奇妙な世界 


1.一枚の地図

 

 ピンポーン。

「宅配便です。」

 僕の冒険はここから始まった。

「何だ?誰からだろう。」

僕は箱を開けてみた。中には一枚の古い地図が入っていただけであった。誰かのいたずらだろうか?

よく見てみると、この付近の地図だった。紙自体は少し破れたりしていて古いようだが、どうやら地図自体は

今のもののようだ。僕はとっさに送られてきた箱を見た。送り主が誰なのか確認しようとしたのだ。

しかし、送り主の欄には名前が書いていなかった。

 

 僕は南川中学2年の堀川秀明だ。朝は7時に起き、朝食を摂ってから学校へ行き部活動をして帰ってくると

6時頃、帰るとすぐに自転車で6時半から始まる塾へ行き、帰ってくると11時。帰る途中ハンバーガーショップで

夕食を食べるの。それから学校と塾の宿題をし、予習・復習をすると、午前1時。それから風呂に入って

2時頃に床に就く。次の日もまた7時に起きて・・・。とこんな毎日を変化なく送っているのである。

最近こんな生活がつくづくいやになってきた。変化の毎日であった小学校の時が懐かしく思え、そして、戻りたい。

と思うのだ。

 こんな僕に、今日宅配便が届いた。送り主の名前はなく、中には古ぼけた一枚のこの付近の地図が入っていた

だけであった。

 

「誰だ?こんないたずらをするのは?」

よく見ると、その地図には僕の通っている南川中学がやけに大きく描かれていた。しかも、僕のクラスの窓から

光が飛び出ているような感じで黄色い線が引かれている。

 

「何なんだろう。この地図は。」

本当に変な地図だ。一体何のために僕のところへ送られてきたのだろうか。

「取りあえず、まだ学校は開いてるだろうし、行ってみることにしよう。」

僕は地図に描かれていた黄色い光を放っている自分のクラスへ行ってみることにした。

 

 教室には、担任の先生が一人だけ残っていた。

「何だ堀川。忘れ物か?」

「え!?違います。ただ何となく来てみたんですけど。ところで先生はここで何をしているのですか?」

「ちょっとまだ仕事が残っているからな。それより堀川、早く家に帰って勉強しろよ。そうそう、部活動はテストが

終わった日、午後から始めるからな。じゃあな。」

先生は何をしていたんだろう。何かを探していたようだけど。

 

 今いたのは、広川はじめ先生。僕のクラスの担任でもあり、僕が所属しているサッカー部の顧問の先生でも

あるんだ。とても優しく、みんなから慕われている。

 一体何をしていたんだろう。

「あっ、そうだ。忘れていた。」

テストが終了後の部活動再開の時間を聞くのを忘れていた。僕は、もう一度先生に会うために、

2階にある職員室へ向かった。

 

 中にはまだ20を過ぎたばかりの、優しくて美人な、音楽の春野先生。そして、その春野先生とは対照的に、

50を過ぎ、頭の毛も残り少なくなってきた、怒りっぽい理科の教師で、1組の担任、浜先生。(この先生は浜弘夫

という名前なのでみんなからハマヒロと呼ばれている。)の2人しかいなかった。

「広川先生いらっしゃいますか?」僕はハマヒロに訊ねた。

「広川先生は確か用があるからといって、理科室に行ったみたいだよ。」

 僕は礼を言うとあわてて職員室を出て理科室に行こうとした。すると後ろからハマヒロが言った。

「第2理科室の方だよ。」

「ありがとうよ。ハマヒロ!」

僕はもちろんハマヒロに聞こえないように小さな声で言った。

 

 第2理科室の扉は開いていた。僕が中を覗くと、やはり先生はいた。奥の方で何かを読んでいるようだ。

「よし、こっそり入って先生を脅かせてやろう!」

僕は、なるべく音を立てないようにこっそりと歩いた。緊張すると、自分の吐く息や、つばを飲み込む音まで、

相手に聞こえないだろうかと考えてしまう。しかも、緊張すればするほど失敗してしまうのは世の常である。

ご多分に漏れず、僕もやってしまった。

キュッ。靴が滑って音が出てしまった。

 

「誰だ!?そこにいるのは!」

僕はびっくりした。普段は優しくあまり大きな声を出さない先生だと思っていたのだが、この時の声はすごかった。

何かに例えて言えば、そう、まるで人殺しをしたところを誰かに見られてしまった時に出すような声だった。

「そこにいるのは分かっている。正直に出てこい。」

僕はその声に圧倒され、無意識のうちに先生の前へ出て行った。

 

