さてさて、次の日のお昼頃……チャイムを鳴らしてやってきた郵便配達のリスさんが
「お手紙をお届に参りました〜!!」
と小柄な身体に似合わず、大きな声で叫んだ後、ベルにサインをもらうと嬉々としてまた、忍者のような早業で姿を消していった。それを呆然と(ぽーっと?)見送ってからふと、手元にある薄い緑色をした封筒を見て
「…?…僕に手紙なんて…」
お姉ちゃんかな?それともお母さん??…もしかして、ブラッドなんじゃっ!?と急いで差出人を見てみると
「……えっ!?リューっ?!」
予想に反して、やや右上がりなのが特徴的な字で書かれた名前にベルはビックリ。…中を読んでみると…
<<最近は、あまり町でも見かけないけど元気にしているか??俺は結構、元気にやってるぜ!!…実は今、遊園地の幽霊屋敷でバイトやってて金も溜まったし、引っ越したからベルに知らせておこうと思って手紙を書いたんだ。ベルの家の山からも前よりはずっと近いし、よかったら遊びにこいよっ!待ってるぜ!!>>
ということだった。……遊園地の幽霊屋敷でなんて、真っ暗だし怖くないのかな??とか的外れな事を考えた後…
「でも…ブラッドとお留守番してるって約束したもんねっ!!」
と自分に言い聞かせるようにベルは、わざと大きな声でそう言ったのでした。
さて*3、その次の日の早朝、リビングから何やら物音が……。その音で目を覚ましたベルは、怖くなりながらも
「家を守るのは僕の仕事なんだもんっ!」
とフルフルと震えながら、廊下に置いてあったホウキを握りしめ、意を決死て降りていきました。すると…
「ベル、起きたのか??」
とビックリしながらも嬉しそうに微笑むブラッドの姿がありました。…待ちに待った大好きな人が帰ってきてくれた!!と、それを一気に感じたベルは、嬉しさと安堵で
「――ブラッド〜〜っ!!」
ベルは、思わずギューっとブラッドに抱き着いてその胸にしがみ付きました。…そして、
「お帰りなさいっ!!」
と、目に涙を浮かべながらも満面の笑みを浮かべたベルにブラッドはなんとも言いにくげに
「…ベル…実は、もう一度仕事に戻らないとならないんだ…」
「――えっ!?」
「量が多かったのは他町の店の分まで俺に注文してきたからみたいなんだ。…いつもはこうじゃないんだが、他町の奴が契約の値段を張り上げてきたのが原因らしいんだ」
「そんな…」
ベルは話を聞きながらも、ぶわっと瞳に涙が一気に溜まったのが分かりました。それをブラッドは酷く辛い瞳で見詰めながら
「断れない訳じゃないが…店主には昔から面倒を見てもらっているからな…」
無理を承知で言ってきたのは店主なのだからこっちが断れないわけではない。だが、この山に越してきて仕事を始めた時に一番に契約したのが店主なのだ。その時のブラッドはまだまだ若い…19歳の頃だったか…。若い割に仕事の要領も良く、的確に良い品をもってくるブラッドを気に入って今も変わらず、山で取れるほとんどの物をブラッドに注文してきたりする。…出来る事なら、助けてやりたいのだ。
…ベルにだってそんな事情までは知らずとも”仕事”の大切さは良く分かっている。けれど…山の中にただ一人で何日もいるのは…ベルにとっては寂しくてとても辛い事だ。だからこそ、帰って来てくれたと思った愛しい人がまた、いなくなってしまうと思うと我慢していた気持ちまで口に出てしまう。
「―っ!ブラッドのばか〜〜!僕、リュ―のとこに行っちゃうんだからッ!!」
「――!?――絶対に駄目だっ!!」
「なんでっ?!僕、子供じゃないもんっ!!リューにだって迷惑かけないし、リューだっておいでって言ってくれてるんだもんっ!!」
ぽろぽろと涙を流しながらベルは言いました。けれど…
「……何がなんでも、リューの所に行くのは絶対に駄目だ…もし、この家にいるのがどうしても嫌なら他の人の家に行くんだ」
…静かに。恐ろしいほど低い声でブラッドは言った。最後には深い溜め息をついて。…それは、今、何を言ってもベルが聞き入れない事を理解しているからだった。だが、ベルは悲しさと淋しさと…今までにないブラッドの物言いにフワフワの耳を垂れさせて唇を噛み締めている。…けれど、
「……ふっ…」
…ベルは、そのふっくらとした唇から微かに嗚咽の音を零すと、次には寝室へと走って行った。
「……はぁ……」
…重い溜め息をブラッドは吐いたのだった。
「…ベル??」
ブラッドがベルを追って寝室に入るとベルはベッドに篭って嗚咽を上げていた。
「べル…本当にすまない…」
そういうとベルを包んでいる生地ごと上から抱きしめた。すると、腕の中の身体は震え、シーツにしがみつくように小さくなった。…それを感じたブラッドは
「早く済ませて帰ってくるから…」
と囁くようにいうと、誓うようにベルの頭に一度、口付けを落とすと…静かに部屋を…そして、家を出ていった。
ブラッドが出ていった後、ベルはベッドから起きあがると窓に近づき、遠くなるブラッドの姿を見詰めました。
「…ごめんなさい……大好きだから…」
早く帰ってきてね…とゴシゴシと袖でまだ溢れてくる涙を拭いながら心の中で言いました。