「……あの…宮田先輩?」

「ん?」

いつもの昼休み。宮田先輩も全く変わらない様子で購買のパンやおにぎりを食べていた。宮田先輩は日によって購買はもちろん、コンビニのお弁当とかいろいろと買ってくるけれど、今日は……量が少ない……?

じっと、私が先輩の手元を見たからだろう…宮田先輩は、ちょっと苦笑いして、朝はコンビニにも寄れなかった上に

「行く時間が遅くて、あんまり残ってなかったんだ」

と言った。……この学校に入学してからと言うもの、実は、一度も学食も購買も利用したことのない私がいうのも変だが、男子校であるうちの学校では、やっぱり、食欲旺盛でそれなりに量を食べないと落ち着かない人が多くて、購買のパンやおにぎりは、お昼ご飯にする人はもちろん、授業の間やクラブ後とかに必要な人達も結構多く、盛況らしい。…先輩が買えなかったのも仕方のないことなのかな?…と、そこまで考えてかなり遅いが気づく。私は少し自分の顔が青くなるのを感じながら声を上げてしまった。

「………学食に行ったほうが良かったんじゃっ…!」

ハッとして、急いで時計に目をやると昼休みの時間はもう、半分くらいしか残っていない。

「あのっ、宮田先輩!今からだと学食に行っても無理ですかっ?!」

「菱谷?」

驚いて私を見る先輩の返事がくるのも待たず、慌てて、私が自分のお弁当を直そうとすると、ぎゅっと、その手を宮田先輩が押え、止めた。

「…菱谷…気にしなくていいから」

「でも…っ」

自分の所為で先輩が学食に行けなかっただなんて、それこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。先輩が席についた時点で、いや、先輩がこの教室に入ってきた時にもっと早く気づいていたら…っ。

申し訳なさと情けなさが相俟って、なんだか泣きたい気分になる。きっと、ここで一緒に食べると約束している私がいなかったら先輩は購買なんか行かずに学食に行ってちゃんとご飯を食べれただろうし、それこそ、売り切れてしまうような時間の購買にも足を運ぶ必要もなかったに違いない。

「……すみません」

私が眉を寄せて下を向くと

「菱谷が謝る事なんかないだろ?」

と、さっきよりも困ったように笑う先輩がいる。けれど、私が首を横に振ると、宮田先輩は私をじっと見詰めた後、一度、溜め息をついて私の名前を呼んだ後、

「顔を上げるんだ」

と、私の顎先に触れて上げさせようとする。……私はそれを嫌がって先輩の指から逃げようとした。

「菱谷っ…!」

宮田先輩は頑なに逆らう私の名をもう一度強く呼び、それに体をビクリと震わせたもののどうしても彼の言う通りに出来ない自分がいた。宮田先輩は、しばらくの間そのままでいたけれどそっと指を外して

「……時間がなくなるから、ちゃんと残りを食べたほうが良い」

といつもより幾分固い声で言った。気まずい雰囲気の中、先輩は今日の帰りをどうするか聞いてきた。

……一緒に帰りたい。帰りたいけれど…でも、一緒にいると情けない気持ちがとまらなくなりそうで一度、頭を整理したほうが良いに決まってる…

「………」

私は静かに首を左右に振った。宮田先輩は「そうか…」と短く答えて

「今日の夜……電話する」

と言った後、立ち上がって先に教室を出ていった。

 

……一人、静かな教室。……暖かな日差しの中、寒いはずも無いのに……きつく体を抱きしめた。


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