「何だ、堀川か。テスト中だ、早く帰って勉強しろ。・・・と言いたいところだが、仕方がない。ここでゆっくり眠って

もらおうか。」

広川先生の顔は、もう普通の人間の顔ではなかった。それは、恐ろしい殺人鬼の顔へと変貌していた。

「助けてくれ!」

はっと、後ろを振り返ると、春野先生とハマヒロが立っていた。

「助けて下さい。先生。広川先生が・・・。え!?」

春野先生と、ハマヒロも普段の先生とは違っていた。

「見たな。秘密を知ったものは生かしてはおけん。」

3人の先生は、僕を囲んだ。もう駄目だ。

 

僕は3人の先生の中心でしゃがんで気を失ってしまった。--------------------------------------------

 

 

 僕は目を覚ますと、保健室のベッドの上にいた。周りには広川先生、春野先生、浜先生、そして、保健室の

布川先生がいた。

「あれ?ここは・・・?」

「気がついたみたいだな。悪い、ちょっと脅かしすぎたみたいだ。テスト中は学校の中をウロチョロしてはいけないぞ。

しかし、迫真の演技でしたよ、浜先生、春野先生。」

「いやあー。広川先生の方こそ。あはははは。」

もしかして・・・。本当に困ったもんだ。先生たちのいたずらだったのか?ということは・・・。

 

「先生!」

「何だ?堀川。まだ怒っているのか?先生が悪かった。許してくれ。」

「いや、そうじゃなくて、宅配便。あれ、先生の仕業ですね?」

「え?宅配便?」

「とぼけないで下さい。中に地図の入っていた宅配便ですよ。」

「地図?おまえ、今、地図って言ったよな。」

「はい。やっぱり先生の仕業だったんですね。」

「違うんだ。実は先生たちのところにも届いたんだ。その地図の入った宅配便が。」

「え?」

「よし、おまえにも話さなければいけない。ここじゃなんだから教室へ行こう。先生方も来て下さい。」

 僕たちは教室のいすに座った。

「いいか、堀川。これから話すことを信じてくれ。そして、協力してくれ。いいな。」

「はい。」

「実は、先生のところにも地図が届いたんだ。俺と同じように、春野先生、浜先生、布川先生にも同じように

届いたんだ。初めはみんな誰かのいたずらだと思っていたんだが、どうやら違うみたいだ。これがそうだ。」

3人の先生は、僕のところに届いた地図と全く同じものを持っていた。

「誰から届いたか分からないのですか?」

「送り主の名前はなかった。しかし、調べていくうちに分かったこともある。この地図が配られるのは、全部で5人。

この教室に集まると何かが起こるのではないかと考えている。」

5人揃うと何かが起こる?

 

「取りあえず、地図を持って学校に来てくれ。」

「分かりました。」

「ただし、くれぐれも一人できてくれ。」

「はい。」

僕は地図を取りに帰るのは面倒だったが、何が起こるのかが楽しみで、胸は溢れていた。気づかないうちに家に

着いていた。地図を手に持つと、走りながら学校へ向かった。

 

「そういえば明日からテストだ。勉強していないけどまあいいか・・・。」

僕はぶつぶつ独り言を洩らしながらも、走りながら学校へ向かった。しかし、一体何が起こるのだろうか。本当に

楽しみだ。いろいろ考えながら走っているその時だった。

 

「おーい、堀川。」

うちのクラスの小林だ。人当たりがよく、誰とでも喋るので、みんなから親しまれている、いつも明るいクラスの

人気者だ。同時に、喋りだしたら止まらない。という欠点も持っているのだが。その小林が声をかけてきた。

「どこへ行くんだ?」

「いや、ちょっと用事があって・・・。」

「俺、一緒についていこうか?」

「いや、いい。どうしてだ?」

「用事が終わったら遊ぼうぜ。」

「何言ってるんだよ。明日からテストが始まるだろ。勉強しなくていいのかよ。」

「何だよ、そういうおまえこそブラブラしているくせに。」

「だから、僕には用事があってな・・・。」

「そうだ、一緒に勉強しよう。勉強会だ。いいだろ?分からないところがあるから教えてくれよ。」

どうしよう。くれぐれも一人で来てくれと言われているのに。そう思っていた時、後ろから数学の木田先生が

走ってきた。小柄で、華奢な木田先生は、折れそうな細い腕を挙げ、小林に声をかけてきた。

 

