直線上に配置

 

リストマーク エッセイあれこれ               Forest eng.


  
1  クロストレーニングと圧密試験


学生時代、クロストレーニングの面白さに取り付かれて、約十数年、この定まった形のない、あいまいなスポーツを続けている。クロストレーニングは、1980年代にアメリカのアスレチックブランド「NIKE(ナイキ)」(だったと思う)が、大々的なキャンペーンとともに世に打ち出したもので、その出所はアメリカ西海岸の某博士による、エアロビクス運動に関する研究の一成果だったと記憶している。

 クロストレーニングの定義(広義)は、数種のスポーツを横断的に継続的に複合して実施することのようである。特に、エアロビクス系の運動(有酸素運動)を複合して、実施することにより、持久力のアップに効果が大きいだけでなく、各部のあらゆる筋力が鍛えられ、平衡性、敏捷性も良くなり、おまけに楽しく運動できると言った良いことばかりのスポーツなのである。(エアロビクス運動:有酸素運動とも呼び、低い運動強度で長時間継続する運動であり、筋力の動きに酸素を必要とする運動をこのように呼ぶようである。)

 エアロビクス運動の代表的なものとして、ジョギング、ウォーキング、水泳、自転車等が挙げられていた。 NIKEはこれに便乗して、各種のエアロビクス運動を一足の靴でまかなえるとの文句でクロストレーニングシューズの販売に大成功したのである。これにまんまとはめられてしまったのが、私であった。

 中学生の頃から、自転車旅行が好きで、週末毎に奈良方面へ出かけていた。知らず知らずのうちに、エアロビクス運動の下地ができていたようである。大学院時代からは、「クロストレーニングのすすめ(NIKEの発信)」にしたがって、自転車に加えて、ジョギング、水泳を始めることとなる。必然的にトライアスロン(水泳、自転車、マラソンの3種混合競技)にものめりこんでいった。但し、私の場合、競技思考はほとんどなく、完走することの喜びのほうが大きい。実はタイムが極めて遅いのである。

 十数年間、時期により、のめりこみ度の濃淡はあるが、クロストレーニングと仲良くやってきた次第である。クロストレーニングの実践方法の一つに、アメリカ西海岸の某博士も提唱するWIN(だったと思う)というトレーニング単位を用いる方法がある。トレーニング量をWIN単位に換算して、管理する方法であるが、このWINの計算方法が某博士の提案方法だと少々厄介なのである。すなわち、トータルのWIN数は運動強度と運動時間の積で計算するのだが、運動強度の算出方法が各個人の最大心拍数の何%の運動強度に該当するかで規定することとなっている。この方法は、最大限のトレーニング効果をあげるエリート競技者には有効であるが、私のような面白半分の人間にはしんどいのである。一般向けではない。そこで、私は私なりに拡大解釈をし、各種目毎に簡単な計算方法を規定した。すなわち、我流WINである。

 私の考えた我流WINは、表−1の通りである。種目が決まれば、運動時間に関係なく簡単にWINを計算でき、運動強度うんぬんといったややこしい話もいらないのである。したがって、個人で継続が可能である。毎日、寝る前に手帳に書き込むだけで良いので、管理も楽チンである。ちなみに、私の目標は1ヶ月で100WINである。1ヶ月で帳尻を合わせれば良いというのも、この方法の呑気で良いところである。1ヶ月100WINは、毎日、片道2km弱の徒歩通勤をしている人が、新たな運動なしで、達成できるWIN数でもある。それでも、ここ数年は達成できない月がほとんどとなっているのが、実は私の現状である。


 

 さて、本題はここからである。実は、人間の心臓と粘土の挙動が類似しているという興味深い事実をここで報告したい。


 クロストレーニングに関連して、コンコール試験(確か、こういう名前だったと思う)という体力テストがある。かなり過酷な試験である(私も経験はない)。試験の方法はこうである。すなわち、強度一定のもとで運動を継続(通常、運動は室内自転車が用いられる)すると、人間の心拍数はある値で一定となることに着目し、低レベルの運動強度から、運動を開始し、心拍数が一定になったのを確認してから、少し運動強度を上昇させて、また心拍数が一定に落ち着くのを確認する。これを繰り返すのである。過酷な試験であることが理解できると思う。

 試験結果より得られた運動強度とこれに見合う心拍数をグラフ上にプロットすれば、ある個人の運動強度・心拍数曲線が描けるが、この関係は一般的に図―1の通りとなるようである。すなわち、折れ曲がり点を挟んで、2本の直線部分が存在するのである。この折れ曲がり点の運動強度はものの本によると、各個人の有酸素運動と無酸素運動の境になる運動強度だそうであり、これを探し当てる試験がコンコール試験である。




 試験方法から試験結果まで、圧密試験となんと類似していることか(図―1参照)。また、人間の心臓にも圧密降伏応力らしきものがあるのであった。コンコール試験は過酷な試験であるが、我々は、粘土に対しても過酷な試験を強いているのかもしれない。

 圧密降伏応力を境に、粘土は正規圧密粘土と過圧密粘土に分類される。一方、人間の心臓はある運動強度で有酸素運動と無酸素運動に分類される。両者の挙動にはどのような興味深い共通点があるのだろうか。荷重強度の除荷に対してはどうか。エージングはどうか。疑問は尽きないが、今後、さらに、私なりに解明した結果を報告していきたいと思う。

 こんな研究成果は地盤工学会では発表できないので、あしからず。



                                
作者       林 健 二


★ 「エッセイあれこれ」 に戻る