お菓子小話 |
・どんぐり飴・ 彼は甘い物には目がなかった。 まるで糖分を摂り続けていないとエネルギーが切れて動けなくなるのを恐れるかのように、飴玉やチョコレートなど小さなお菓子をいつだって持ち歩いては口にするものだから、近寄るだけで彼自身が甘やかに薫った。 だから、ふわりと甘い薫りがすれば条件反射的に白馬は彼を思い出す。 「あめ玉ってよく知らないおばちゃんとかに貰うんだよね。大阪だけかと思ってたけどオレには全国区みたい」 『これってやっぱり人徳?』なんて悪戯っぽく笑うから、『君が子供みたいだからじゃないですか』と、どんぐり飴を頬張っている頬をつつく。 どんぐりを頬袋に入れたリスのようなその姿のまま、彼は益々子供みたいに拗ねてみせる。 「何だよ子供って」 「だって子供みたいですよ。君、最後までちゃんと飴を舐めた事ないでしょう?」 長く舐めていると味に飽きるのか、口に放り込んでしばらくすると、ガリガリと飴に歯を立て噛み砕いてしまうのが常だった。 そしてまたすぐに違う味の飴玉を口に入れる、の、繰り返し。 「ほら子供でしょう」 笑って言えば、彼は仕返しのように、白馬の左の耳を軽く引く。その仕草は同時に『少し屈んで』と声に出さないで、ねだる合図。 「オマエが付き合ってくれるなら、噛むの我慢しようかな」 ふわりと甘い吐息に誘われて、飴玉が消えてなくなってもキスを交わした。 (END) ・ドロップ・ カラカラと音をたてて、時折、楽しそうに小さな穴を覗き込んでドロップの缶を振る。 てのひらに飛び出すカラフルなドロップに一喜一憂する姿は、思わず微笑まずにはいられない。 少しレトロなイメージのてのひらサイズのドロップの缶は、いつだったか彼がこの部屋に持ち込んだものだ。 「なんかさ、ハッカが出たらハズレたって気、しない?」 あまりに無念そうに言うので、こっそり他の味を足しておいた。 数を数えていた訳でもないだろうに、小さな企みはすぐにばれて『入れちゃダメだろ』と軽くにらまれた。 「ばれちゃいましたか」 「そりゃバレるよ。振ってもハッカ、全然出ないんだもん」 「でもハッカ味、あまり好きじゃないんでしょう?」 ハズレと呼んで残念そうな表情になる位だから、そう加えると彼はくすりと笑う。 「甘さ控えめで愛想ないけど、キライじゃないよ」 ころん、彼のてのひらに転がり出た半透明の白いドロップ。 「オマエは?」 ぱくりと口に含んで、伏せた瞼は白馬の応えをもう知っていた。 耳を引く仕草に誘われ交わしたキスは、懐かしいハッカ味。 懐かしく、どこか郷愁を誘う味。 彼の手の中で、ドロップの缶がカラカラと楽しげな音を奏でた。 (END) ・グミキャンディ・ ガムは嫌い、と彼は言った。 「だって噛んでくうちにどんどん味しなくなって損したみたいでさぁ」 言いながらも薄い銀紙をめくり、一枚のガムが口の中へ。 租借と共に、甘いブルーベリーの薫りがゆうるりと鼻先を過ぎる。 「だったら他のものを食べればいいでしょう」 甘い物好きな彼を迎えるにあたって、白馬としても部屋の端々にお菓子を常備するようになった。 しかも自分では食べない種類の、彼の為のおやつを用意しながら、これは餌づけだろうかと白馬は思う。 「飴でもチョコでもクッキーでも、どれでも構いませんよ」 「でも何だかしっかり噛みたい気分なんだよ」 気乗りがしないようにあちこちのお菓子に視線をやりつつ、ガムを噛む姿は不本意そうだ。 「うー、もう味しなくなった」 ぺっと先ほどの銀紙に出して、次のガムを手に彼は渋い顔だ。 「グミキャンディならどうですか。噛み応え、ありますよ?」 「うーん」 「ストロベリー、グレープ、レモン、コーラ。君の好きなものをどうぞ」 ずらり、小袋を目前に種類を並べると、彼は視線で一閃して。 「じゃあ遠慮なく」 これが好き、と呟いて、白馬の首筋に甘く歯を立てて、笑った。 (END) |
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