男は屋敷を後にしようとしていた。
あまりに広く、入り組んだ屋敷に尻込みしたのか。
それとも、どこか妖しい雰囲気に恐れをなしたのか…

「おや、もうお帰りですか」

その背中に主人は声をかける。
ビクッとして振り返る男に、主人は至極残念そうに微笑んでいる。

「せっかくのお客様に、大したおもてなしも出来ずにとても残念です」

せめて一泊くらい、主人の勧めにも男は慌てて断る。
主人は、仕方なさげに微笑んで男の辞意を受け入れた。

「仕方ありませんね、強くお引止めすることでもございません」

主人は、残念そうな言葉を切り替えるかのように明るく言葉を紡ぐ。


「ぜひ、機会がありましたら…。ここにたどり着くことがございましたら…、その時はぜひお泊りください」

謝意を表す男に、主人はもう一つ…と意味深長に笑って告げる。

「本当に残念です…。貴方はとても美しく可愛らしい…、私のドールたちよりも」

柔和そうな主人の目の奥に、再び狂気の混じった光が宿る。
それは蛇が獲物を捕らえる時のように、鋭く…絡みつくような視線に男の身は竦むような感覚を覚える。

「またここにいらっしゃい。貴方ならば、いつでも歓迎いたしますよ」

にこりと微笑む主人に、男は言葉を返すことが出来なかった。
それを見ながら、主人はゆっくりと男の頬を指先で撫でながら微笑む。

「それでは、お気をつけてお帰りください…。道に迷われないよう…ね?」





屋敷を後にする