「……落ち着いたか?」

「……っ…は、はいっ…」

あのままの体制で私が泣き止むまでずっと先輩は涙を拭い、髪を撫でてくれていた。私は、ボロボロと彼の前で泣いてしまった事に今更ながら恥ずかしくて堪らなくなったと同時にこの体制でいることにもかなりの羞恥を感じた。けれど、宮田先輩は、顔を隠そうとする私をやっぱり難なく押さえると私と視線を合わせて

「……菱谷……俺は、今、十分嬉しいし、幸せだと思っているぞ?」

暖かな視線と声。それとほんの少しの苦笑いと。

「………先輩…?」

「……当たり前だろ?好きな奴とこうして付き合えてるんだから。……それにだ…俺にとって菱谷と二人でいる時間は何より貴重で大切なんだ。だから、菱谷に特に何かをしてもらいたいと考えた事はないし、そういう風に考えてくれた事をすごく嬉しいと思う。………それじゃ、駄目か?」

……私は、首を振った。また、目を濡らして。……そうすると先輩は何か困ったような顔をして、一度、私の名前を呼んだ後、キスをした。軽く、触れるだけのキスを一瞬だけ。私が驚いて見上げるとスーっと顔が近づいてもう一度。今度は離れる事なく深く…息が切れるくらいのキスを。

「…ん……んぅ…っ…」

あまり経験のない口付けは、恥ずかしくて苦しくて…あまり上手く答える事が出来ない。けれど、先輩は離れるギリギリの所まで唇を放し、私が息を吸ったのを感じたらまた直ぐに深い所まで丹念に探ってくる。それを何度も繰り返し……先輩の手が首筋をサラリとした手で撫でた。擽るように…でも、どこか違う思わせぶりな手。

「……せんぱっ…」

私が声を思わず上げてしまうと宮田先輩は優しくて、でも熱い目をして私を見た後

「……有希…」

吐息で囁くように呼ばれて体が震えた。……初めての事に怖い気持ちはある。でも、恐怖でも嫌悪でもない。

「……触れられるのは嫌か?」

先輩は、真っ直ぐに私を見、問う。私はそれに小さく首を振って答えた。

……すると先輩は、少しの間を置くと私の背中と足に腕を廻して抱き上げてしまったのだ。いきなりの浮遊感に驚いて声を上げ、慌てて考える暇もなく先輩にしがみ付いて降ろして欲しいと口にしようとしたけれど、その間もなく、私はゆっくりと丁寧にベッドに降ろされた。

……降ろされる時にギシリと鳴るベッドの音に私は想わず赤面してしまった。シングルのパイプベッド。先輩がいつも寝ている場所。そこに今自分が居て……

……先輩は、恥ずかしくて先輩から視線を少し逸らした私の顎を優しく捕らえるともう一度、口付けを繰り返した。

ちゅ…っと舌を強く、弱く吸われて声が喉元から零れ恥ずかしさに体がふわりと熱くなった。

そんな私のシャツをキスをしている間に先輩は外していく。……性急ではないその速度が逆に私の感覚を刺激してしまう。

肌蹴たシャツから覗く肌に先輩は口付けをして、時には熱い舌で舐めた。唇でも熱く感じられる私には、先輩の舌が触れると焼かれるような、けれど、濡らされる不思議な感覚に襲われて身を捩り、息を上げた。

「……先輩っ…」

私は先輩の服を握り締めて意味もなく呼んでしまう。すると先輩は、顔を上げて私の顔に軽いキスを何度もして宥めるように愛撫した。…でも、完全に落ち着く前に頭に靄が掛かるまで容赦もなく口付けられ、胸を探られ……今まで意識していなかった個所を触れられて弄られる。知らぬ間に引き降ろされていたズボンに声を上げたけれど柔らかな皮膚を指先で撫で、先を弄ばれると段々と固くなって存在を露にする。

彼の手や舌が私を愛撫する度に漏れ出る声が居た堪れなくて知らず、涙が溢れた。

「有希……」

緩やかな速度の愛撫は、私を脅えさせず、甘やかな快楽を私に起こさせる。……先輩は、まだ服も脱がずにいるのに。……それを先輩に言うと先輩は、少しだけ驚いたようにして、でも直ぐに脱ぎ捨ててくれた。現れた上半身は、私よりもしっかりとした骨格と筋肉を持っていて、もう既に彼の体が大人に成りかけているのを思わせた。

 

「……宮田先輩…」

先輩と視線を絡ませた時。……隣の玄関のドアが勢い良く締まり、人が中に入った音が聞こえた。……薄い壁だからその音は、まるで部屋のドアを開けられたようで、想わず私は体を震わせてビクついた。

先輩は、眉を眇めて隣の部屋を見た後、深く溜め息を吐いた。そして、私に困ったように笑いかけた。

「……今日はここまで。だな」

「……先輩…」

「………大丈夫だからそんな顔するなよ」

ふっ、といつものように優しい顔。そして、さっきまで私を翻弄してた大きな手で髪を優しく撫でてくれる。服も肩に掛けてボタンも閉めてくれて…。私はなんとも言えない気持ちになり、先輩を見上げる。……先輩は、最後にズボンを私に渡した後、頭をポンポンと撫でて一度、少しだけ長い口付けをした。……ゆっくりと離れる唇と体がなんだか切なく思えた。

「………またいつか…な?またゆっくり進めば良い。……そうだろう?」

真っ直ぐに見詰められて、私は頷いた。すると先輩は微笑み、それから少しだけ悪戯めいた顔をすると私の耳元に顔を寄せ

「今度は彰って呼んでくれよ」

と囁くように言った。私が先輩の顔を見返して、驚きと恥ずかしさに真っ赤になり、何も言えなくなると、

「まだ、時間もあるし、もう一度出掛けて、飯でも食べるか?」

と明るい声で言いながらベッドから離れて自分の服を身に付ける。私は頷き、遅れないようにと布団の中でゴソゴソとズボンを穿いた。……まだ紅い顔だったけれど。

 

 

……それからの時間は、一緒に買い物をして、そこで食材も買って先輩の家で一緒に作って食べた。

……なんだか、初デートでいろいろな体験と先輩を知った。けれど、それはやっぱり、とても嬉しくて。……これからも今までのように上手く行かない事が多くても…少しずつで良いから頑張って行きたいと想った。

まだまだ長い道程。どこへ行くか…どこが目的地なのかまだ分からないけれど…。そう思えた。

 

 

 

 

これは、二人の過去の一遍。ほんの一つの思い出のお話……。


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