お約束・怪盗と探偵の日常・



 お約束 

 月夜の真夜中。
 他人の家を訪問するには非常識な時間帯に、諸手をあげて歓迎してくれる筈のない相手と知っていながら、彼はそちらへと足を向けた。
 広い洋館の中、もっとも名探偵の出現率の高い書斎、うたたねをしている姿を時々見かけるリビング、そしてまだ入った事のない寝室と3カ所目で目当ての人物を発見する。
 ベランダはない。
 けれどベットを丁度覗き込める位置にある窓に怪盗は静かに降り立った。白いマントがひらりと翻り白いシルエットが優雅に動く。
 かかっている鍵をあっさりと突破し、そのままこっそり侵入する場合とおおっぴらに突入する場合とリアクションを想像するだけで気分は高揚する。鼻歌でも歌い出したい気分で、それでも家主の意向を尊重するべく窓を軽くノックすると、ガラスの向こうの家主サンはむっくりと身を起こした。
 こんな時間だが、既におなじみの深夜訪問に今更驚きの表情もない。
 ずっと起きていたのか気配で起きたのか、ノックで起こされたのか。その眼差しからは判断し難い。
 どこか気だるげに歩み寄って来る姿を見てとって、怪盗は許可を得ずに二人を隔てる無粋なガラス板を押しやり窓枠に腰掛けた。
 「こんばんは」
 にっこり笑って右手を閃かせ現れた白バラを差し出し、探偵が手を伸ばすのを確認してからその視線の死角で左手を3回閃かせて、残っていたバラを全てその腕に出現させる。
 「どーぞ。サラダにでもバラ風呂にでも」
 一瞬目を見開いて、それから探偵は呆れたように腕の中の花を見遣った。
 「仕事の残りモンじゃないだろうな?」
 かなり疑わしげな問いかけに、さあ、と曖昧な笑顔を返す。
 どちらにしてもKIDの扮装のままである以上、答えはおしてしるべし、である。
 が。
 
「ストップ!」
 そのまま室内に降り立とうとするのを押しとどめる絶妙なタイミングで目前5cmの位置に突き出された掌に、KIDは動きを停止させられた。
 「…入ってはいけませんか?」
 不敵に笑う怪盗に、にっこり笑い返した新一はいささかの躊躇いもなく、その片脚を掴みあげる。
 いかなバランス感覚に恵まれた怪盗も、これには度肝を抜かれた。窓枠についた両手で必死に窓の外にひっくり返るのをこらえる。
「め、名探偵…?」
「バーロォ。ここをどこだと思ってんだ?」
 「名探偵の寝室。わ、待って待って待って!」
 即答して、今度はもう片方の足も捕らえられて慌てて叫ぶ。このままじゃブランコで足を上げ過ぎて、挙げ句両手を放し頭から落下するも同然だ。
しかも始末の悪い事に、ここはブランコでなく洋館の2階の窓枠である。背中に仕込んだグライダーが正規の動きをする前に地面とキス出来てしまう近未来に、KIDはひきつった笑顔で思いつくまま闇雲に………謝った。
 「スイマセン、ゴメンナサイ、モーシワケアリマセッ…」
 「おい」
 不機嫌な声にあっさりさえぎられる。
 人質ならぬ足質か、片方の足は掴み上げられ、更にもう片方の足首も捕獲されたみっともない格好で、平成のアルセーヌ・ルパンは素直にハイと応える。
 「次やったら本気で落とす。覚えとけよ」
 名探偵は両手を放すとKIDの額を人差し指でつまはじいた。

 

「ここは、土足厳禁」

 

 その後、満月の夜には神妙な顔で窓枠の上で靴を脱ぐ怪盗の姿が、見られたとかみられなかったとか。

・END・

◆2/4の奇蹟掲載・快(K)×新(コ)◆


HOME

コナンTOP
通販案内

  1. ここは、いちコナンファンが勝手に作っているページで、講談社・原作者等とは一切関係ありません。
  2. 2号が霜月弥生の許可の元勝手に作ってるので誤りがあったら申し訳ありません。詳細はメールで必ずお問い合わせ下さい。