松山地区まちづくりセンター(旧内藤家住宅)「千軒舎」改修工事の経緯とコンセプト 改修設計・工事監理担当 HULL建築設計 上嶋晴久 大宇陀町松山地区は、中世より城下町として整備され、江戸期には「宇陀千軒」と呼ばれるほ ど、繁盛を極め、明治期には宇陀周辺地域の行政と経済の中枢拠点として発展してきた。昭和以 降の大量消費型の経済による影響も少なかった結果、現在においても町並みが大きく壊れること なく、伝統的町並み景観を形成している貴重な景観資源の残る地域である。 松山地区まちづくりセンター(旧内藤家住宅)は伝統的な町並みを形成している代表的な町家 の一つであり、東京芸術大学や奈良女子大学による建物調査や町並み調査が行なわれており、松 山通りの緩い曲がり角のアイストップとして、景観上最も重要な位置に存在している。 前身の旧内藤家住宅は、明治前期に薬問屋を営む商家として建てられ、歯科医院を経て平成2 年より、10年間空家となっていたが、所有者の内藤氏より大宇陀町に寄贈された。もとの母屋 は1列4室型の町家で、土間を挟んでシモミセ部分を歯科医院に改造、上部構造については保存 程度も良かった。付属棟は南東に納屋と便益棟、中庭を挟んで北東に二棟の蔵が建っていたが、 特に便益棟と東蔵については非常に程度が悪く、中庭や裏庭についても竹や雑草の侵食が目立っ た。 改修計画については、国土交通省住宅局の街なみ環境整備事業による、生活環境施設「まちづ くりセンター」と言う位置付けにより計画され、地域住民による自主組織として結成された「街 なみ環境整備協議会」と大宇陀町が官民共同して基本方針と事業計画の策定が進められ、歴史を 生かしたまちづくりの拠点施設として、下記機能を付加した整備がなされた。 <主要機能> ◇まちづくり活動拠点 ・街なみ環境整備協議会をはじめ、地域住民によるまちづくり情報の発信拠点 ・街なみ環境整備事業の推進拠点 ・伝統的町並み景観、町家の修景・修理・修復・建て替え等に関する相談窓口 ・伝統的町並み保全整備に関する推進拠点 ・まちづくり、景観、修景・修理・修復技術に関する研修拠点 ◇展示その他機能 ・伝統的町家の修景、修理、修復の模範としての建物展示とパネル展示 ・松山地区のその他観光施設等の案内 ・まちづくり、その他イベントに関する展示と情報提供 ・観光客や見学者に対する、休憩やトイレの提供 改修の詳細については、大宇陀町が推進する伝統的建造物群保存地区にむけての方向性に合わ せ、ファサードについては大宇陀町教育委員会の担当者による痕跡・類例調査のもと、歯科診療 所として改造されたシモミセ部分を、明治後期に良く見られる台格子の形状を採用した。 用途は店舗併用住宅から事務所(庁舎)に変更のため、大宇陀土木事務所とも協議しながら改 修設計を行なった。当初の計画では北側には住宅が隣接していたが、計画途中で専用駐車場とす ることができ、センターの竣工後に景観に配慮した塀が敷設された。 松山地区の歴史資産を生かしたまちづくりとして街なみ環境整備事業の整備方針策定段階から 住民協議会と言うシステムにより地域住民が拘わることにより、松山地区の景観を住民自らの問 題として捕らえ「松山地区まちづくりセンター」に反映できたのではないかと考える。 |