らかな氷を味わって一緒に微笑む。小さな事だけどすごく嬉しかった。

 

 

 

……それから二人で廻って色々なお店を覗いた。僕はディークに『射的』でフワフワとしたウサギのぬいぐるみを取って貰ったんだ。それは、とても可愛くて一人にするのはなんだか可哀相に思えてそう言うとディークは残りの二発で横にあったオオカミのぬいぐるみと万華鏡をとってくれた。

……それは今、宝物になって寝室の窓辺に嬉しそうに並んでいる。


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