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リストマーク 学位論文   
              
  

  氏名         林 健二 (Kenji Hayashi)     

  学位         博士( 工学 )  大阪大学   第17898号

  授与年月      平成15年3月25日

  指導教授      大阪大学大学院工学研究科 松井 保 教授  (現:大阪大学名誉教授) 

  論文タイトル
       
              水際構造物の耐震性評価手法に関する研究

  論文概要

社会的、経済的活動の利点を有することから、わが国においては海や河川に面する平野部や埋立地に大都市が立地しており、これらの沿岸域には、港湾施設、物流施設、道路交通施設、各種ライフライン等の重要な機能を有する施設が数多く存在する。しかしながら、沖積低地や埋立地等に代表される沿岸域は社会的、経済的活動において十分な利点を有する一方で、地震災害には極めてもろい一面を有しており、これまでたびたび、港湾施設等の重要施設が地震時に壊滅的な被害を被ってきた。すなわち、沿岸域特有の液状化を伴う地震災害により、過去幾度となく、広範囲に各種施設の機能は破壊されてきた。特に、19951月に発生した兵庫県南部地震においては、神戸市などの大都市で様々な社会基盤施設が甚大な被害を受け、臨海部では神戸港を始めとする広範な沿岸地域において、数多くの水際構造物が破壊されたことは記憶に新しいところである

兵庫県南部地震による阪神臨海部の水際構造物の被害においては、大きな地震動もさることながら、液状化現象が改めてクローズアップされた。水際構造物の構造形式は概ね、重力式、矢板式、杭式に分類できるが、兵庫県南部地震では、いずれの形式における被害に関しても液状化現象が深く係わっていたと言え、液状化に起因する側方流動が各地で確認された。特に神戸港におけるケーソン岸壁の側方流動は過去に例を見ない数mに達する大規模なものであった。

一方、我が国における耐震設計は大きな地震被害の経験とともに発展してきた。水際構造物の耐震設計についても同様であり、例えば、液状化に関する研究は新潟地震(1964年)の被害を教訓として、飛躍的な研究成果を挙げた。19951月に大阪湾ベイエリアの大都市圏を襲った内陸直下型の兵庫県南部地震においても、数多くの教訓を得るとともに、ベイエリアにおける数多くの耐震に関する技術的課題についての研究・開発が、鋭意進められることとなった。具体的には、リダンダンシーやハード・ソフト対策の一体化等を考慮する設計思想が取り入れられることとなった。また、耐震設計は後述する通り、地震動の考え方を改め、構造物の性能を規定する方向に進みつつある。すなわち、兵庫県南部地震を契機に耐震技術は飛躍的に向上し、耐震設計基準も大幅に見直されたと言える。

構造物の耐震設計に関しては、兵庫県南部地震を契機に大きな設計手法の転換が図られた。すなわち、従来の設計震度を大幅に上回る地震動が発生した兵庫県南部地震の教訓を受けて土木構造物の耐震性能を照査する際には、レベル1地震動とレベル2地震動の2段階の地震動による設計を採用することとなり、従来からの設計震度に相当する供用期間内に1度〜2度発生する確率を有する地震動(レベル1地震動)に加えて、発生確率は低いが極めて激しい地震動強さを有する地震動(レベル2地震動)に対しても、耐震性評価を実施することとなった。そして、この2段階設計法の採用により、地震動のレベルに応じて耐震性能の考え方を区分する必要性が生じた。しかしながら、レベル2地震動では大きな地震外力を想定することから、許容応力設計法の範疇で構造物を取扱うことは不可能であり、設計指標として終局耐力や残留変形を考慮する必要がある。また、地震時の残留変形を評価するために動的応答解析を用いる事例が増えているが、解析条件の設定や解析結果の解釈が複雑であり、現状では動的応答解析は実用的で簡便な耐震性評価手法であるとは言い難い。

 以上のような背景に鑑み、本研究では、臨海地域、埋立地域及び水際付近の沿岸域に位置する構造物を水際構造物と定義し、水際構造物の地震時挙動を明らかにするとともに、実用に供する水際構造物の地震時挙動の予測解析、しいては耐震性評価手法の提案を目的としている。本研究の目的をさらに具体的に列記すると下記の通りとなる。

@水際構造物の地震時挙動と被災メカニズムについて明らかにする。特に、液状化地盤における水際構造物の地震時挙動について詳細に解明する。

A水際構造物の既往の耐震性評価手法について系統的に整理し、各手法の問題点を指摘するとともに、その適用限界を明らかにする。

B液状化地盤における水際構造物の耐震性評価手法と水際構造物のモデル化について詳細に提案する。

C簡易で合理的な水際構造物の耐震性評価手法を提案するとともに、提案する簡易解析と水際構造物の液状化挙動を精度良く表現できる動的応答解析とによる比較に基づき、簡易解析の適用性を検証する。

Dレベル2地震動に対応できる合理的かつ体系的な水際構造物の耐震性評価手法について提案する。また、提案する手法を用いて、既存構造物を対象に耐震性評価を試みる。 


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