The Ethics of Science

第8章 フランク・リポートからパグウォッシュへ

フランク・リポートの要約は第2回課題として課されているので省略。プルトニウム爆弾の実験が成功したのは1945年7月16日。フランク・リポートの日付は同年6月11日。また、シカゴの科学者たちはロス・アラモスでの進展については、具体的なことはあまり知らなかったはずである。これを念頭に置いて、リポート中の科学的な査定や予測を読まなければならない。

ちなみに、このプルトニウム爆弾の威力は、TNT火薬量に換算して約20キロトンと言われている(長崎に落とされた爆弾も同じ)。これに対し、広島に落とされたウラニウム爆弾は推定13キロトン。そのほか、第8章で出てくる原爆、水爆の威力を表にまとめておく。

爆弾のニックネーム
方式
威力(TNT火薬量換算)
リトルボーイ(広島)
核分裂(ウラニウム、砲撃式)
13キロトン
ファットマン(長崎)
核分裂(プルトニウム、爆縮式)
20キロトン
George (1951)
核分裂核融合併用
225キロトン
King (1952)
核分裂
500キロトン
Mike (1952)
核融合、スーパー
10メガトン(10,000キロトン)
Joe 4 (ソ連、1953)
核分裂核融合併用
400キロトン?
Bravo (1954)
核融合、スーパー
15メガトン
Yankee (1954)
核融合、スーパー
13.5メガトン
ソ連のスーパー第1号(1955)
核融合、スーパー
5メガトン?

ラッセル-アインシュタイン宣言は、このようなスーパー爆弾の実験が年に数回も行われているような状況で出されたことを銘記しなければならない。また、この宣言は、当然、(秘密文書だった)フランク・リポートなど知らずに書かれている。

以上二つの文献を押さえていない「社会的責任」論は、検討に値しない。


(1)核兵器の歴史を調べるためには、核分裂爆弾、核融合(熱核反応、スーパー)爆弾、分裂・融合併用爆弾の基本的な原理を知っておかなくてはならない。

(2)次章の話題とも重なるが、York 1989 は必読文献の一つ。ローズの名著とあわせて、きちんと読んでおかなくては、核兵器の歴史を語る資格はない。追加文献としては、先頃ようやく邦訳が出たローズの第二弾、『原爆から水爆へ』上下(紀伊國屋書店、2001、原著は1995)が、ソ連の事情にも詳しく、今後一つの標準となろう。


第2回課題(フランク・リポートの要約)に関するコメント

このリポートは、かなりの長さで、いくつかの重要な議論を含む内容のもの。要約に当然求められる条件は、(1)全体の筋書きがどのようなもので、(2)どういう議論によってどんな結論ないし勧告が出されているか、ということを明確に示すこと。これに加えて、(3)いくつか含まれる論点をできるだけ正確に読む人に伝えなければならない。

この基本的な作業ができてないと、「フランク・リポートの内容を論じ、自分のやりたい議論に役立てる」などいった芸当はできない。今回は、その域にまで達し得る感触を与えた回答は2通だけ。要約を甘く見るな。これがすべての研究論文の出発点。UNDERSTAND?


Last modified May 26, 2003. (c) Soshichi Uchii.

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