今、小池真理子の小説「水の翼」を読んでいる。木口木版彫刻の巨匠と歳の離れた若い妻、その妻と歳の近い大学生の弟子。この三人で話が進行している。まだ半分くらいしか読んでいないので、物語がどういう方向に進むのか今のところ判らないが、128頁から129頁の最初の行にかけて

――ローリング・ストーンズのメンバーの中では誰が一番好きか、「冒険者たち」に出たジョアンナ・シムカスについての感想は…… 

という文章がある。
 妻の紗江や弟子の東吾がジョアンナ・シムカスについてどんな感想を持っているかは、書かれている訳ではなく、巨匠の妻と弟子の何気ない会話の場面で終わっている。

  この「冒険者たち」という映画は1967年、ロベール・アンリコ監督の青春映画である。廃工場で巨大エンジンを開発しているローラン(リノ・バンチュラー)、廃材や鉄屑を溶接してアートしているレティシア(ジョアンナ・シムカス)、パイロット教師のマヌー(アラン・ドロン)の三人の男女が夢を追いかけて挫折しながらも、宝探しへと物語は進んでいく。

  私は中学生の頃だったか「レティシア」という詩を書いた。映画の登場人物を題材にして詩を書いたのは最初で最後である。といっても詩を沢山書いていた訳ではなく、数少ない詩の一つということだ。今、その頃の詩はどのノートに書いたかも記憶がないので、残っているのかさえ判らないが、海に沈んで行くレティシアの亡骸を詠んだという内容だけは覚えている。

  同じように、男二人、女一人の三角関係と友情をベースにしたアメリカ映画で、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス主演の「明日に向かって撃て!」を思い出す。この映画も好きだがキャサリン・ロスが良くない。「卒業」のエレーン役の時も良いとは思わなかった。すばらしい役を貰っているのだが私は彼女からは何の感情もわいて来ない。それに比べてジョアンナ・シムカスからは自由さ、美しさ、儚さ、うつろさ等の情感が、まだ少年だった?  私にひしひしと伝わってきた。役柄のレティシアに恋心を持ったといっても良い。憧れのおねえさんという感じだっただろうか。

  このシナリオをハリウッドで映画化すると、まったく違った冒険活劇作品になっていただろうと想像がつく。フランス人が作るとこういう雰囲気に出来あがる。

  その後私生活のジョアンナ・シムカスはシドニー・ポワチエと結婚したので、バハマ駐日大使夫人として来日していたはずだ。今もレティシアの面影を残しているのだろうか。

                       2004年6月23日

「冒険者たち」  LES AVENTURIERS  (劇場)

監督:ロベール・アンリコ     キャスト:リノ・バンチュラー  ジョアンナ・シムカス  アラン・ドロン