―蓮の睦言―

 

 

 

 

「すっげぇ……」

見上げるように建物を見て、溜息のように言葉を零す。…それもそのはず。そこは…

『遠い所から…良ぉ、来て下さいました。』

と美人女将の黒豹が微笑みながら三つ指をつき、出迎えてくれるような…そんな伝統と威厳のある旅館だったのだから…

 

 

 

「なぁ…シルバ…ここってさぁ…」

「なんだ?」

通された部屋でお茶と菓子を頂きながら雫が不安そうに聞く。二人のいる部屋は《蓮》と名づけられた場所でここに通される間、もしかして…と不安に思ったけれど、その予感は当たり、一番奥の…しかも離れに当たるかなりのVIP対応に驚き…緊張した。

もちろんそれは今もで。…嬉しいことは本当だけれど、初めてのことで緊張が解れない。

「…もしかしなくても…すっごい高級旅館だったりする?」

聞かなくても分かるけれど。っていうか、もう、分かってるんだけどっ!!……どうにも聞かずにはいられない…。けれど、シルバは、特に気にした風もなく

「……まぁ、良い所だとは思うが…普通じゃないのか?」

と言ってきた。ネコ科の癖に熱い茶を平気な顔で飲んでる姿すら余裕な感じがしてなんだか癪に障る。…こっちは、慣れない場所で小っさくなりながら、猫舌に合わせてお茶がぬるくなるのを待ってるっていうのに…。

「…ここが普通って…」

お茶が少しでも早くぬるくなるようにとフゥーフゥーと息を掛ける。そうしながらも一体、シルバって何者だよ?って思う。だって、あのお祭りの日のお詫びとして旅行に連れていってくれるって約束してくれて…連れてきてくれたのは家から遠く離れたこの旅館だった。

…雫は、別に希望があったわけでも、ましてやここに不満があるわけでもない。…でも、きっとシルバの事だから家の近くのどこかで日帰りか、長くても一泊二日で簡単に済ませようとするんだろうな〜っと勝手に予想を立てていたから、シルバに何泊が良い?とこっちに着いた時にそう聞かれた瞬間、目を丸くしてしまった。…別に日帰りだろうと一泊二日の旅だろうと雫は不満を言うつもりなんてさらさらなかったし、初めてのシルバとのお出かけに嬉しくて嬉しくて堪らない位だ。…それが予想に反してこの豪華で…贅沢な旅に雫はちょっとだけ尻尾を巻いた状態になる。そして、ふと思いついた疑問を問い掛けてみる。

「シルバは…ここに何度も来た事あるの?」

「ん…?」

ゴクリと最後に喉を鳴らしてお茶を飲み干したシルバは、雫の言葉に真っ黒な耳を動かした。

「……五、六回…世話になったくらいだが?」

それがどうした?と瞳で問い掛け返す。それに雫はちょっとだけ唇を尖らせて不満げにする。が、シルバにしてみればなぜそうされるのか分からない。

「…気に入らなかったか?」

雫の好みに合わなかったのだろうかと思い口にしたが、その問いに雫は首を振って否定した。

「…?…」

「………」

お互いに沈黙が続く。元からシルバは沈黙を気にしないタイプではあるが雫のお喋りには答えるし、それは苦でもないし嫌いでもないから…今の状況の意味が分からない。いつもの雫ならはしゃいで喜びそうなこの場面で一体何がそんなに気に入らないのだろう…?…シルバはそう不思議に思い、口を開こうとしたがそれに重なるように

「失礼致します」

と戸口の方から声を掛けられ、言葉を止めたのだった。

 

 

 

「おいしい…」

家から遠いため、着いた時にはすでに六時を回っていたということもあり、お風呂にも入らずにすぐにご飯を用意してもらっていたのだ。その場所は《蓮》とはまた別室の大きな和室でシルバと雫が迎え合わせになるように膳が広げられている。…雫は、そこに盛られたそれぞれの綺麗な芸術品のような品々を見ながら何度も美味しいと声を上げた。