「おい、小林。ちょっと来てくれ。」

「何だよ、先生。」

「いいから、ついてこい。」

小林は否応なしに木田先生につれて行かれた。何だろう。あいつ、何か悪いことでもしたのかな。まあ、

とにかく助かった。そうだ、早く学校へ急がないと。

 

 教室には4人の先生が集まっていた。よし、これで5人集まったわけだ。一体何が起こるのだろうか。

周りを見渡すと、みんなもドキドキしている様子だった。広川先生は、ハマヒロに、うれしそうに話かけていた。

僕は、ここにいるみんなが子供の頃に戻ったように感じた。いや、そうじゃない。みんな、背の高さも、言葉遣いも、

子供の頃に戻っている。そう、冒険を夢見ていた少年の頃に。これは一体どういうことなのだろうか。

 次の瞬間、窓の外から黄色い光が射してきた。

「さあ、冒険はもう始まっている。」

空から、心に叫びかけているような感じで響いてきた言葉だった。それと同時にその黄色い光が僕たちの視界を

奪った。

 


2.謎の世界

 

どうにか目を開くと、目の前には少年少女になった5人の先生たちと、広い海があった。僕たちは船に乗っていた。

5人の少年たちは声をそろえて言った。

「あれが僕たちが目指していた島だ。」

見ると、小さな島が目の前に立ちはだかっていた。僕たちは、船を島につけると、島を探索してみることにした。

しかし、何をするためにここへ来たんだ?

 

「先生。」

僕がそう訊ねると、怒ったように広川先生は言い返してきた。

「先生はやめてくれ。今は、お前と同じくらいの少年なんだぞ。はじめでいい。」

「そうだ、おれも・・・」

「ハマヒロとでも呼びましょうか。」

「そうそう、子供の時はそう呼ばれてたっけ。あ、それと、敬語を使うのはやめてくれないか?今は君と同じ年齢

なんだから。」

「はい。分かりました。・・・じゃなかった。うん。」

「じゃあ、私はフミちゃん。そして、春野先生は、瞳ちゃん、。それでいいわよね。」

「僕も、秀明と呼んでくれ。ところで、はじめはどこへ行こうとしているの?

さっきから何かを探しているみたいだけど。」

 

「何もしなければ何も始まらない。そう思わないか?自分で何か行動を起こすんだ。そうすればきっと、

何かが起きる。」

やはり、はじめの話し方には、まだ先生らしさが残っている。

「そうだな。何もしなければ何も始まらない・・・。」

僕は納得をしながらも、どこか心に引っかかる部分を感じていた。

 

「おーい、来てー。」

先の方を進んでいた瞳ちゃんが叫んだ。何だろう。

「ほら。」

瞳ちゃんが、手にしていたものは、一枚の古びた地図だった。

「やっぱり、ありがちなものだ。普通の冒険ものと変わらないじゃないか。」

浩志が言った。僕も内心、自分がこんな冒険ができるのはうれしかったが、本などに出てくるようなものなので、

少しがっかりしていた。もっとすごいこと起きないかな。

 

「冒険は始まったばかりだ。これからどんなことが起こるのかまだ分からないぞ。」

 はじめはみんなをまとめるのが得意そうだ。みんなを仕切るんだろな。仕切られることが嫌いな僕は少し心配を

していた。

「そうだな。いつ何が起きるかが分からないから冒険なんだな。」

ハマヒロは単純なヤツだった。

 

 僕たちは地図を見ることにした。あれ?これは・・・。

そう、この地図はこの前僕たちに送られてきたものと同じだった。

 

「この地図は南川中学周辺の地図じゃないか。」

周りを見渡した。同じだ。さっきまでいた南川中学周辺と同じ風景が目の前にあった。

 取りあえず、僕たちは南川中学を目指すことにした。不思議なことに、辺りに人影は見られなかった。

確かにここは僕の通学路の途中にある南川商店街だ。しかし、店の中にはおじさんはいなかった。

僕がアイスを取ろうとすると、はじめが言った。

「おい、泥棒はいけないぞ。」

僕はカウンターに105円を置くと、レモン味のアイスキャンディーを取り出した。

 

 それにしても、暑いな。5月とは思えない暑さだ。僕は、近くの家の窓から中を覗いた。人はいなかった。

カレンダーは、8月を示していた。なに?まさか、僕たちはタイムスリップして?・・・いや、違う。それなら、

何故人がいないんだ?やっぱりここはどこか違う場所なんじゃないか?そうなると、一体誰が?

