―恋人の条件―

 

ここは、とある男子校。

…私が、遅くなって帰り支度を一人、教室でしている時だった。

「おーい、菱谷有希。もうそろそろ、帰らないとうるさい生活指導の山本にいびられるぞ。」

呼ばれて声の方を振り向くとその人は、教室の出入り口に立っていた。
その人はなんと、3年の有名人、宮田彰じゃないか!!なんでこんな所に?しかも、なぜ、私の名前を?と焦りながらも

「あっ、はい、すみません、すぐに出ます。」

「ああ。でも、その前に…」

そう言って、宮田先輩はこっちへと持ち前の長いコンパスを生かしてやって来た。

「えっ?あの…?」

「あのさ、前から思ってたから言うけど、俺と付き合わない?」

「ハッ??」

…私の耳は、壊れてしまったのだろうか???そう思いながらも、反射的に思わず聞き返した。

「だから、付き合わないかって」

「………」

…どうやら、耳は正常のようだ。でも、宮田先輩が私の事をなんて嘘に決まって…ああ!!もしかして(怒)

「すみませんが、私は、そういう賭け事は、嫌いなんですよ!!ついでに言えば、そういう賭け事する人間は大っ嫌いですし、男色の気もありません!!…こういう顔をしているからと言って、先輩方のゲームに私を使うのはやめてください!!」

私は、宮田先輩を睨み上げて言った。すると、宮田先輩は、

「言っとくけど、俺もそういうのは嫌いだぜ?あと、お前の顔は、文句無しに俺の好みだし、男色には…これから、俺がするんだ。」

何も問題なしだ。と言い終わると同時にすっと私の顎に手をあて、クイッと私の顔をよく見えるように自分のほうに上げさせた。そして…

キスをされた。それも、舌まで入ったキスを!!

「んー!!」

突然のことにパニックになりながら、必死に先輩の体を腕で押し返そうとするけれど、悲しい事に先輩はびくともせず、なおも深いキスを私にしてくる。―先輩がやっと放してくれたとき…バシン!!っと教室の中に音を響かせた。

私の肩は、乱れた呼吸を整えるべく上下し、顔は真っ赤になっている。

「イッてぇ…!!…すげぇ張り手!!」

と先輩は、声を上げるけれどその顔は、少し赤くなってるだけで、なんでもなさそうに笑っている。…すッごい、馬鹿にされてる気分になって、(いや、されてるんだろうけどさ…)思いっきり睨んだ。

「あなたって人は!!何を考えているんです!」

「そんなに怒んなよ。好きな奴にキスしたくなるのは普通の事だろ?まぁ、それよりも早く帰ろうぜ。…それとも山本に会いたいのか?」

急に真面目な顔をして言ったから、私は、何も言えなくなってしまった。そう、山本には…会いたくない。それは、生活指導だからという理由だけではなくて…山本は、私に何かと近寄って来たり体に触ろうとしてくる。それも、下心があることが丸分かりなほどに露骨に…そして、あのいやらしい目で見られていると思うと寒気がして誰も居ない所へと行きたくなる。…他にもそういう目をしている人達が今までも、今もたくさんいる。そう気付いたから。杞憂ではないそれに恐怖を覚え、私は、いつのまにか人の居る所を避けるようになったのだ。

「…ッ…帰ります。」

「ああ。一緒に帰ろう。」

「いりません!!一人で結構です!!」

私が声を荒げて言うと、―ダン!!っと壁を一度、拳で強く叩き

「他の奴らに犯されたいのか!!」

と、本当に怒った顔で、私の目をまっすぐに見た。それから少しだけあいて、

「俺と帰れば安全だ。」

と声を落ち着かせながら付け加えるように言った。

「……私にキスをしておいて…ぁ…あなたを他の人と違うと?…そう言うんですか!!」

知らぬ間に先輩の声に最初はおびえて小さかった私の声も感情の高ぶりと同じように徐々に高くなった。

「…俺は…確かに他の奴らと代わらない。お前を本気で好きだから抱きたいと思う。さっきだって、お前を前にして、堪える事が出来なかった。…けれど、もう、お前が本気で嫌がるようなことはしないと誓う。」

先輩は、私の目を真剣に一切、曇りのない目で見た。私は、その男らしいまっすぐな目にただ、黙って見返すしか出来なかった。…少し、時間がたって、一度、深い溜息をついて

「信じられないのは無理もないから良い。…ただ、もう少し、味方を増やせ。お前の周りには、誰も味方と呼べる奴がいない。誰もかれも敵なんじゃ助けも求めれないだろう?…お前から周りを見て心を許せる奴を作らないと、一部の奴らは、お前をちゃんと守ろうとしてくれてんのに手を出せないでいるんだ。そいつ等が分からないほど、お前だって、人を見る目がないわけじゃないだろう?」

「………」

私は、何も言えなかった。先輩の言っている事は、当たっていて…。けれど、長い間、人間不信となった私の心は、未だに誰も近くに居る事を許せずにいた。…この人は、大丈夫だと自分でも思うのにどうしても、心は恐れて…。私が顔を俯け、くっと悔しさに唇を噛んでいると、

「まっ、簡単にはいかないよな!!」

と明るく笑って見せ、続けて、

「…とりあえず、俺は、3−Aの宮田彰だ。よろしくな。…今日は悪かったけど、本気だって事と俺は、少なくとも味方だから。それだけは、覚えておいてくれよ!!…じゃ、帰ろうぜ!!」

誰もが憧れるその笑顔で先輩は言った。私は、それ以上何も言わずに先輩と帰った。…先輩は、それから、体に絶対に触れてこなかったし、普通に話しかけてきた。私もそれに自然に答えられて…少しだけれど、今日は、先輩の見かけだけじゃない本当の姿を知れてよかったと思う自分が居た。


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