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『夏休みの読書感想文』の悪いお手本 by 「初めての時もちゃんとコンドームを(男に)着けさせなさい」と教育している父親 No.4
2017/04/16 (日) 09:04  

 “ The Only Neat thing to do “ by James Tiptree, Jr.
   〜たったひとつの冴えたやり方 浅倉久志 訳
                                            野波恒夫

 ここでいうNeatとは、いわゆるニート(Not in Education, Employment or Training)ではなく、『手際の良い』といった意味です。
 親を出し抜いて個人宇宙船を大改造して外宇宙の冒険に出かけて、ライフサイクルでは同年代のエイリアンに遭遇した少女の物語。
(誕生祝に買ってもらった原付を暴走族仕様に改造して遠出して――を、遠未来の設定に焼き直したようなもの?)
 そのエイリアンは微小な寄生体で、宿主の感情をコントロールして悲しみを取り除いたり、未来医学でも発見できない病変を除去したりと、人類にとってベターハーフというべき存在になる可能性を秘めていました。
 ところが、きちんと衝動を抑える訓練を受けていないまま放浪の旅に出た若きエイリアンは種族増殖衝動(人間でいうなら、エッチしたい……とは、すこし違うけれど)に駆られると、宿主の脳細胞を食い散らかして胞子をばらまき、次の犠牲者を求めるという――
人類を破滅させかねない存在でもあったのでした。
 結論から言えば。ヒロインは、エイリアンに残されたわずかな理性の同意を取り付けて、宇宙船の針路を《太陽のまっただなかに》向けたのです。
 ここに至るエイリアンとの心の交流、みずから死を選ぶことへの葛藤、エイリアンも自死を納得して、そして凄絶なラストは……書評者に「この小説を読み終わるまでにハンカチがほしくならなかったら、あなたは人間ではない」とまで言わしめました。
 ヒロイン視点での描写。宇宙船から放出された緊急通信カプセルの記録を基地司令官と一緒に再生している両親の場面。このふたつが交互に描かれる手法は、まさしく映画的であり、一元的な描写では不可能な緊迫感を盛り上げます。
 ヒロインの可憐な声。ヒロインの声帯を借りて寄生体が自己主張をする口調。
 緊張と緩和という小説技法があります。読者を緊張させておいて、ふっとなごませる。ひとつ間違えれば、全体が台無しになりますが。
 最初に脳細胞を食い散らかされた犠牲者のロケットを発見したあたりが、まさに緊張と緩和(あるいはボケ)の見本です。
 そのロケットの記録映像を見ているヒロインを記録した映像を、ヒロインの両親を含む人たちが見ているという、ややこしい場面ですが。ヒロインが見ている映像というのは、未知星系調査の銀河連邦職員ペア(男女)が、ロケットから走り出て宇宙服を脱ぎ捨てて……それを見てヒロインが、
「……知らなかったよお、偵察チームがセックスするなんて」
「するもんか」司令がうなるようにいって、みんなをおどろかす。
 ううむ。こう書くと、どうでもいいような感じですが。読んだときは、なんだかほのぼのとしちゃいました。
 まあ、いろいろと背景を匂わす描写があります。実演チームによる(現代でいうなら性教育の)模範演技とか。自己刺激器具なんて、面白い表現とか。
 これはこれで、寄生体がヒロインに肉体的充足感情を与えて、それをヒロインが怒ったりする場面を読者に違和感なく読ませる伏線でしょうが。
 それはともかくとして。
 私は別の角度から、この短編(といっても、原稿用紙二百枚くらいはあります)の精妙さを評価します。
 それは、いわゆる『方程式』ものとして完成度の高さです。
 『冷たい方程式』1954年のトム・ゴドウィンの短編SFです。発表当時、SF界(は、アングロサクソン諸国にしかなかったのですが)センセーションを巻き起こしました。私も翻訳を読んで感動しました泣きました。
 辺境の星系で疫病が発生して、医療キットを積んだ緊急ロケットが派遣されます。その星系にいる兄に会いたいと、ひとりの少女が密航して、ただひとりの乗組員であるパイロットに発見されます。
 命題1.燃料fは、質量mのロケットを目的星系へ安全に着陸させられる。
 命題2.燃料fは、質量(m+m’)のロケットを目的星系へ安全に着陸させられない。
 ロケットが安全に着陸できなければ辺境星系で病に苦しんでいる何千人という植民者が死亡します。
 結論.ゆえに、質量m’は早期に除去されねばならない。
 除去とは、宇宙船外への投棄です。そして質量m’とは――密航した少女なのです。
 小説では、ぎりぎりまで少女は船内に留め置かれて、辺境星系にいる兄と亜空間通信で対面して別れの言葉を交わし。自分が宇宙船の外へ出なければロケットは墜落して自分はもちろん、兄も他の多くの人も死ぬのだと納得して――エアロックに入ります。
 とても泣かされる話なのですが、この短編には、致命的なミスがあります。
 命題2が間違っているのです!
 減速度を(人間が絶えられる限界までGを大きく)調整すれば、限られた燃料で、より大きな質量を安全に着陸させられたのです。
 『方程式』ものは、多くの作者によって種々のバリエーションが発表されましたが、燃料を問題にした作品はありません。ほとんどは酸素――呼吸可能な空気の量に関するものでした。限られた酸素で、救助が来るまで生き延びられるか。
 人工冬眠を選んだストーリイもあります。仲間割れで殺し合った話もあります。愛する人のために自分が宇宙空間へ身を投げるという展開もあります。
 ――このままでは、全員が死ぬしかない。だから……
 そういう設定の極限の形が、この『たったひとつの冴えたやりかた』だと、私は思います。
 このままでは、人類が滅びる。だから……ヒロインには、解は一つしかありません。
 SF的知識が豊富な(SFに悪ズレしている)第三者の目で眺めれば、あるいは別の解が存在したかもしれません。しかし、ヒロインの若さが、作者の筆力が、別解を拒絶するのです。読者も、その場では納得するのです。
 しかし、現実に引き寄せて考えるとき。もしも。自分がその立場に立たされたとき。
 コーティリア・カナダ・キャスのように、自分がけっして狂っていないことを記録するために『太陽のまっただなかに』をハミングしながら、宇宙船の針路をそこへ設定できるでしょうか。
 ……と、ここまで書いてきて。
 設定をすこしだけ変えれば、これは特別攻撃、いわゆるカミカゼ・アタックにも通底するテーマだと気づきました。
 私は、小林よしのり(ゴーマニズム戦争論)と河原由美子(テーマ図書文庫本挿絵)とを争わせようとは思いません。
 したがって、ここで筆をおきます。



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