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3 情報化社会における土木のあり方 〜土木情報ネットワークの提案〜
1.まえがき
長かった平成不況もようやく終焉の兆しを見せかけている。日本の産業・経済を
持ち上げた立て役者は紛れもなく情報・通信産業である。いまだ更に急加速の発展を
続けており、1年先の消費者ニーズや技術開発動向も読み違えること数多のし烈で
エキサイティングな状況にあることは周知の事実である。一方、土木をはじめとする
建設業界は公共投資の抑制という国策の方向変換に加えて、建設コスト縮減、入札
制度改革等の新たな問題への対応が迫られており、先の見えない低成長の時代に
突入した。
低成長時代にあって、土木産業は今後、いかなる方法を持って存続し、社会資本
整備を通じた社会貢献という役割を果たしていくか。この問いに対する答えとして、
土木産業全体を網羅する情報化すなわち情報ネットワークの構築を挙げたい。ここで
提案する情報ネットワークは既存のものとは異なる、土木産業独自のものであり、
キーワードは官民共同型、自主成長方式、緊急・即時対応性にある。また、情報・通信
産業が先導する高度情報処理、通信技術の恩恵を十分に享受した、建設CALSの
幕開けに不可欠な情報ネットワークでもある。
2.新しい情報ネットワークのしくみ
ここでは、「情報ネットワークの最終目的は社会資本の適正かつ効率的な整備
にある。」を基本理念とする新しい土木情報ネットワークの構築を提案したい。
土木情報ネットワークが既存の情報ネットワークと異なる点は次の通りである。
@情報ネットワークの枠組みは官民共同で作成するが、運営は第3セクター方式で
事業として取り組む。また、ネットワークの適正活用について、学識経験者を加えた
学会等の非営利団体が適宜、照査を行う体制を取る。<官民共同型ネットワーク>
A情報ネットワークは市場原理により、時々刻々と独自に成長し、有用な情報を
吸収しながら拡張していくシステムを採用する。<自主成長方式>
B市民に災害情報等の伝達を迅速、確実に行えるよう、いくつかの汎用ネットワーク
との連携・結合を実現する。<緊急・即時対応性>
以下、土木情報ネットワークのしくみについて説明する。
(1) 官民共同型ネットワーク
適正かつ効率的な社会資本整備を目的とする情報ネットワークは、産・官・学・
国民の広きを対象に網羅される必要がある。そして、社会資本整備に係わる全ての
データベースを対象とした情報が、この土木情報ネットワークに取り込まれる
こととなる。すなわち、各種土木プロジェクトの企画段階から調査・設計・施工までの
事業遂行を支援するあらゆるデータベース情報に加えて、国民が必要とする社会資本
整備に係わる情報や緊急災害情報等がネットワークを通じて提供されることとなる。
なお、このネットワークは建設CALSの一部であり、建設CALSの整備スケジュールに
基づき構築していくものである。
ネットワークは広範囲にわたり、流れる情報量は莫大であるため、ネットワーク
構築の設計に際しては、取り扱いデータや運用方法に関する十分な検討に加えて、
将来のデファクト・スタンダード等の情報・通信環境を的確に予測した整備計画が
必要となる。これらの問題に対応するため、土木情報ネットワークの枠組みは、
あらゆる業界の専門家を含めた官民共同型で検討する方式が最善である。
決定された枠組みの中でネットワークシステムをどのように運営し、継続させて
いくかについては、情報ネットワークシステムの設計および適用に係わる設計
コンペの実施が有効である。国内外の建設コンサルタント、情報通信関連企業、
ソフトメーカー等の異業種JVからの応募による設計コンペの実現が望まれる。
また、運営はコンペ当選者を加えた第3セクター方式で事業として取り組むのも
一案である。そして、ネットワークの適正活用については学識経験者を加えた
学会等の非営利団体が適宜、照査及び指導を行う体制を取るのはいかがだろうか。
(2) 自主成長方式
情報ネットワークの価値は迅速なデータ提供、すなわち情報の更新にかかっている。
