愛着が湧く家、住み慣れた家

熊澤富治雄

住めば都と昔から言うが、もちろん住まいそのものではなくて、住宅が建っている土地のことを言う。

それでも、昔住んでいた家は土地も建物も含めて、「住めば都」という言葉がぴったりの家だった。このことは私ばかりでなく、多くの人が経験していることだろうと思う。それだけ昔の家は家族の結びつきが強かったし、地域の集まりや、祭りなどを通じて近隣の人達とも強い結びつきを持っていた。その家も現代の自然素材という言葉が陳腐なくらい土や木や紙などの自然素材で出来ていて、プラスチックや木の偽物など全く使っていなかった。

(余談だが私の実家の地域には「隣組」という関係がまだ残っていて何かにつけて「隣組」という言葉が出てくる。隣組制度は戦時中の助け合いグループのような関係で、大変な時代を共に協力しあって生きてきたから、結びつきがとても強い。弊害もあると思うのだが、今でもなかなかいい関係だったと思う。これも私の代で終わりを告げるのだが…)

 

そもそも、「愛着が湧く家」とはなんだろう?                   

私が思う愛着が湧く家とは、時と共に古くなる材料であったり、お施主さんと共に造り上げる家と考えているのだが、昨今の50日施工の住宅や厳選100プランから選べます住宅、いつまでもきれいで傷がつかないコーティングがしてあります住宅、集成材オンパレー住宅や防蟻材・防腐材浸けの住宅、お手入れ無し住宅、豪華設備住宅などで愛着の湧く家が出来るのだろうか?              

もちろんこの考え方には異論があると思うのだが、住宅の造り手も造る側としての愛着の湧く家というものがある。

これは木組みの家や洋風住宅など住宅のスタイルには関係ないもので、手仕事をしたり、工夫を凝らしたり、遊び心を取り入れた住宅を施工したときに思うことなのです。

立派な設備や高級な素材などで立派で豪華に造っても「よく出来た」という思いはあるものの「いいな〜」という建築屋特有の愛着は湧いてこない。

このコラムを読まれている人は、建築屋さんでない一般の人が多いと思いますが、建築屋はそんな些細なことに愛着が湧くものなのです。

もちろん私にも実家の古い家には愛着があり、兄弟と背の高さを印した柱があったり、漆喰壁には私の小さい頃のクレヨンのいたずら書きなどがあったのだ。私の寝ていた和室の天井には木目の板が張られていて、ずいぶんと想像力を描きたてられたものだ。

話は変わって、私の実家が60年ぶりの建て替えとなり、私が設計し、地元の工務店で建築していただいた。

設計の基本的考えは、「両親は生まれたときからその家に住んでいたので、新築にするにあたって私の両親があまり違和感なく住めるように、また愛着が持てるように間取つくり」に腐心した。なにしろ両親は私と違って60年も住んでいたので、使いにくい間取りでも、凍えるような寒さの家でも愛着を持っていたのである。

設計をするにあたって、母親の「新築すると皆なぜか付き合いが悪くなって、行きづらくなる」と言う言葉もヒントになった。

この言葉の裏読みをすると、今までの田舎の家は部屋の周りに縁側を配置した家だったので、どこからも中にいる人に声を掛けられたし、縁側に座って茶飲み話が出来たのに、新しい家に変わって、出入りする入り口は玄関ドアだけとなり、勝手口さえなくなってしまって出窓など直接外に出られない窓がついた家々になってしまったから、お邪魔しづらくなったのではないだろうかと推理した。

また、年配の方が住まう家は急激な環境の変化を嫌う、長年住み慣れた家の間取りが激変しまうと身の置き所がなくなり「ボケ」の原因になるということを何かの本で読んだので、いかにして元の間取りに近づけて、なお且つ使いやすい間取りで、冬暖かく、夏涼しい家にすることに力を注いだ。

出来上がった間取りは、自分で評価するのも気が引けるのだが、以前の家とゾーニングがほとんど同じで、部屋と部屋との繋がり方が昔の田の字プランのようになってうまく繋がった。 (注:ゾーニング;住宅の間取りを造る上での部屋の位置関係のこと。)

 

「住み慣れた家」というのはどうだろう?

新築してお引越しされた家にお邪魔して、「新しい家はいかがですか?」とお尋ねすると、

「何だか、新築した感じがしない」

「前から住んでいたような気がする!」

などと、言われることがある。

この言葉が出る時には、間取りも、生活様式もお施主さんにぴったりとうまく行った時に言ってくれる言葉で、設計施工の工務店をしていて良かったなと思う瞬間でもあり、一生に3度建築しないと満足のいく家が出来ないといわれる住宅建築の言葉の裏返しとなって、気持ちのいい瞬間でもある。

「愛着の湧く家」「住み慣れた家」を新築住宅で造ることはとても難しいが、それを実現するのも私達建築やの使命だとも考えている。

昨今の住宅の設備や工法は立派でも、おまかせ厳選100プラン住宅や50日施工住宅で「愛着が湧き」、「新築なのに住み慣れた家」が出来るとは到底思えないが、そのような家がたくさん出来つつあるのもまた現実のことだ。

先日、私の弟と妹が出来上がった家を見ていった言葉

「前の家と変わんない‥」

「前の家と似ている‥。同じかな?」

私としてはしてやったりなのですが‥。

両親には「いい家になったね!」とお褒めの言葉をいただきました。(笑)