『意地っ張り』

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 カンカンカンカン・・・
 けたたましい半鐘の音。
 敵が、姦賊が!ああ、早くお城に入らなきゃ。
照姫様をお護りしなきゃ。
 お母さま、早く・・・介錯しなさい?足手ま
といになるから?
 何をおっしゃるのですか、お母さま!
 ・・・分かりました。わたしも会津武士の娘。
お母さまを姦賊どもに斬り捨てられるくらいな
ら、いっそ我が手で・・・
 御覚悟を!

 温かい・・・
 お母さまの血。
 冷たい・・・
 お母さまの亡骸。
 家に火を放ちます。夜は冷えますから。
 すごい炎、すごい煙。天に向かってまっすぐ
昇っていく。
 お父さま、今お母様が貴所に逝かれます。

 一人。わたしは一人。
 でも、淋しくなんかはありません。
 わたしは会津武士の娘。これで心置きなく姦
賊共と戦えます。
 お父さまの刀、お借りします。
 お母さまの薙刀、お借りします。
 さあ、お城に入って照姫様を・・・
 違います!これは涙なんかじゃありません。
 汗です。そう、汗なんです。だってお城に向
かって走っているから。
 違います!恐いのではありません。
 武者震いです。そう、武者震いなんです。だっ
て晴れの初陣ですから。
 泣いてなんかいません。
 臆してなんかいません。
 わたしは会津武士の娘。
 お父さまとお母さまの娘。
 泣いてなんか、臆してなんか・・・
 わたしは・・・

 負けました。
 会津は負けました。
 汚らわしき姦賊共が足を踏みならしながら、
お城に入ってきます。
 お父さま、お母さま・・・申し訳ありません。
わたしは涙が止まりません。武士の娘たる者が
涙が止まりません。
 違います!これは嬉し泣きなんかじゃありま
せん。死なずに済んだなんて、絶対思っていま
せん。
 でも・・・せっかく生き残ったのですから、
お父さまとお母さまの分まで精一杯生きてみよ
うと思います。
 だって、お城は盗られたけど会津は・・・磐
梯山や猪苗代湖はこうしてここにちゃんとある
のですから。

 終わり


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