それに、元にいたところに戻ることは出来るのだろうか? 次々と出てくる疑問は、僕の頭の中を駆け回った。

そして、だんだんと不安になってきた。もしかして、これから一生をこの島で暮らさなければならないのだろうか。

あぁ、考えていたら切りがない。考えるのやめよう。

 

 僕は軽い性格だ。いつまでもこんなこと考えていたら、脳みそが溶けて蒸発してしまう。僕はさっさと考えることを

やめてしまった。

 

「あっ。」

脳みそは溶けなかったが、手に持っているレモン味のアイスは溶け始めていた。僕は慌ててアイスを逆さまにした。

アイスは、棒を滑って地面に落ち、たちまちに蟻のえさとなってしまった。

「あーあ。」

さっきまで考えていたことなど遠くに忘れて、この事件を深く悔やんだ。僕はのんきな性格なのかも知れない。

しかし、これだけのんきになれるのも、周りの風景が、普段、生活している風景と何ら変わりないからなのかも

知れない。

 

 僕たちは、そのまま通学路を真っ直ぐに歩いていった。やがて、目の前に南川中学校が立ちはだかった。

やっとたどり着いた。みんなカンカン照りの太陽の中を歩いてきたためか、すぐには校舎内には入ろうとせず、

運動場の水飲み場で水を飲んだ。

「やっと着いたね。」

フミちゃんは額に汗を光らせながらそう言った。

校舎内に入っていこうとした、その時だ。後ろから足音が聞こえてきた。

 

「なに?この世界には人はいなかったはず。そんな馬鹿な。」

僕はゆっくりと頭を後ろに向けた。人影が見える。僕はあまり目がいいとはいえない。そんな僕でも確かに人の影

であることは分かった。やっぱり、この世界にも人はいたんだ。僕は、何気なしにはじめに訊ねた。

「あそこにいるのは誰だろう?」

「何?・・・みんな隠れろ!」

はじめの声とともにみんな木陰に隠れた。どうしたんだろう。こんなに慌てて。

 

 その影は次第に近づいてきて、僕らの目の前で止まった。駄目だ。見つかってしまったのか?しかし、

僕たちには気づかずに、この人影は話し始めた。

「よし、ここが南川中学校だ。どこだった?」

2年5組だったと思うが。」

「よし、それじゃあ行こう。みんなついてこい。」

タタタッ。

足音はどんどん小さくなっていった。人影は複数だった。何故こんなところに人が来るんだ?人間は僕たちだけ

じゃないのか?

 

「やばい。みんな、急げ。2年3組だ。」

はじめの声にみんなが反応した。そして、走っていった。

 何かを知っている。絶対。はじめだけじゃない。僕以外のみんな何かを知っている。何かを隠している。

そして、その何かというのは、きっと僕が抱いた疑問全てだろう。何故僕たちがこんなところへ来たのか、

ここはどこなのか、この先どこへ行くのか。そして、今過ぎ去っていった人影のことも。何もかも知っているんだ、

先生たちは。しかもそれはとても重大なこと。もしかすると命に関わることかも知れない。ちょっと考えすぎかも

知れないが、僕はかなりやっかいなところに来てしまったようだ。先生たちに今僕が考え手いたことを話してしまうと、

殺されてしまいそうな気持ちになって少し怖くなった。テストはどうなったんだろう。ふと僕の頭の中に浮かんだが、

これはテストにかこつけて、こんなところ早く逃げだして、現実の世界に戻りたいという気持ちの表れだったの

ではないだろうか。

 

 僕らは2年3組の教室へ着いた。教室は普段の夏休みと同じく静かだった。はじめたちは教室中を荒らしている。

何かを探しているようだった。何を探し当ているのか聞こうとも思ったが、この先生たちを見ているとそんな気に

はなれなかった。熱心に何かを探している彼らには話しかけても無駄なことだと思ったからだ。

いや、それだけではない。僕は彼らに殺気じみたものを感じ、近寄ることすら恐ろしかったのだ。

そんな彼らと一緒に行動することが怖かったのだ。

 

「何をしている。おまえも探せ。」

はじめの声に僕は硬直してしまった。もう体が動かないのだ。

「おまえにはもう少し協力してもらいたい。」

もうさっきまでのはじめの声ではなかった。はじめだけではなかった。ハマヒロや、フミちゃん、瞳ちゃんまでもが

別の生物の声になっていた。

 

「そろそろ気づかれてきたみたいだ。仕方がない。全てを話そう。しかし、それはマイクロフィルムを探してからだ。

とにかくこの部屋にあるはずなんだ。」

とにかく、僕も探し始めることにした。とにかく探すのだ。そのマイクロフィルムとやらを。僕たちは、花瓶の下、

机の中、あらゆるところを探したが、ない。全然見つからない。その時だった。

 

 

「あった!!」

この教室からではない。向こうの方から聞こえる。僕たちは、その声のあった教室の方へ向かった。

 中には複数の人がいるようだ。さっきのあの人影に間違いない。

「気をつけろ。相手は武器を持っているかも知れない。ドアを開けたら相手の足下に飛び込め。そして、

相手の足を引っ張るんだ。」

僕は黙ってうなずいた。一体どんなことが始まるのだろうか。少し心配しながらも少しドキドキしていた。

はじめがドアを開けた。

 

ガラッ!

