「ねぇ、菱谷!!この頃、宮田先輩と一緒に居るでしょ?あれってなんで?」
…そう言ってきたのは、同じクラスの鵜川…別段、親しくもなくなかった鵜川は、私に、にこやかに笑いながら話しかけてきた。
「別に…理由なんてないけど…?それが何?」
いや、本当は、先輩が自称本気の恋のためと、私を守るために一緒に居るという理由はあるのだが、そんな事を鵜川に言う必要もない。
「…理由も無しに先輩と居られるわけないでしょ…」
ボソッと、呟くように言って、ギロッと私を睨んだかと思うと、さっさともとの場所へと戻って行った。
……一体何なんだ?鵜川に睨まれてしまったけれど訳がわからない。…宮田先輩とは、以前、この教室で告白されてからお昼や帰りを共にするようになった。先輩は、私を本気で好きだといった。だから、一度、強引にキスをしたけれど、もう、嫌がる事はしないとも言った。その言葉は、嘘ではなく、体にも一切触れてこない。まだ、先輩の気持ちを本当に信じることは出来ていないけれど、今まで、私をからかってきた人達とは違う事は、よくわかっていた。…クラスメイト達がざわついている事に気付き、ふと、廊下に目をやると、そこには、学校一の有名人、宮田彰がいた。先輩は、教室の出入り口で「ちょっとこっち来い」と手振りで示した。私は、慌てて席を立ち廊下へと走った。
「どうかしたんですか?」
「ああ、そんなたいしたことじゃないんだけど、昼にさ、俺の友達がいつものところに居るから先に食べててくれないか?俺は、少し遅れて行くから。」
「えっ?…それは良いですけど…。…友達って?」
「新藤正樹っていうんだけど、知らないか?……もし、嫌なら断るけど。つうか、あいつが無理やり言ってきただけで、俺は、食いたくないんだけどな」
チッと舌打ちして不機嫌そうに言った。…先輩のそんな顔を見るのは珍しく、私は、つい笑ってしまった。気がついて、先輩がもっと、怒ってしまったのでは?と少し不安になりながら目だけ上げると優しく私の顔を見て微笑んでいる先輩がいた。…ドキッとした。いつも、一癖も二癖もありそうな笑いばかりな先輩が、私を見てそんな笑顔をするなんて…。鼓動が痛いくらい打っているのを感じながら、先輩を知らずに見つめていた。
「おっと、もうそろそろ、チャイムが鳴るな。…それじゃ、もう、行くな。」
といって、すぐに廊下の曲がり角に消えた。……私は、先輩が見えなくなった後にやっと、教室に入らないと…と思い出して、教室の方を見た。すると…クラスメイト全員…はてには、違うクラスの人達まで窓から見を乗り出して見ていた事に気が付いた。その異様な光景に思わず声を上げそうになったが、一番私の目を引いた人間…鵜川の鋭すぎるといっても良い目線に体が竦んでしまった。……まさか、鵜川は…と私がそんな事を考えているとチャイムが鳴り、同時に先生がやってきたのだった。
昼になって、私は、先輩といつも食べている使われていない教室へと行った。そこは、先輩が教えてくれた穴場とも言っていい所だった。この学校には、使われていない教室は、たくさんあるがあんなに日当たりも風通しも良い所はそうはないだろう…。もちろん、そんな場所へは、特別な事でもない限り誰も来る事はなくとても静かな所だった。
…最初は先輩がそんな所でお昼をとっていたなんて意外で信じられなかった。それも一人で…何故かと言えば、先輩は、いつも常に友達を少なくとも三人は連れていたし、騒がしいとまでは言わないがいつも賑やかな人だったのだ。
先輩は、一体、何故そんな事をしていたのだろう…?と歩きながら思考を巡らしていると扉の開いた教室に着いてしまった。…そう言えば、友達の新藤先輩が今日は、一緒なんだっけ……私は、一呼吸してから、中に入った。……すると、新藤先輩は、窓から外を見ていたが、ガラスに映った私に気付いて、振り返った。