……最近、菱谷の様子がおかしい。それは気のせいでは無いはず…だ。
しかし、何か周りで問題が起こっているわけではないようだし、多少、ぼーっとしている時が目立つものの本人の調子が悪い様子でもない。
……一体、どうしたんだ…?
俺は、菱谷との時間を思い出しながら、微かに眉を寄せた。
「なぁ、新藤……」
「ん〜?」
自習の時間。新藤は、雑誌を捲りながらこちらを見ずに答えた。俺はそれを横目で見ながら
「……菱谷の周りでは本当に何もないんだな?」
と言った。新藤は俺の真面目な声を聞いてやっと顔を上げた。それから軽く溜め息を吐く。
「あのなぁ……お前、心配し過ぎじゃねぇ?……確かにまだまだ安心は出来ないだろうけど、あんな大勢の前でアピールされた上に、お前を敵に回したい奴はそうそういないってもんだろう?」
「……どれだけ牽制しても出てくる人間はいるものだ」
ほんの少し、声の機嫌を悪くしながら口にした。
もちろん、それには理由がある。賭けの勝利を俺達が宣言したところでしつこい奴等は納得などせず、菱谷への逆恨みを発散させようとしていた。そして、当然ながら菱谷のファンも俺へ怒りをぶつけようとしていた。
それは、予想通りのことで賭けに乗ったあの瞬間から対策を練っていたから早く対処出来たから良いものの……。
……あんな大勢の人間に俺と菱谷の付き合いに関われる事はこれから起こらないだろうが……先を考えるとまだまだ厄介な人間は出てくる。それが杞憂ではないのは確実で頭が痛くなりそうだった。俺が軽く溜め息を吐いたのを見て
「……まぁ、ちゃんと菱谷の周りはちゃんと見張っておいてやるから安心しろって!」
なっ?と新藤は俺の肩を軽く叩いた。……俺はそれに軽く笑いながら答えたのだった。
……宮田先輩に何かしてあげたいとは思うものの…何をしたら良いのか分からない。
私は、深く落ち込んだ。
宮田先輩とは、一緒に過ごせる時間が多いとは言えないし、その間に何が出来るのか?それも、出来ることなら宮田先輩にそうとは気づかれないくらい、さり気なく出来たら良いいのだけれど…。
何かをプレゼントするというのも考えてみたけれど、誕生日や何かのイベントでもないのに物を贈るとなると宮田先輩が逆に気を遣ってしまいそうだし…。
「何か良い考えが思いつけばいいんだけれど…」
私はまた、溜め息をついた。
宮田先輩は今日もまたバイトだ。……というか、私の知る限りバイトのない日がない…と思う。
新聞配達や工事現場、ガソリンスタンド、飲食店のキッチンやホール。
それが今まで大体バイトした所だそう…。私にしてみたらバイトと言われて思いつくものといったらファミレスやコンビニの店員位で、他にどんな仕事があるのかすら、あまり分からない。
今現在、宮田先輩がしてるのは、朝刊配り(宮田先輩は原付の免許を持ってるらしい)とお好み焼き屋の店員。
宮田先輩が言うには、そこのお好み焼き屋はファミレスよりも時給自体がいいし、夜ご飯の変わりに無料で食べさせてもらえるから、かなり良い所なのだそうだ。…そこに5時半位から入って帰るのが10時頃。家に着くのは10時半過ぎ。そして、休んだ後に朝刊を配りに行く。
そんな生活で体を壊さないかと心配で…。考えているうちに逆に彼が倒れないほうが可笑しいようにさえ思えてくる。
「……宮田先輩…」
私に何か出来ることはありませんか?
ゴロリと横になったベッドの上でもう一度考えて……私は一つ、溜め息を吐いたのだった。