「誰だ?!」

僕たちは作戦通り、相手の足下へ飛び込未、足を引っ張った。相手は倒れた。しかし、後ろで銃を持った男が

僕を狙っていた。

もう駄目だ。

 

ズキューン!

 

目の前には僕に銃を向けていた男が倒れている。そして、その後ろにははじめが銃を持って立っていた。そうか。

はじめのお陰か。そんなことを考えているうちにもう1つの銃声が聞こえた。

 

ズキューン!

 

今度はハマヒロが倒れた。なに?ハマヒロがやられた?本当にやばいことになってきた。しかし、こんな事を

考えている間にもどんどん人は倒れていった。1人、2人と。

気がついたときには、相手は、残り2人となっていた。

 

「あ!」

よく見ると、小林と木田先生じゃないか。木田先生も少年の姿になっていたが、すぐに見当がついた。

面影が残っているというよりも、そのまま小さくなった感じだった。木田先生が瞳ちゃんを撃った。

瞳ちゃんも倒れてしまった。なんて事だ!小林が銃を持ってこっちを狙っている。

「やめろ!おまえはどうかしてる。目を覚ませ。」

「ばか!伏せろ!」

はじめの声に、僕は瞬間的にしゃがみこんだ。

 

 銃弾は僕の頭の上を通り、はじめの耳の横を通って黒板に当たった。はじめは小林に銃を向けて引き金を

引こうとしている。

「やめろ!みんなどうかしている。何者かに操られている。正気に戻るんだ。」

僕の声もむなしく、小林までもが倒れてしまった。

 

「何故だ。何故こんなに死者を出す必要があるんだ?一体何がなんだか僕には分からない。

そんなにも大切なものなのか?そのマイクロフィルムというものは。人の命を奪うよりも大切なものなのか?

僕は先生たちに、この世で一番大切なものは人の命だと教わってきた。いや、人だけじゃない。

動物、植物、生きているものには命がある。その命を簡単に、いくつも、なくしてしまうほど、そんなにも大切な

ものなのか?そのマイクロフィルムは!」

 

 僕の熱弁を聞いていたものはいなかった。はじめとフミちゃんは木田先生にマイクロフィルムを渡すように

脅迫していた。木田先生は恐る恐る、小さなマッチ箱ほどの大きさのマイクロフィルムを差し出した。

その瞬間だった。

 

ズキューン!

 

 木田先生は隠し持っていた銃をフミちゃんの方へ向けていた。マイクロフィルムを受け取ろうとしたときの、

ほんの一瞬の隙を見計らって木田先生は・・・。

もう1つの銃声は、木田先生へ向けられたものであった。はじめが撃ったのだ。この教室にはもう僕とはじめの

2人だけになってしまった。辺りには10体の死体が・・・?

 

「あれ?目を閉じている。転がっている死体全部が目を閉じている。まるで眠りについているかのように。」

「そうだ。ここにある銃はみんな麻酔銃だ。」

そういえば今まで気が動転していて気がつかなかった。ということはみんな死んでいないんだ。

「あと3時間ほどすればみんな目を覚ます。とにかく我々は勝ったんだ。」

「勝った?そういえば何のためにこんな事をしていたんだ。はじめ、これはどういうことなのか説明してくれないか?

僕にはさっぱり分からない。」

「そうだった。では、全て話すことにしよう。」


3.現実?!