最新の情報を入手できないネットワークは崩壊する運命にある。情報ネットワークは
時々刻々と独自に成長し、あらゆる方面から有用な情報を吸収、拡張していくシステム
でなければならない。したがって、無数に存在する独立したデータベース間を容易に
行き来することができ、これらデータベースの相互連結も可能な環境を有する必要が
ある。このようなシステムは日進月歩の情報・通信技術を利用すれば、近い将来、
必ずや実現されるものである。これは、現在のインターネット環境において、無数に
存在し互いに有機的にリンクし合っているホームページの部分に、今後、超高速で
構築されるであろう無数のデータベースを挿入したものと想像すればわかりやすい。
この情報ネットワークの形成には情報・通信産業の積極的な進出が期待でき、民間
活力のもとで土木情報ネットワークは市場原理にしたがって拡大、成長を続けていく
ことになる。また、数年先には1人当たり数種のホームページを保有する状況が訪れる
ことと予想される。例えば、会社員としてのホームページ、家庭・家族のホーム
ページ、趣味のホームページ、ボランティア活動のホームページ等々である。各家庭、
個人間のネットワークが、ホームページを通じたオンラインで縦横無尽に張り巡ら
されるのは時間の問題であり、土木情報ネットワークの成長も、これらの総オンライン
化に同調していくものと考えられる。
(3) 緊急・即時対応性
土木情報ネットワークの有する重要な機能の一つに、国民と土木を結び付ける機能が
ある。国民の社会資本整備に対する啓蒙をはじめ、土木情報の国民への提供は有用
であるものと信じる。特に、緊急災害時の迅速な情報提供はその最たるものである。
市民に災害情報等の伝達を迅速、確実に行えるよう、いくつかの汎用ネットワークとの
連携・結合を実現することにより、緊急災害時の効率的かつ迅速な対応が可能となる。
したがって、緊急・即時対応性こそが土木情報ネットワークに最も求められるべき
ものであり、いかなる非常時にも遮断することなく安定したネットワークシステムを
保持できる技術力が要求される。
3.情報ネットワークの目指すべき方向
情報ネットワークがいったん機能し始めると、その瞬間から成長、拡大を続けること
となる。この時、情報ネットワークを発展性ある方向へ誘導する必要が生じる。
すなわち、情報ネットワークの適正活用に対する照査・指導が重要となってくる。
適正活用の照査・指導については学会等の機関による実施が望ましいことは既に
述べた通りであるが、ここでは適正活用を図る際に考慮すべき土木情報ネットワークの
目指すべき方向について述べる。
土木情報ネットワークの目指すべき方向として、国民、世界、環境、防災の4つの
キーワードを挙げることができる。各キーワードについて、説明すると以下の通りである。
@国民に向けて・・・・・社会資本整備への参加を通じて国民をネットワークに
取り込み、社会資本を身近に感じるライフスタイルを国民に提案する。
A世界に向けて・・・・・コスト縮減策提案、技術共有、国際基準策定等の観点から
世界に向けてネットワークを拡大する。
B環境に向けて・・・・・地球環境問題の解決を前提に、土木の分野で“act locally”を
実現できる情報提供を行う。
C防災に向けて・・・・・迅速、確実な情報伝達を大原則に、GIS利用によるビジュアル
情報の充実を図る。
4.あとがき
21世紀の幕開けとともにより具体的な土木情報ネットワークの輪郭が見え始める
ことであろう。土木情報ネットワークの成功の可否は、ネットワーク構築および
運用システムの設計に全てがかかっているといっても過言でない。また、この研究に
多大な時間を費やすことは許されない状況にある。豊かなライフスタイルを保証する
社会資本の蓄積を停止させないためにも、今、直ちにスタートを切ろう。
適正な社会資本整備が可能となる情報化社会、この到来を待ちわびる土木技術者の
一人として、土木情報ネットワーク構築の成功に向けて、さらなる努力を続けていく
所存である。
作者 林 健 二
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