一番最初に膳に乗っていたのは梅の食前酒と小さな小鉢に盛られた細やかな技術を注ぎ込まれた品だった。器も食材も。もちろんそれを生かす人間も一流を扱うこの旅館。…食事の作法なんて出来なくて妙に後ろめたかったけれど、美味い物を美味しく味わおうとする気持ちさえ気をつければ良いとシルバにそれとなく言われて開き直った。シルバも、いつものように食べていたし、そんな事を気にしていたらせっかくの料理の味も分からなくなってしまう。

それから少しして、クリーム色の毛色をした羊の仲居さんがお造りを盛った皿を運んできてくれた。天ぷらとか小さな鍋物。焼き物、蒸し物だとか。色々な料理を出来立てで一品一品運んできてもらえるのは、何よりの贅沢に思える。

最後のデザートには、葛粉を使った物でひんやりとして涼しげだった。それを突つきながら、

「俺、こんなにおいしい料理、初めて食べたかも…」

と満足感と共にさっき食べた物達を思い描いて言葉を零す。それにシルバは口端を上げて

「ここの料理と風呂は他の旅館よりも気に入っているんだ。…お前も気にってくれて良かった」

と冷酒を飲みながら言った。それがなんだか意識をしていなかった分、なんだか男らしく見えて…目を引き付けられた。…なんだか見てただけなのに照れてしまって雫は、下を向いたまま

「お風呂もすごいんだ?…シルバ、お風呂好きだもんな…」

と呟くように言った。シルバは、それに笑みを浮かべて

「落ち着いたら連れていってやるよ」

と意味ありげに目を細めたのだった。

 

 

 

二人して浴衣に着替えて向かうはお風呂。けれど、それは旅館の中ではないらしい。

「え?ここじゃないの?」

と部屋風呂と覗いた雫にシルバは、羽織を持たせて部屋を出たのだった。

 

「部屋のお風呂でも十分すごいと思うんだけど…」

と一人、口にする。手を繋いで歩くのはすごく久しぶりでくすぐったい。

「…ああ、普通はあれに入るんだけどな…」

今日は特別だ。とシルバは続けた。雫が?と首を傾げると、ほら…と目線で先を即された。そこには茶色の木の板で建てられた建物。ちょっとこじんまりとしていて、一見すると大きめの物置小屋みたいに見えなくもない。…そこから近づいていくと一人、猪の番頭さんらしき人が立っている。

「お待ちしておりました」

とぺコリと勢い良く頭を下げられ、ついつい雫も下げる。シルバは、その番頭さんに部屋の鍵を預けるとさっさと中に入ってしまう。釣られるように引っ張られて

「―えっ!?―ちょ?」

そこで手を繋いだままだった事に気づいて真っ赤になる。…いくら知らない人だからって…男同士で手を握り合っていたのは問題にならないのだろうか?焦っていると、シルバはそんな心配もどこ吹く風で浴衣を脱ぎ始める。

「シルバっ?!」

「時間が限られているからな。お前も早く脱げ」

「えっ?…あ、う、うん…」

即されて、慌てて脱ぐが訳が分からない。しかも、シルバと二人っきりで、他の人が誰もいないっていうのは…?

かなり不思議そうな顔をしていたのだろう。シルバが小さめのタオルを雫に渡しながら

「一時間しか借りられないが…貸切になっている」

と説明をしてくれた。…か、貸切?

「…た、高くないの?」

と今更ながらも今までとは違う付属の贅沢に、ついついそう聞いてしまった。シルバはそんな俺の様子にほんの少し可笑しそうに笑うと

「なんなら泊まっている間、毎日入るか?」

と冗談めかして言ってくる。俺は、真面目に聞いたつもりだったのに…。

「…さ、さっさと入ろう」

と俺の背中を押してガラス戸を開けると…。目の前には立ち上る湯気と岩で作られた湯船。空に浮かぶ月が温泉のお湯に浮かび上がって綺麗だった。

「…う…わぁっ…」

感嘆の声が知らずに上がる。横にいたシルバは、それを見て嬉しそうに微笑んだ。…残念な事に温泉に釘付けだった俺の目には入らなかったけれど…。

 

 

熱いお湯はちょっと肌をピリッとさせたけれど、我慢ができないほどじゃなく、浸かっていると段々慣れて気持ちが良かった。見上げる月は、雲を浮かび上がらせる程に輝いて俺達まで照らしてた。寄り添うように近くにいると心臓がドキドキして顔が見れない。ふと、シルバが腕を伸ばして俺の肩に手を掛けた。