 

「実は先生たちは地球人じゃないんだ。我々は、サブドゥー星人。そして、木田先生たちはポティー星人だ。」

「え?そうなんだ。」

 僕はあまりにも現実離れした話を聞かされて、逆に冷静でいられた。はじめは自分たちの星の現状について

話し始めた。

 

 サブドゥー星には、資源と呼べるものがほとんどなく、あるといえば、クラストという、薄っぺらいこの星で言うパン

に似た食べ物だけだ。しかもおいしくはない。

 一方、ポティー星の方には、多くの資源が。この星で言う、ダイヤモンドに似た鉱石が埋まっているため、

これを売ることで大金持ちの星となった。しかし、人口が少ない上に、生存していくためにはあまりにも環境が

悪過ぎる。そのうち、この星も滅びてしまう運命を背負っていること。

 

 そこで、サブドゥー星人が、全能の神であるノースに星の繁栄を願ったところ、同じように、ポティー星人からも

同じ願いが、挙げられていたようだった。ノースは、地球という星に願いの叶え方を示したマイクロフィルムを隠した

という。そこで、彼らは、地球人になりすまし、今までこのマイクロフィルムを探し続けてきたという。

「取りあえず、このマイクロフィルムを見てみることにしよう。」

 

 はじめは、携帯していた小さな機械にそのマイクロフィルムを入れると、スイッチを押した。前方に立体映像の

ある人物が映し出された。どうやら、これが全能の神ノースであるらしい。そして、その口が開き始めた。

 「私は全能の神ノースだ。私は、今これを見ているのがサブドゥー星人であろうが、ポティー星人であろうが

かまわない。どちらにしても、願いが叶う方法をここに示した。その方法を説明しよう。」

僕たちは呼吸することも忘れ、彼の声に耳を傾けた。

 

「その方法とは・・・、この星地球を征服するのだ。この星は資源、環境共に素晴らしい星だ。サブドゥー星人の願い、

豊かな資源。ポティー星人の願い、豊かな生活環境。両方の願いを兼ねそろえた絶好の星だ。ここの星人たちは、

資源についても環境についてもいい加減な態度をとっている。この星がぼろになっていくのをただ見ているだけなら、

資源、環境の大切さを知っているおまえたちの星にしてしまった方がどれだけいいことか。

この星をおまえたちのものにしてしまう。それが最善の方法だ。」

 

「この地球を?」

 

「悪いな。聞いてしまったよ。」

この声は木田先生。いや、ポティー星人のものだった。

「そうと分かれば、一刻も早くこの地球を滅ぼさなければ・・・。」

「どうしよう。この中で地球人は僕だけだ。殺される!」

僕は一瞬にしてこれから起こることを想像した。しかし、ポティー星人の一言目は僕の想像していたものとは

違っていた。

 

「よく考えてみるとわざわざ戦う必要はないようだ。この星は我々の星と比べると、遙かに大きい。

我々が生活するには十分すぎる。そこでどうだ。我々と手を結ばないか?この星を滅ぼすにしても、

できる限り汚したくはない。」

 

確かにポティー星人の言葉は僕の想像とは違っていた。しかし、結果は同じ、いや、それ以上にひどくなったかも

知れない。何しろ2つの星の宇宙人がこの地球を滅ぼそうとしているのだから。僕はもう死ぬ覚悟はできていた。

 考えてみればそうかも知れない。確かに今の地球人よりも遙かにこの宇宙人たちの方がこの地球を大切に

使っていくのかも知れない。もしかすると、地球人が生活していくよりも、この宇宙人たちが生活していく方が地球

にとっては良いことなのかも知れない。そう、僕たち地球人が生きていくよりも・・・。ふと僕は思った。

 

 でも、僕たち地球人はどうなるんだ?確かに、自然破壊、資源の無駄遣い、その他にも地球の寿命を縮めている

のは地球人だ。でも、それをどうやってくい止めていくのかを考えているのも地球人だ。まだ望みはある。

このまま宇宙人たちに占領されてもいいのだろうか・・・。でも、今更考えてもどうしようもない。

もうすでに宇宙人たちは、もう動き始めているのだから。

 

「おまえたちとは手を組まん。」

 

はじめの声だ。

 

「私は今までこの地球で生活してきた。確かに彼らは、この星を大切にしてこなかった。しかし、それと同じく、

星を守る方法も考えてきたのだ。このまま、星を大切にする人間が増えていけば、この星も滅亡を免れる。

そうなれば、我々の行為は侵略になるはず。神はそれを認めるのか?」

「それがどうした?これは全能の神ノースの提案だ。おまえたちがいらないというのならこの星は我々ポティー星人

がいただくことにする。」

ポティー星人はそういい残すと、外へと駆け出していった。

 

「奴らは、地球人を滅ぼすつもりでいる。きっと奴らの宇宙船へと向かったのだ。急ぐんだ。このままでは・・・。」

僕たちもすぐに外へ飛び出した。

 

 宇宙船はどこに隠されてあったのか、気がついたときには花壇の前に置かれてあった。それは気球の形に

似ていたがボイラーのようなものは付いていなかった。宇宙船は静かに少しずつ浮いていった。

底からSF映画で見たような黄色い光が地面に向かって放たれていた。黄色い光・・・?   そうだ、この光は、

間違いない。あの時の確かにあの時の光だ。南川中学の僕の教室に向けて放たれた眩いばかりの黄色い光。

気が付いたらこの世界へ来ていた。あの光は、この宇宙船の光だったのか!じゃあ、ここはどこなんだ?

