奈良だより  山焼き

二〇〇四年一月十一日 

 午前中は日差しが有ったが、奈良は午後から雲に覆われる。
 花火が打ち上がる五時五十分に間に合うように、五時三十分に車で家を出る。
 次男が生まれる年に歩いて山焼きを見に行ったことがあるが、車で向かうのは初めてだ。

 ならやま大通りを快調にとばし、国道二十四号線に入ったがすぐに渋滞に巻き込まれて、のろのろ運転となる。
 前の車と左手の三笠山、それと時計を交互に見ながら花火の打上げを待つ。

 すっかり暗くなり、空と山が闇に溶け込んだ時、最初の花火が木立の間から上がる。
 冬の花火は色が淡いように見えた。あわてて車の窓を開けるが花火の弾ける音は小さく乾いて聞こえる。若草山には、六時の一斉点火を待つ橙色の松明の列が龍のように稜線をうねってる。その上に大輪の花火が上がり、取材用ヘリコプターが闇に浮かび上がる。今年は暖冬の影響かススキの生育が例年より良く、全山焼き尽くすだろうと予測されている。

 渋滞の二十四号線から車を奈良公園へ向けて左折する。奈良公園周辺は交通規制されているので、自家用車で向かう人は少ない。渋滞から解放され若草山を正面に見ながら進むと時計が六時になる。一斉に松明から点火された火が山肌を広がってゆく。若草山へ向かう人の列は途切れずに歩道を進む。

 車中は次男がエリック・クラプトンのCDをかけている。若草山の麓でパチパチと燃え盛る炎を見てから十七年。その年に生まれた次男がクラプトンに合わせて “チェンジ・ザ・ワールド” を口ずさむ。

   ♪ もし世界を変えられるなら 君の宇宙の光になろう

 山焼きとクラプトン。この異質なものが違和感なく時間を共有する。