「夏のエロス」

クールストラティン

  夏は海とビールと温泉だ。

  ということで、三十過ぎてもいまだ独身の悪友二人と出かけた。

  ぎらつく太陽の下ではさすがに年齢を感じた三人だが、海岸で見かけたような若い女性達がいるかもしれないという淡い期待で露天風呂に向かう足は速くなった。

  だが、そこにはおやじと子供ばかりで期待外れ。

  それでも優しくなった空気と夕焼けに満足しながら、心と真っ赤に焼けた肌を洗う。

  風呂上がり、冷えたビールで乾杯。部屋に運ばれた料理を食べながら男の無駄話で時を過ごす。

  深夜の露天風呂にもう一度行こうと言うことになり、まだ乾いていないタオルを持って男三人でふらふら向かう。

  脱衣場で浴衣を脱ぎ、夜風が気持ち良い屋外に踏み出す。

  おっ、どうやら先客が一人。

  湯気越しに見える顔は女性に見える。

  「こんばんは……」と声を掛けてみる。

  「……こんばんは」その声は紛れもなく若い女性の声。

  ゆっくりと湯船に入って行くと湯気の中から月に照らされた女性の顔が浮び上がる。おおっ、これは美人だ。二十四歳位か。

  「海水浴に来られたのですか」と話して見る。

  「あっ、それ以上近寄らないで下さい。湯気越しぐらいがちょうどいいでしょ、ふふっ」なかなか、色っぽい声である。

  「宴会のコンパニオンです。今夜は疲れたのでちょっとつかって帰るところです」

  「さあ、私は上がりますからむこうを向いていて下さいね」とは言ったが、気にする様子もなく湯船の中に立ちあがった。

  申し分け程度にタオルで隠しているその姿態は、月明かりの中で白く輝いた。

  男達は無言でその女性を目で追う。

  三人の前を通り過ぎて行った時、目が釘付けになった。

  薄い肩からひきしまった腰へ、そして一気に丸く盛り上がり深い谷を形成する臀部までの一面に見事な緋牡丹の刺青。

  唖然としている男達を尻目に、女性はその緋牡丹の腰を艶めかしくくねらせて湯船から上がる。

  「主人が迎えに来ているのでお先にぃ」と背中越しに声をかけてくる。

  「あそうそう、露天風呂この時間帯は女性専用ですよ。うふっ」

  私は部屋に戻る時、主人と名乗る男と出くわさないことを祈りつつも、緋牡丹がシーツに横たわる姿を頭に浮かべていた。