地球ではないのか?また疑問が渦となって僕の頭の中を回っていた。

 

「はじめ、ここは一体どこなんだ?」

「悪いが、今はそれどころじゃない。早くポティー星人の手から地球を救わなければ。」

そうだった。地球が今まさに滅ぼされようとしているのだ。話をしている暇はないんだ。

 

僕たちは静かに宇宙船の中へと入っていった。中はいくつものメーターのようなものやらレバーやらボタンやら、

そして、いくつもの数字が回っている・・・。

 

と思っていたが、実際はボタンがひとつと大きいテレビ画面のようなものが正面にあっただけであった。

「本当のことは全てが終わってから話す。早くグローブとゴーグルをはずすんだ。」

はじめが何を言っているのかさっぱり分からなかったが、取りあえず顔に手を近づけた。ガチャンという音と共に、

何か冷たい感触がした。顔に何かが付いている。

 

「早くはずすんだ。」

はじめは叫んでいる。僕は何がなんだか分からないが顔についている何かを取り外した。周りの景色に変化はない。

しかし、僕の手に金属製のグローブのようなものがついていた。金属でできているのになぜか柔らかい感触だった。

上を見ると、何本ものケーブルが宇宙船の天井と繋がっており下の、今僕がはずしたゴーグルにつながっていた。

他のケーブルを伝って目を下に向けていくと、横たわっているハマヒロ、フミちゃん、瞳ちゃん、浩志の顔にはめられ

たゴーグルに繋がっていた。

 

「もしかして、今までの世界は、仮想現実の世界?そうだ。今まで見ていたのは仮想現実の世界だったのだ。」

「そう、仮想現実の世界だったんだ。このゴーグルとグローブを着けることによって、あらかじめプログラムされた

仮想の世界を歩き回れる。そして、ゴーグルにより脳へあらゆる刺激、手にはめたグローブにあらゆる感覚が

伝えられる。自分は、実際の世界の中を歩いているように感じるのだ。

 

「あの時、・・・。」

はじめが何か言おうとしたとき、正面にあったスクリーンが急に光った。そして、落書きのような文字がそこに

浮かび上がっていた。どうやらサブドゥー星の言葉のようだ。

「何て書いてあるの?」

「前方500メートルに飛行物体あり。」

とうとうポティー星人の宇宙船を発見したのだ。

 

「今度は仮想の世界ではない。現実の世界で戦うことになる。今度こそ本当に撃たれたら命がないんだぞ。

気をつけるんだ。」

周りを見ると、今まで横たわっていたみんなが現実の世界へ戻ってきていた。みんな、地球を守ることに協力

してくれるようだ。そんな中、僕は、ただ一人の地球人。絶対に負けるわけにはいかないんだ。

 

 


4.青い星地球・・・

 

 「よし、攻撃だ!」

サブドゥー星人は言った。目の前の画面には "了解" の文字が大きく映っていた。とうとう始まったのだ。

この地球の将来を賭けた戦いが。何か少し温かくなってきた。音が聞こえる。モーターが回転しているような

ヴォーという音だ。きっとエネルギーか何かを溜めているんだろう。機体が少し揺れた。

今溜めたエネルギーを放出したようだ。画面には黄色い線が真っ直ぐ前に伸びていく映像が映っている。

 次の瞬間には突然こっちに向かって黄色い光が伸びてきた。

 

「危ない。」

僕は叫んだ。光は左の方へと曲がっていった。いや、機体が右に避けたのだ。

「あぁ、この先どうなるのだろうか。この戦いを何とか終わらせる方法はないのだろうか?」

僕がいろいろと考えている間にも戦闘は繰り返されていた。しかし、一向にエネルギー波は当たらない。

よく見ると画面の端の方に小さくて青い球状の物体が見えていた。そう、地球だ。今、僕たちはあの地球を賭けて

戦っているんだ。この戦いに負ければ、そう、この戦いに負ければ地球はポティー星人に侵略されてしまう。

あのマイクロフィルムに映されていたように。・・・マイクロフィルム?そうだ、マイクロフィルムを初めに見たのは

僕たちなんだ。この地球をどうするか、その権利は僕たちにあるはずなんだ。

 