「雫…」

普段よりも掠れた声に体を小さく震わせると柔らかく唇が合わさる。…触れていただけだったお互いの唇が深くなるのには時間は掛からなかった。

「ん…」

甘えるような声が零れて恥ずかしかったけれど、気持ち良くてシルバの腕に身を任せた。

ちゅっ、と首筋に口付けられて息を詰め、体が疼き始めてしまい…俺は身を捩って、声を上げた。

「こ、こんなっ…とこ、ダメだってっ!」

思うほど力の出ない手でシルバから逃れようとする。シルバは、まだ俺の体を探る事を止めずに胸を弄ぶ。

「――やぁっ!!」

パシャンッ!とお湯を弾く音が当たりに響いてどうしようもなく恥ずかしい。

「…ゃっ…シルバっ…」

胸を抓ったり、捏ねたりしていた指が肌を伝い…脇腹を撫でて下肢にたどり着く。

「あぁっ…」

柔らかな太ももを思わせぶりに撫でたかと思うと今度は焦らすように中心の近くを何度も往復して見せる。

「なっ…もぉっ、やっ…っ…」

「こんなとこじゃ駄目なんだろ?」

クスっと耳元で息を零すのが聞こえた。俺は息を思わず呑んで…それから震える手で下肢を這う手を上から触る。

「…で…もっ…俺…」

中心を触って欲しい。…もっと本心を暴けばその後ろで疼く場所もこの長い指で触れて欲しい。…淫らだと思う。恥ずかしいしさっき口にした言葉も気にならないわけじゃない。…でも…

「…ゃっ…お、れ…して…欲しい」

真っ赤になりながらも口にした。ここまで煽られてそのままだなんて我慢が出来ない。

「…し、てっ…」

泣き濡れた瞳でシルバに縋りつくとシルバは柔らかに微笑んで俺の体を岩の上と引き上げた。

「…足を開いて…」

何度か内股を優しく撫でられて、閉じられていた足が自然に開く。その間に体を屈めたシルバは何度か俺の雄を上下に擦り、口内へと含んだ。

「――あぁっ!!」

途端に上げる嬌声。熱いくらいの舌が欲を刺激する。吸われ、甘噛みされて押さえきれないくらいの声に自分で口を両手で塞ぐ。

「…雫…」

掠れた声は欲情を露にし、唾液と蜜に濡らされた指が中を探った。

「…シル…バァ…」

指の間から零れる声が生々しくてキツク唇をかみ締めようとするとシルバが俺の唇を強引に開いて蹂躙する。

息が切れて視界もぼやけた姿で…でも、シルバの熱さが触れた時、幸せを感じずにはいられなかった。

 

 

 

結局、露天風呂で最後までしてしまった俺達は、体を思うように動かせれない俺を簡単に洗い、自分の事は簡単に拭いて浴衣を着たシルバに丁寧に拭かれ、浴衣まできっちりと着せられた。そして、入り口前にいた番頭さんから鍵を受け取ると、俺を軽々と抱き上げて自分達の部屋へと運ばれてしまった。

…結果。引かれていた布団に降ろされて…朝方まで抱かれた(涙)

しかも、ぐったりした俺に

「露天風呂と部屋風呂…どっちに入りたい?」

と楽しそうに聞いてくるから、本当に始末が悪い。…俺が少しでもの意趣返しにと

「……一度でも誰かと入った方は嫌だ…」

と言うと、シルバは目を見開き…それから、何かを納得したかのように軽く頷いた。そして…

「どっちだろうが、好きな方を選んでいいぞ」

と返ってきた。俺が

「…えっ?」

と不機嫌になっていたのも忘れてシルバを見ると…そこには蕩けるほどの優しい笑みがあった。

「……旅行なんてお前とした事しか…覚えがないからな」

とびっきりの言葉を添えて。


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結局、何泊して帰ったかというと…三泊四日です。…もちろん、全額シルバ持ち。

…シルバ…一体、何を仕事としているのでしょう?…毎日家に居るのに(笑)

初めてのシルバとのお出かけに大満足な雫でした☆

…そして、最後になりましたが大変お待たせしてしまった事を深くお詫び申し上げます〜<(_ _)>