住宅の気になる家相、風水、家運について

                                 熊澤富治雄

家を造ろうと思った人は何を基準にして間取を決めるのだろう?

 

決め方はたくさんあると思うのだが、なんと言っても自分たちが使いやすい間取や必要とする間取、お気に入りの間取で造るのだと思う。

しかし、「住宅を造る」ということは、「住宅を買う」ということと違ってほとんどの人が初めて間取りをつくるので、不安だらけである。また、何を基準にし、何を指針にしていいのか、どうしていいのか迷ってしまうことがほとんどだろう。

そんな、どうしてよいか迷っている時によく現れるのが、家相である。家相というと分らない人もおられるが、現代では「風水」のほうが有名かもしれない。

(ここであらかじめ断っておきたい。本来、家相と風水は違うものであるが、このコラムでは家づくりをする時に現れてくる同じようなものとして欲しい。また、私は家相や風水の専門家ではないので、今回のコラムは一人の設計士としての感想として捉えて欲しい。)

 もう25年位前になるが、若い頃、建築業界に入ったばかりの頃にはよく家相に悩まされた。

悩まされたと言うより、自分の設計士としての力量がなかったのかもしれないが、家相で住宅を設計すると、とにかく間取がメチャクチャになり、どうしても使いやすい間取に出来ないのが常であった。家相というのは祖父に良く聞かされていたのでなんとなく分っていたのだが、何故?なんで?というのがそのときの私の感想であった。

鬼門、裏鬼門などに造ってはいけないもの、玄関が東南にあると家運が良くなるとか、いろいろな決まり事があるばかりでなぜそうなのか?

そうしないと運が悪くなる、良くなると書かれているばかりで、一向に合点が行かなかった。

そんな時、建築家の清家清氏が書かれた「家相の科学」という本に出会った。私は「家相なんて科学であるものか!」と思っていたのだが、タイトルに惹かれて購入し読んで見た。

清家清氏曰く、家相の起源は中国からの伝来だが、日本風にアレンジされた昔の設計図書のようなものだと書いているのである。

今はそんなことはないのだが、裏鬼門に「台所」「便所」があることは凶として嫌ったのは、昔はとても重要であった。

つまり、冷蔵庫もないし、水洗便所でもないので、西日で物が腐ったりして生活にとても困ったのである。また、鬼門に欠けの玄関は凶として家族が病気になるとたしなめたのは、北東から冷たい風が吹き込んできて寒さにふるえなくてはならなかったことなのだ。

また、玄関は人を迎える格式の高いものだから、家の中で一番の良い場所に設置するということで、東南角に設置し「吉」とした。

(ここで問題です! 家相では主人の部屋が真ん中にあるのは凶、階段が家の真ん中にあるのは凶、としているのは理由がある。このコラムを読んでいる人はその理由を考えて欲しい。)

家相の実例を挙げればきりがないが、科学的にも色々と考えられているものもあるが、中にはとんでもないものがあったり、全くのこじつけもある。

問題なのはなんでもこじつけてしまうことにあって、家相に合わなければ運が悪い家が出来、家相に合致すれば運良い家が出来ると考えてしまうことなのです。

実際には、家相的に完璧な間取でも事故や病気になることはあるし、家相では絶対にだめとされている「鬼門」「裏鬼門」に玄関やキッチンを配置しても何も起こらないことはいくらでもある。また、その逆もある。

また、家造りは大変な苦労とお金と長い時間が必要な一大事業であるので、計画の段階や工事中にいろいろな事に遭遇しやすい。

「遭遇しやすいと」という優しい言葉を使ってはいるが、本当は日常に出会うこと事柄が家を造っているときにたまたま起こってしまって、それを自分にとって悪く考えてしまうのだ。(家を新築して、家相が良くて、宝くじが当たったり、無くしたものが見つかったりしたことは聞いたことがない。(笑))

その反面、家を建築中に自分や家族にとってよくないことが起こると、家相を気にしている人はさらに家相が完璧でなかったからだと考えるし、家相を気にしていなかった人でも、心では不安を抱いているから、人から「家相を見てもらったほうがいいんじゃない?」と追い討ちをかけられてしまうのである。

そんな風な理由で、家相は人の都合が悪いときや、不安を抱いているときに決まって顔を出すのである。

それでは間取りで吉相というのはあるのだろうか?

私は長い設計の経歴の中で吉相をたくさん経験してきたが、その吉相の間取りは決まってその家族の間取りが出来たときだった。

間取りつくりは、その家を訪問するお客さんのためでもなく、テレビ取材になるような奇抜な家でなく、豪華な応接間や大きなお屋敷でもない、それはその家族々で違うものなのだ。

お施主さんから「新築したような感じがない!」「元から住んでいたような気がする!」などの言葉が出たときにはきっと吉相なのだと思う。たとえその間取りが、鬼門や裏鬼門に配置してはいけない部屋を造ってもそうなのかもしれない。

家族が声を掛け合い、笑顔が絶えない家、夢見る空間、暗がり、ハレとケ、時とともに古くなる、躾しつらい、作法、道理、格式、伝統、自然、そんないろいろなものが混ざり合った空間が吉相の間取りなのだと思う。

吉相の間取りはお住まいになる家族が決まって明るくなる、笑顔になる。暗い顔をして吉相の間取りに住んでいるなんて聞いたことがない。