その日、男は、窓の外に降り続ける雪の群れを見ていた。

部屋につけている暖房器具がくもらせている窓の隙間。

そこに映る小さな粒は、彼の目を釘付けにしていた。

 

  彼は子供の頃の自分を思い浮かべていた。

白銀の中で駆け回る数人の子供たち。その中に、彼もいた。

握って固めた雪玉を友達に投げつけはしゃぎ回っている。

そして、夕焼けに溶かされてゆく雪だるま。

思い返されるのは楽しかった冬の日々。

もう二度と戻ることの出来ない真っ白い世界。

冬になると必ず思い出される情景だった。

繰り返し繰り返し。

 

 彼には息子が一人いた。

彼はその息子に、自分の子供の頃について、決して話はしなかった。

よけいな落胆を感じさせたくはなかったのだ。

あのときのような歓喜はもう二度と味わうことはできないのだから。

 

 今日も雪は降り積もりつつあった。

 

「あぁ、今日も雪か・・・。学校はお休みなのにまたお外で遊べないんだね。」

息子は本当に残念そうにつぶやいた。男は伏し目がちに少しだけうなずいた。

「お家で何をして遊ぼうかな。そうだ。お父さんが子供の頃、雪が降った日は何をして遊んでいたの?」

 

男は黙り込んでしまった。

 

 昔は、雪は空からの子供たちへのプレゼントだと思い込んでいた。

しかし、それは昔の話だ。

 

「ねえ、お父さん。あの雪に触っちゃいけないの?」

「絶対にだめだ!」男は力強く答えた。

「あれに触ってしまうと、おまえは死んでしまうんだよ。絶対に触っちゃいけないんだ。」

 

この時期になると、この親子に限らずに、どこの家庭においてもこの会話はなされた。

全ての原因は人間にあった。

誰もが憂鬱になってしまうのだった。

 

「いつまで降り続くのかなあ。明日は積もるのかなあ。いやだなあ。」

「さあ、もう夜も遅くなってきた。おまえは早く寝てしまいなさい。」

「はい。」

 

 息子は答えると、すぐに自分の部屋へ駆け込んだ。

それから男は再び窓の外に目を向けた。

 

「あの頃は良かった。」

 

 窓の隙間には、放射能に汚染されて黒くなってしまった、小さな粒がゆっくりと、舞っていた。

そしてそれは、景色を一面、真っ黒い世界に変えてしまっていた。

 

「このままだと、明日はかなり積もっているだろう。」

 男は煙草をくわえると、再び過去の風景を思い浮かべていた。

 

 

                                                                             終わり