第一話―出会い―
僕は、高校生の時に両親と旅行に出かけ、その帰り道に事故にあった。その所為で親を亡くし、目も見えなくなってしまったが、今は、親の残してくれた遺産と生活保護などで暮らしている。……親は、二人共、働き屋で僕一人が仕事をせず(見付けにくい、出来ないともいうが…)細々と暮らすには充分、困らないくらい残していってくれたし、家も持ち家という、つくづく親に感謝しなくてはいけない状況にあった。……当時は、周りに同情され、親戚には、両親の遺産目的で、いろいろと付きまとわれたが、今は、もう誰も関わってこなくなった。僕は、そんな生活に満足し、ずっと送っていた。
―今日は、天気も晴れていて、買い物をしに行くことにした。……出かけるということは、僕にしてみれば、一番厄介で嫌な事だった。―
「ちょっと・・・ストップ!!―止まってってば!!」
「!?」
僕は、人気のない道路を歩いていた.すると、後ろから、声が聞こえ、次の瞬間…抱きつかれた。
僕は、いきなりの事に、ただ、戸惑うばかりだった。もちろん、僕は、さっき聞こえていた言葉が、僕への言葉だなんて知らなかった。
「もう!!さっきから、言ってんのに止まってよ」
「え?・・・あの」
「すぐ前に、車が止まってんの!!あと、少しで激突してたんだよ」
少年…らしい声の持ち主は、僕を放しながら説明をしてくれた。僕は、ステッキを使いながら、点字ブロックの上を歩いていた。でも、時々、違法駐車とかで車にぶつかったり、ステッキで傷付ける事もあった。
「ああ、そうですか。……わざわざ、すみません。どうもありがとうございます.」
「……別に、良いよ。それより、何処に行くの?」
「えっ?……買い物ですよ。食べ物が家になくって、仕方なく……」
「ふーん…。じゃ、一緒に行こうよ!」
「……はっ??どうしてです?!」
「だって、暇だし。ここら辺って結構、車止まってんじゃん?危ないよ」
「……」
「じゃ、行こう!」
グイッと、僕の手を引っ張って少年は、歩き出した。
「――別に大丈夫ですよ!!……そんなに気を使って下さらなくても…」
僕は焦って言った。今まで、注意された事も、ましてや止めた人もいなかった。異例の人間に関われてどう対処すれば良いか分からない。
「一緒に行かれるの、嫌?でも、俺きっと、あとで気になるから後つけるよ?」
ぴたっと足を止めて、聞いてきた。気になるから後をつけると言われて、断るのもどうかと思う。後ろにいるかどうかをずっと気をつけなくてはいけなくなるのは嫌だったから。
「…はぁ…。わかりました。…でも、出来れば何処かで休みたいんですが.」
「休む…?んー、じゃ近くの公園で良い?…ここら辺は、喫茶店もないから」
「ええ、良いですよ。そこにしましょう」
それから二人は、なにも話さずに公園を目指した。二、三分歩いた頃だろうか?公園について、自販機でかったコーヒーをベンチに座って飲んでいた。もちろん、少年にも奢り、一緒に横で飲んでいた。
「そういえば君は、一体なんて言うんですか?」
「え?俺?……田川悠(たがわゆう)」
「いくつです?…高校生位ですか?」
「うん、高二。」
高校生。でも、声を最初に聞いた時には、中学生のように思えた。はっきり言ってさっき、高校生かと聞いたのは、ただの礼儀に過ぎない。男の子はあまり本当の歳よりも下には見られたくないものだろうから高めに聞いたつもりだっのだ。
「そうですか…。今日…は、日曜ですね。誰かと約束はないんですか?」
「…ないよ。俺、あんまり出かけるの好きじゃないし。」
「? どうしてです?」
「……笑わない?」
相手を促す為に僕は微笑んだ。
「…俺…。出かけるといつも、何かって絡まれるんだ。…前なんて、俺の顔見た奴が、スカートの方が似合うんじゃないかって言ってきやがって。…もっと酷い奴なんて、脱がせようとしてくるし…」
「……」
「……俺って、そんなに女顔なのかなぁ?……あっ、ごめん!こんなの聞く事じゃないよね.」
悠は、一変して、声を心配そうに弱々しくさせた。
「……ああ、いいえ。気にしないで下さい。…そうですね、あなたの顔を触っても良いですか?」
「えっ!!」
「…あ、嫌なら別に…」
「ううん!!良いよ、触って!!」
僕は、悠がいるほうに体を向き直すと手をすっと伸ばした。すると、僕の手を掴んで悠は、自分の頬に導いた。僕は、指で、その肌の柔らかさ、滑らかさなどを感じながら、鼻筋や眉、唇の形をたどった。
「確かに…整った顔立ちですね…。…こんな顔をしていたら女性にも、もてるでしょう?」
にこっと笑いながら、その歳不相応な肌を最後に撫でて手を放した。はっきり言って、女の子のように肌も柔らかく、高校生なら出来ていて当たり前ともいえる、ニキビのない肌の持ち主は、目・鼻・口などのパーツを考えなくても、充分、女の子のようだったのだが、一応のホォローをした。
「全然もてないよ!……言われるとしたら可愛いとかって…」
「ああ、やっぱり」と頭の中で思いながら、きっと複雑な心境でいるだろう悠の頭をぽんぽんっと軽く叩いた。すると少しは元気が出たのか悠は、勢い良く口を開いた。
「ねぇ!あなたは?」
「…ああ。そう言えばまだでしたね。…僕は、谷矢光輝(たにやこうき)。26です」
「ふーん。光輝さん…か…。よろしくね。」
「ええ、…こちらこそ。悠君」
「……悠で良いよ。君ってあんま呼ばれた事ないから、なんか変な感じだし」
「…わかりました。では、もうそろそろ、買い物に行きましょうか?」
「うん…」
二人で、買い物をして悠がどうしてもと言うので僕の家までついてきた。僕はもとから人付き合いが苦手の上、怪我をしてから、人とまともに合う事がなくなっていたから悠と出会って話をしたのが新鮮で、嫌ではなかったし、僕の周りにいた人間と比べ、数段と近くにいても不快な気分にはされなかった。そう言う事もあっていつも家にいる僕は、暇なときは家に来ても良いと悠に言った。すると、悠は嬉しそうな声で
「うん!!絶対、来るね。じゃーね!バイバイ」
と言って、走って帰っていった。
僕は、その時はこれから先、悠とそんなに関わる事もなく、その内には会う事もなくなるだろうと思っていた。だから、これから起こっていく事など予想もせずにいたのだ。