「はじめ!」

僕は今考えたことをそのままサブドゥー星人に伝えた。

「そうだ、わざわざ戦わなくてもいいはずだ。これは、全能の神ノース餓死目下ものなのだから。」

僕たちは衛生レシーバーを使いポティー星人の宇宙船に無線を送った。

「おまえたちに地球を手に入れる権利はない。」

「そうか、それならそっちには分が悪いぞ。先に見つけたのは我々の方なのだからな。」

 

「待て、その判断は私が下す。」

遠くから聞こえてくるその声は、フィルムに映っていた全能の神ノースの声だった。

「見つけたのはポティー星人、見たのはサブドゥー星人だ。やはり権利は先に見つけたポティー星人の方にある。」

「待って下さい。権利はポティー星人の方にある事は分かりました。でも、そうなったら、地球人の権利はどうなる

のですか?」

「そんなものはない。」

「なぜです。」

「彼らは自分たちの星を無惨にも壊している。そんなものたちに波、生きる権利すらないはず。いや、彼らは、

自分たちでその権利をなくしてしまったのだ。」

 

「彼らにも生きる権利はあるはずです。地球に住む権利もあります。今の地球があるのも彼らが今まで生きてきた

結果なのです。彼らは考えてきたのです。今まで。いや、今でも彼らは考えているのです。

どのようにしてこの壊れていく地球を守るべきか、なくなっていく資源の代わりに何を使って今後生きていくのか。

考えて、彼らは生き続けます。星の寿命までは・・・。そう、星の寿命まで、あと45億年。まだまだあります。」

「今の若者はどうだ。考えているように見えるのか?確かに塾だ、予備校だと、どんどん勉強しているものがいるが、

それは本当にやりたくてやっているものなのだろうか。ほとんどは強制的に行かされているものではないのか?」

そうだ。僕も毎日塾に行ってるけど、本当は行きたくはないんだ。もっと自分のやりたいことをやりたいんだ。だけど、

やっぱりこのままでは・・・。

 

「僕が考える人になります。」

 

突然出た言葉だった。半分は無意識の状態だった。そう、本能で出た言葉だった。今この言葉で地球が救われる

のなら・・・。

「もう少し考えてみるか・・・。」

ノースはぼそっとつぶやいた。

 

「よし、これでこの一件は終わりだ。地球をもう少し見てからにする。」

「では、我々の願いは・・・?」

ポティー星人が言った。

「私が少しだけ力を貸そう。あとは自分たちで考えるんだな。」

 

 


5.新しい担任

 

  僕は、堀川秀明。南川中学の2年生だ。今日は登校日なので、せっかくの夏休みなのに学校に来ている。

毎日塾に通っていて忙しい毎日を送っている。でも最近勉強しなくちゃ。という意欲がわいてきた。なぜかは分から

ないけど・・・。あっ先生がきた。それではまたあとで・・・。

 

 「起立、礼、着席。」

 

「もう夏休みも半分過ぎました。みなさん宿題の方は頑張っていますか?・・・。」

後ろの席の小林が僕の背中をつついて言った。

 

「どうだ?宿題の方は。」

「ほとんどやっていない。」

お約束の返事だ。その時、教室が少しざわめき始めた。

「実は突然で、とても中途半端な時期なんですが、今日で、みなさんとお別れです。」

え?小川先生、教師やめるんだ。

「新しくこのクラスの担任になっていただくのは広川はじめ先生というまだ若い先生です。

みなさん先生に迷惑をかけないようにして頑張って下さい。それでは、広川先生入って下さい。」

どんな先生だろう。優しいかな。

 

「はい、今、小川先生から紹介がありました広川はじめです。今度このクラスを受け持つことになりました。

教師としてはまだ新米なので分からないこともあると思うので、みなさんにも教えてもらいながら頑張っていきたい

と思ってます。よろしくお願いします。」

 

教室には拍手がわき起こった。

「何か親しめそうだな。」

「あぁ、何か懐かしい感じのする先生だ。」

「どこかであったような気がしないでもないような・・・。」

「優しそうだな。」

「堀川!小林!」

 

「はいっ。」

 

僕たちは声をそろえて返事をして、同時に立った。

「人が話をしているときは静かにしろよ。」

広川先生は優しく言った。

 

「今後気をつけます。」

広川先生はこっちを見て笑っていた。僕たちも笑顔を返した。

今度の担任は親しみやすそうだ。

やっぱり、どこかであったことがあるような気がする。

 

まぁ、駅前の商店街かどこかですれ違ったりでもしたんだろな。

 

 

                                                                           終わり