秘め事。




「何をしているんです?」
 不審気な呟きは、やんわりと首元から口元を覆っているからし色のカシミアのマフラーから白い息と共に吐き出される。
 嵌めたばかりの、こちらもからし色のカシミアで彼に合わせた指長タイプだ……手袋を指先を摘まんで引き抜いているというのになすがままになりながら、彼は不機嫌そうに目を細めた。
 両手から手袋を奪う。
「こんなところで待ち合わせをした覚えはありませんよ、僕は」
 声には少し呆れた響きが混じりそれでも柔らかく紡がれる。それをやや篭らせるこれまた柔らかいマフラーをそっと引っ張ると、彼は首元に忍び込んだ冷たい空気に首を竦める。
 それでも動きを遮られないのをいい事に、快斗は少し背伸びしてマフラーをも奪う。
 手触りの良い手袋は無造作にポケットに押し込んで、マフラーは自らの首にぐるぐると巻きつける。風を遮る為、というよりは不意に包まれる彼の残り香目当ての悪戯に、気付いていたかどうだか。
 タートルネックのセーターがトレンチコートから出ているが、それでも冷気の染み込みは防げなかったのだろう、肩口が強張って眉間に一本シワが刻まれる。
 快斗の家の間近まで、彼は車で乗り付けなかった。いないと言ってあったから、少し離れた場所で車を降りて恐らく歩いて快斗の家まで来てそのまま引き返すつもりだったのだろう。会えないのを承知でそれでも足を運んで。
 想像がついたから、先回りして快斗は家から少し離れた四つ角で待ち伏せた。
 時間が凡そしか予測がつかなかったのは致し方のない事だ。
「大体都合がついたのならついたと連絡をくれればいいでしょう」
 声のトーンも少し落ちて、不機嫌な探偵の出来上がりまで後一歩。
 指先を伸ばす。
「そうすれば、すぐに迎えを、」
 手袋をしないままだった指先はじんじんとする位に冷え切っている。
 温かさを失っていない彼の指先は包まれていた手袋のおかげ。悲鳴を上げるかな、と悪戯心で両手触れ合わせた瞬間声を途切れさせた彼は、捕まえた筈の指先を慌てて引き抜いた。
「あ……、」
 呆気なく、逃げた両手。喪失感に呆然と見上げる視線の先。
「君って人は……ッ!」
 唸るように、声。
 怒らせたか、と揺らいだ視線も気付いた彼に握り直されて顔の高さまで持ち上げられた両手に向かう。すっぽりと握り込まれた両手に吐きかけられる息。
 ふわり、包まれる温もり。
「すっかり冷え切っているじゃないですか。一体、いつからここに?」
 応えるつもりのない質問には、笑顔だけで返す。包み込まれた両手からじんわり染み渡る、ほんのりとした温かさはしんしんと染みる冷気すらもう感じさせない。
 もどかしげに抱き寄せられて、腕の中。包まれた香りはマフラーの比でなく。ほっ、っと自然に零れた吐息と共に強張っていた肩からも力が抜けるのが分かる。
「本当に君ときたら」
 快斗の柔らかい笑みに、彼も返事を得るを諦めたか抱擁をやや強めて、吐息一つ。
 遠く響く、百八つ目の、……鐘の音。
 新たに訪れた刻を告げる、音。
 気付いた彼が腕を緩めた隙、伸び上がった快斗はキスを浚う。
 目を見開いて見返す琥珀の瞳。
「新年、おめでと」
 ずっと声を出さなかったのは、この声を聞いた瞬間に甘い雰囲気は霧散するのは分かっていたから。それでも快斗は彼に新年の挨拶をすると決めていたのだ。その後はどうなるであれ。
 結果はやはり予想通り。
「!」
 風邪のせいでがらがらの声に二度驚いた探偵に引きずられ、強制連行先は何故か自宅より遠い、彼の部屋。
 それはそれで願ったり叶ったりと満足の笑みを浮かべたのも、勿論、内緒。
 新年を快斗は彼の傍で迎える事となる。


                ・END・

◆サイト日記→『mixture』より◆白×快◆


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